JR北海道が2015年9月期中間決算を発表しました。決算そのものについては省略しますが、気になるのは添付された「参考資料」。輸送密度1日500人/km未満の区間を「利用が少ない線区」としてピックアップしたものです。
この資料は2015年3月期決算でも掲載されましたが、その区間の「区切り方」が今回は微妙に異なり、「滝川~富良野」と「富良野~新得」が別々に公表されました。
また、「利用が少ない線区」に関してのみ、営業収支と営業係数が明らかにされています。JR北海道は不採算路線の整理を予告していますが、今回の参考資料はその選別と関係がありそうです。
2014年度の輸送密度と営業収支を公表
最近のJR北海道は、決算期ごとに発表する資料のなかで、「お客様のご利用が少ない線区」を抽出してその利用状況を公表しています。2015年3月期決算では、以下の8区間の輸送密度が掲載されました。その内容は以下の通りです
札沼線・北海道医療大学~新十津川 81
石勝線・新夕張~夕張 117
留萌線・深川~増毛 142
根室線・滝川~新得 277
日高線・苫小牧~様似 298
宗谷線・名寄~稚内 405
根室線・釧路~根室 436
釧網線・東釧路~網走 466
※2014年度の輸送密度。単位は1日1キロあたり人。
これに対し、2015年9月期中間決算では、これら8区間を10区間に分割したうえで、営業収支と営業係数を初めて公表しました。その内容は以下の通りです。左が輸送密度、右が営業係数です。
留萌線・留萌~増毛 39/4161
札沼線・北海道医療大学~新十津川 81/1909
石勝線・新夕張~夕張 117/1247
根室線・富良野~新得 155/1430
留萌線・深川~留萌 177/1316
日高線・苫小牧~様似 298/1022
宗谷線・名寄~稚内 405/543
根室線・釧路~根 室 436/441
根室線・滝川~富良野 460/827
釧網線・東釧路~網走 466/520
※2014年度の輸送密度。単位は1日1キロあたり人。日高線は1~3月の不通による代行経費などを含む。
どちらの数字も同じ2014年度の数字です。9月期決算では、3月期決算で公表した輸送密度のほか、営業収支と、それを基にした営業係数を出してきたわけです。
JR北海道プレスリリースより
留萌~増毛間がワースト
気になるのは、路線の区間の切り取り方です。こうした数字は、どの区間を切り取るかで変わるからです。
3月期決算では留萌線をひとまとめにしていますが、9月期決算では深川~留萌間と留萌~増毛間に分けて公表しています。輸送密度は留萌線全体で142ですが、その内訳は深川~留萌間が177、留萌~増毛間が39と明かされました。
留萌~増毛間は、これまでワーストとされていた札沼線の北海道医療大学~新十津川間(非電化区間)81を下回ります。つまり、留萌~増毛間がJR北海道でもっとも輸送密度が低い区間、となったわけです。
ただ、札沼線の末端部、たとえば浦臼~新十津川間で区切れば、39よりさらに低くなる可能性もあります。
ちなみに、2014年に廃止された江差線木古内~江差間は、2011年度の輸送密度が41でした。同区間の廃止を公表した2012年9月のプレスリリースには、「弊社の営業線区で最もご利用が少ない線区」と表記されています。2014年度の留萌線留萌~増毛間はそれよりも利用者が少ないわけです。
富良野~新得は輸送密度155
さて、この新しい「区切り方」で気になるのが、根室線です。3月期決算で滝川~新得間とされた区切り方が、9月期決算では「滝川~富良野」「富良野~新得」に分割されています。
輸送密度でみますと、滝川~新得間277の内訳は、滝川~富良野間が460、富良野~新得間が155となります。277は悪い数字で廃止対象になってもおかしくありませんが、460なら少しはマシです。一方、155は危機的です。
JR北海道が「ご利用の少ない線区」としてあげている各線のうち、輸送密度200未満は、留萌線留萌~増毛間、札沼線非電化区間、石勝線新夕張~夕張(夕張支線)、根室線富良野~新得間、留萌線深川~留萌間の5区間だけです。
これら「5区間」と、鵡川以南で不通になっている日高線が、当面存廃の焦点になりそうな線区といえます。留萌線留萌~増毛間については、すでにJR北海道が正式に廃止方針を示しています。
赤字額では宗谷北線が圧倒
今回JR北海道は、「利用が少ない区間」について、初めて路線別の営業収支と営業係数を明らかにしました。営業係数は国鉄時代には線区ごとに公表され、「日本一の赤字線」として美幸線が話題になったりして覚えている方もおられると思います。懐かしいですね。
営業損益では、宗谷線の名寄~稚内間(宗谷北線)が21億6100万円の赤字で、他を大きく引き離します。一方、営業係数では留萌~増毛間の4161が筆頭で、札沼線非電化区間、石勝線夕張支線、根室線富良野~新得間、留萌線深川~留萌間といった、輸送密度200未満の区間が続きます。
輸送密度200未満の「5区間」の赤字の総額は20億1100万円で、宗谷北線の赤字を下回ります。JR北海道の経営を改善するのだけが目的なら、「5区間」を廃止せずとも宗谷北線一つを廃止すればすむ、という理屈も成り立わけです。
今回切り離された滝川~富良野間は輸送密度は460で宗谷北線の405を上回り、営業損失も8億7600万円にすぎませんが、営業係数では827と「5区間」に次ぐ悪い数字です。
廃止判断に複数の基準
このように、今回のJR北海道の数値公表には、今後路線整理を進める上で、複数の尺度を用いることを示唆しているように思えます。
国鉄時代の赤字ローカル線廃止は、「利用者数」(輸送密度)だけを絶対的な基準にしましたし、そうしないと廃止が進まなかったという事情がありました。しかし、今回は、「利用者数」だけではなく、「採算」(営業損失額)や「経営効率」(営業係数)も基準にして、複数の視点で廃止区間を決める、ということなのでしょう。
「5区間」に関しては、利用者数、採算、経営効率のいずれの面からみても厳しい数字です。JR北海道としては、「どんな尺度を用いても廃止が妥当である区間」を明確にしたいのでしょう。営業収支と営業係数の公表には、そんなJR北海道の思惑が透けて見えます。(鎌倉淳)