2017年3月までの航空会社別「定時運航率」「欠航率」の統計がまとまりました。日本航空、全日空の大手2社とピーチの定時率が21世紀で最低水準となる一方、スターフライヤーとスカイマークは好成績を収めました。
国土交通省の2016年度統計
航空会社の国内線の「定時運航率」と「欠航率」は、国土交通省の「特定本邦航空運送事業者に関する航空輸送サービスに係る情報」で公表されています。その最新のデータとして、2016年度(2016年4月~2017年3月)の数字がまとまりました。
ここでは、その数字をランキングにまとめて、順にみていきます。なお、統計上の「日本航空」は、日本航空、ジェイエア、10月30日以降の北海道エアシステムの合計、「全日空」は、全日本空輸、ANAウイングスの合計です。
この統計では、客席数が100または最大離陸重量が5万kgを超える航空機を使用する航空会社のみが対象ですので、小型機使用のフジドリームエアラインズやアイベックスなどは対象外です。
2016年度定時運航率ランキング
まずは、定時運航率をみてみましょう。
【定時運航率ランキング】(単位:%、カッコ内は前年)
1位 スターフライヤー 92.15 (93.50)
2位 日本航空 91.68 (93.48)
3位 スカイマーク 89.72 (89.03)
4位 全日空 89.23 (92.05)
5位 ソラシドエア 88.74 (90.49)
6位 日本トランスオーシャン 87.55 (88.79)
7位 エアドゥ 86.00 (89.80)
8位 バニラ・エア 83.02 (85.12)
9位 春秋航空日本 80.17 (91.75)
10位 ジェットスター 79.75 (79.55)
11位 ピーチ 76.75 (80.74)
平均 89.07 (91.13)
定時運航率は、出発予定時刻より15分以内に出発した便のことをいいます。「出発」とはブロックアウトした時間。つまり、機体が動き出した時間のことです。定時運航率は運航した便に対する率ですので、欠航は反映していません。
全日空がスカイマークに抜かれる
今回の統計で目を引くのは、日本航空、全日空の大手航空会社2社が、どちらも数字を悪くしたこと。ウェブ上で公開されている2000年以降の統計を調べたところ、大手2社はどちらも今回の定時運航率が最低です。つまり、21世紀で最低の水準となりました。
とくに、全日空は2000年以降の大手航空会社として初めて、定時運航率90%を割り込みました。結果として定時運航率でスカイマークに抜かれ、全体4位に転落しています。定時運航率で全日空がスカイマークを下回るのも、2000年以降初めてのことです。
そのスカイマークは、1~3月期の定時運航率を前年度の83.02%から89.62%へと大きく改善し、通年で89.72%の3位に食い込みました。スカイマークは、2016年10月に「定時性対策本部」を作って定時運航率改善に取り組んだそうですが、その成果が出たと言えそうです。
中堅航空会社では、全体首位のスターフライヤーの安定性が目を引きます。ただ、路線網が小さく、天候の荒れやすい北海道や沖縄に路線を展開してこなかったという有利性がありますので、その点は差し引いたほうがよさそう。同社は2017年7月より、夏季限定で北九州-沖縄線を開設しましたが、台風の多いこの時期に、どの程度の定時性が保てるかが注目です。
中堅航空会社で最下位となったのはエアドゥ。86.00%の定時運航率にとどまりました。10月~12月の定時運航率が81.19%に落ち込んだことが響いています。それでもLCC4社を上回っており、レガシーキャリアの面目は保ったといえそうです。
ピーチは創業以来最低
定時運航率において、LCCは低迷しています。LCC最大手のジェットスターは前年度より若干改善したものの79.75%。ピーチは前年度より約4ポイントも数字を落とし76.75%となりました。ピーチの定時運航率は、創業以来過去最低を記録しました。
76%という数字は、おおむね4回に1回は遅延する状態です。これだけ定時運航率が低いと、ビジネスユースには向きませんし、観光利用でも使いにくくならないか心配です。
大きく数字を落としたのが春秋航空日本。前年度は91.75%と大手航空会社並みの定時運航率を誇りましたが、今回は80.17%と、LCCの標準的な数字にとどまりました。7月以降に定時運航率を大きく悪化させており、8月から9月にかけて、新千歳線と関西線を相次いで就航させたので、その影響が出たとみていいでしょう。
遅延の理由は?
遅延の理由は、各社によって微妙に違いがあります。たとえばピーチの遅延理由を見てみると、2016年度の遅延便数のうち「機材繰り」を理由とするものが3,718便ありました。遅延便全体が4,867便ですので、遅延の76%が「機材繰り」という計算です。
これに比べてジェットスターは「機材繰り」による遅延は1,778便で、遅延便は全部で5,960便ですから、割合では約30%にすぎません。かわりに「その他」を理由とする遅延が4,013便もあり、率にして67%にも達しています。
ちなみに、日本航空は遅延便総数が18,743便で、そのうち「機材繰り」が13,045便(72%)、「その他」が4,333便(23%)、全日空は遅延便総数が31,061便で、「機材繰り」が9,048便(29%)、「その他」が20,943便(67%)です。
ピーチとジェットスター、日本航空と全日空でこんなに遅延理由が異なるというのは理解しがたいですが、じつは航空会社ごとの傾向は例年同じです。つまり、遅延理由の分類の仕方が航空会社によって異なり、ジェットスターや全日空は、「機材繰り」の定義が狭く、遅延理由の多くを「その他」に分類する傾向があるようです。
ただ、これでは統計の意味がないのでは、という気もしますので、全社で基準を統一してほしいところです。
2016年度欠航率ランキング
次に、欠航率も見てみましょう。
【欠航率ランキング】(単位:%、カッコ内は前年)
1位 春秋航空日本 2.86 (1.50)
2位 エアドゥ 2.09 (1.52)
3位 バニラ・エア 1.74 (0.99)
4位 ジェットスター 1.66 (1.26)
5位 日本航空 1.35 (1.17)
6位 ソラシドエア 1.33 (1.28)
7位 全日空 1.27 (1.20)
8位 スターフライヤー 0.98 (1.60)
9位 ピーチ 0.88 (0.79)
10位 日本トランスオーシャン 0.79 (1.52)
11位 スカイマーク 0.58 (0.73)
平均 1.28 (1.19)
欠航率は運航予定便数に対する欠航便の割合です。運航予定便数とは当日運航する予定だった便のことで、事前に運航を撤回する「運休」とは異なります。
欠航率は低いピーチ
欠航率は数字が大きいほど成績が悪いことを示します。ワーストは春秋航空日本で、続くエアドゥとあわせた2社が2%以上の欠航率を記録しました。春秋航空日本は路線拡大の影響とみられます。
エアドゥは定時運航率と欠航率の両方で数字を悪化させました。一般的に、欠航は「天候」理由が多く、全社平均では50%を占めています。ところがエアドゥは「機材繰り」を理由とした欠航が最も多く、欠航全体の62%に達しています。天候という不可抗力の欠航ではない点が、少し心配です。
全体的にLCCの欠航率は高めですが、そのなかでピーチの欠航率の低さ(0.88%)が目を引きます。ピーチは例年、欠航率が1%以下となっており、「遅延は多いけれど欠航は少ない航空会社」といえます。「どんなに遅れてもなるべく欠航にはしない」という、LCC的方針なのかもしれませんが。
スカイマークが好成績
もっとも欠航率が低かったのはスカイマーク。もともと欠航率の低い航空会社ですが、昨年に引き続き、「日本でもっとも欠航しにくい航空会社」となりました。0.58%という数字は、2001年の0.37%に次ぐ好成績です。
前述したとおり、スカイマークは定時運航率も改善しており、経営破綻以降、安定したフライトを提供する航空会社として再生を続けているように見受けられます。
日本トランスオーシャンの欠航率の低さも目を引きます。沖縄離島路線が多い同社は、欠航しやすい路線を多く抱えているのですが、その環境でこの欠航率の低さは特筆すべきかもしれません。
欠航の心配は無用
定時運航率首位のスターフライヤーは、欠航率でも1%以下にとどめて安定しています。また、大手航空会社2社は、定時運航率は過去最低でしたが、欠航率に大きな変動はありませんでした。日本航空と全日空には有意といえるほどの差はなく、欠航率では同水準といえます。
全社を見渡しても多くの航空会社で欠航率は2%以下に収まっていて、全社が3%以下です。天候が安定している場合の欠航率は、このおよそ半分です。となると、日本の航空会社は、LCCから大手航空会社まで、おおむね欠航に関しては心配せずに利用できる水準であるといえそうです。(鎌倉淳)