宇都宮市が導入を計画しているLRT(次世代型路面電車)について、東京急行電鉄、広島電鉄、富山地方鉄道の3社が技術協力する方向であることが明らかになりました。下野新聞や日本経済新聞などが報じています。
技術協力の内容は、宇都宮市から委託を受けて運転士を養成したり、線路や変電所の整備について助言したりするというものです。
12kmのLRT路線計画
宇都宮市のLRTは、JR宇都宮駅東口~テクノポリス東間の約12kmを優先して整備する計画です。2016年度の着工、2019年の開業を目指しています。
宇都宮LRTの路線計画では、併用軌道が約8.5km、専用軌道が約3.5kmとなっていて、専用軌道と併用軌道が混在しています。そのため、通常の鉄道とは異なる運転技能や整備技能が必要で、宇都宮市は全国の軌道業者に技術協力を要請していました。
このうち、専用軌道の世田谷線を有する東急電鉄が、すでに運転士養成の協力について、養成を受諾したとのことです。東急は世田谷線の運転士を養成する自前の施設を持ち、年間約6人の訓練を実施しています。また、広島電鉄と富山地鉄もそれぞれ自前の養成所を有しており、いずれも運転士養成の協力について前向きに検討するようです。
画像:宇都宮市役所ホームページ内動画より
50人規模の運転士が必要
宇都宮市がLRTのため確保する必要がある運転士は、各駅停車だけの運行の場合で56人、快速を運行する場合は67人とのこと。軌道の運転士は全国的に絶対数が少なく、養成するにも運転士の国家資格をとるには長い場合で1年以上かかります。そのため、開業が4年後ならば、自社養成の運転士だけでは開業までに十分な人員を揃えることができない可能性があります。
そのため、宇都宮市は全国の軌道事業者に対し、現役の運転士の派遣も要請する方針だそうです。たとえば定年間近の運転士を宇都宮に迎えることも検討しているとのこと。とはいえ、地方の路面電車業者も運転士のやりくりは厳しそうですので、定年間近だからといってそう簡単に派遣できるかは疑問です。
派遣に応じることができるとすれば、札幌や函館といった公営の路面電車事業者くらいではないか、という気もします。いずれにせよ、50人規模の運転士確保は容易ではなさそうです。
軌道整備の技術協力も要請
運転士以外の軌道、電気施設の整備などについても、技術協力を要請するようです。
とはいうものの、こちらも技術協力に応じられるほど人員に余力のある軌道業者は少ないでしょう。余力があるとすれば、唯一の大手企業である東急電鉄くらいかもしれません。
運営主体はこれから決定
それにしても、宇都宮市のLRTは、文字通りゼロからのスタートなのですが、全長12kmという路線は国内では大きな規模です。路線長としては都電荒川線(12.2km)に匹敵し、技術協力を求める富山地鉄の富山市内軌道線(7.3km)、東急世田谷線(5.0km)よりも大規模です。
これだけの路線の運営をするにあたり、人員や技術を集めるところから始めているわけで、困難な様子がうかがえます。これから運営主体を決定するそうですが、できれば経験のある業者に担ってほしい、というのが本音かもしれません。
下野新聞によりますと、宇都宮市は、すでに民間の軌道事業者にLRT事業への参画意向を調査しており、県内外の複数の交通事業者から関心が寄せられたそうです。ただ、「県内外の交通事業者」という表現は微妙で、そもそも栃木県内に軌道事業者はいませんので、関心を寄せた企業にはバス会社も含まれているとみられます。
東急や広電が運営に関心を示したら、それで決まりそうですが、両社が運営に興味を示すかは、なんともいえません。