ANAのマイレージ制度が変更されます。要点はいくつかありますが、利用者にとって影響が大きいのは、上級クラスの必要マイル数の増加と、少数マイル利用の選択肢の増加です。背景にはマイレージ制度があまり使われなくなってきたことへのANAなりの危機感があるようです。
2015年ANAマイレージ制度変更
マイレージの制度変更はこれまでも頻繁にあり、その都度ANAのホームページで告知されてきました。ただ、航空会社の告知は「利用者の有利変更ばかりが大きくPRされ、不利益変更はさりげなく入れ込まれる」という傾向があるので、変更内容の全容を把握するのはなかなか大変です。
以下に、筆者なりの解釈でANAマイレージ制度変更の概要をまとめました。間違っている点や過不足があるかもしれませんので、その場合はご容赦ください。実施時期は、内容により異なりますが、おおむね4月中です。
【国際線】
・国際線特典航空券の必要マイルチャートが「ゾーン制」に変更。
・ファーストクラス航空券の必要マイル数増。
・スターアライアンス特典航空券の必要マイル数を、ANAレギュラーシーズンと同じに。
・日本発のANA便特典航空券は途中降機が不可に。
【国内線】
・国内線特典航空券の片道利用の必要マイル数を往復の半分に。
【バニラエア】
・バニラエア国際線特典航空券の必要マイル数を減らす。
・バニラエア国内線特典航空券の片道利用の必要マイル数を往復の半分に。
【その他】
・1マイルからANA SKYコインへ変換可能に。
・ANAカードの10マイルコース(1000円=10マイルの積算)の年会費を年2,160円から5,400円に値上げ。
上級クラスの必要マイル数が増加
まず国際線ですが、マイルチャートの変更と同時に、必要マイル数の増減があります。エコノミークラスでは大きな変更はありませんが、ビジネスクラスやファーストクラスといった上級クラスを利用する場合には、必要マイル数が増えることが多くなります。
たとえば、人気のある日本~ヨーロッパ線の場合、レギュラーシーズンのビジネスクラスの必要マイル数が85,000から90,000になり、ファーストクラスは120,000が165,000になります。ビジネスクラスはエリアによっては必要マイルが減るケースもありますが、ファーストクラスは増えてばかりです。
ここに、今回のマイレージ制度変更の狙いが一つあるとみられます。すなわち、ファーストクラスの特典航空券のハードルを上げるということです。マイレージの特典としてもっともお得とされるファーストクラス特典航空券の「コスパを悪くする」のが目的といえるでしょう。
国内線は使いやすく
一方、国内線では、上記の通り特典航空券の片道が往復の半分のマイル数で取れるようになりますが、往復の必要マイル数は変わりません。これまで片道特典航空券は往復の75%のマイル数が必要だったので割にあわなかったのですが、今後は片道だけでも躊躇なく使えるようになるでしょう。国内線特典航空券では、利用者にとっての不利益変更はないようで、使いやすくなります。
バニラエアに関しても、特典航空券の片道利用が往復の半分のマイルですむようになり、たとえば成田~札幌なら片道5,000マイルで利用できるようになります。さらに国際線では成田~台北や香港が往復20,000マイルで利用できるようになります。これは、ANA本体のレギュラーシーズンの必要マイル数と同じですが、利用者にとっての不利益変更はないようです。
ANA SKYコインは大量交換を優遇
次に、1マイルからANA SKYコインに替えられる、という制度変更です。交換レートは1マイル=1コイン=1円が原則ですが、10,000マイル=12,000コイン、20,000マイル=24,000コイン(ANAカード会員は26,000コイン)などと、大量交換にはプレミアムを付けて優遇しています。
この制度変更自体に利用者の不利益はありません。ただし、ANA SKYコインは航空券を買う以外にさしたる使い道はありません。また、クレジットカードのショッピングでマイルを獲得する際の標準的換算率が100円=0.5マイルであることを考えると、ANA SKYコインの交換レートが高いとはいえません(標準的なクレジットカードのポイント還元率は100円で1円)。
少数マイルを使いやすくする
概要はざっとこんな感じです。今回のANAのマイレージ制度改定は、決して「改悪」ではありません。少数マイルを使いやすくすることに主眼が置かれていて、マイレージ会員にできるだけマイルを使ってもらおう、という配慮すら感じられます。
こうした配慮を行った背景として、マイレージ会員のほとんどがライトユーザーである、という点があるようです。ライトユーザーが多いにもかかわらず、これまでの交換特典はほとんどが10,000マイルからで、国内線を年に1、2度利用する程度の客には手が届かない内容でした。
ANAのマイレージ会員はすでに2,760万口座に達しているそうですが、その大半を占めるライトユーザーのモチベーションを維持できる内容になっていなかった、ということへの反省が、今回の制度変更へ至った理由とみられます。見方を変えれば、国民5人に1人が会員になってしまった以上、新規顧客をこれから発掘するのが難しいので既存顧客を活用しよう、というのが今回のマイレージ制度改定のテーマと推測できます。
陸マイラーには厳しい内容
そのかわりとして、ヘビーユーザーへのサービスを削っています。マイレージ特典の原資は有限なので、どこかを手厚くしたらどこかを削らなければならないのでしょう。途中降機の制限などはライトユーザーにはほぼ無縁の話ですが、マイルを使い尽くす達人には不利な変更です。上には書いていませんが、日本国内の利用区間数にも新たな制限が設けられています。
今回は主にマイルの交換に関しての変更ですが、ANAはマイルの積算に関しても、2013年に大幅に変更し割引航空券での積算率を下げています。今回は上述の通りANAカードの10マイルコース手数料を値上げしており、「たまに割引航空券でANAに乗る陸マイラー」に対しての不利益変更が続いています。上級クラス航空券を目指す陸マイラーにとっては、貯めるためのコストが増え、使う際のマイル数が多くなっているわけです。
魅力的な制度になったか?
今回の改定で、ANAとしては「ライトユーザー重視、陸マイラー抑制」の方針をはっきりさせたといえそうです。全体的にみて、この改定にはたしかに合理的な側面があります。しかし、制度として、以前より魅力的になったでしょうか。
国内線の特典航空券が取りやすくなったといっても、片道航空券が取れるようになっただけで、必要マイル数の引き下げがあったわけではありません。しかも、国内線の特典航空券は、割引航空券やLCCが広まった今となっては、コスパがよいとはいえません。
また、ANA SKYコインへの変換は、ポイント制度としてみればそれほどお得ではありません。一方、国際線上級クラス航空券は遠い存在になり、日常的にビジネスクラスに乗るようなヘビーユーザー以外には手が届きにくくなっています。
マイレージ制度の曲がり角
最近はどの航空会社でも「マイルのインフレ」が生じていて、特典航空券が取りにくくなっています。さらに、国際線では高額な燃油サーチャージが別途かかったりして、すでに航空会社のマイレージ制度はかつてほど魅力的でなくなりつつあります。今回の改定は、そうした流れのなかにあるといえそうです。
今回の制度改定ではっきりしたことは、1990年代に日本でブームとなった航空会社のマイレージ制度が、一つの曲がり角に来ているということです。ANAの目指す方針は、要するに「利用者全員に相応の還元をする」というポイント制度にすぎないようにみえます。これは、クレジットカード利用によるマイル付与をベースにした「マイル経済圏」の縮小を意味するでしょう。
今後もこの方針が変わらないなら、クレジット利用で一生懸命マイルを貯める人は、徐々にいなくなっていくのではないでしょうか。それはそれで健全な気もしますが、一方で、日本のマイレージ制度の隆盛がクレジットカード利用によって支えられてきたのも事実です。それが下り坂になるということは、「マイルの時代」の終わりを感じざるをえません。