名鉄名古屋駅を4面4線に拡張する計画が見直されることになりました。再開発工事に応札する予定の事業者が辞退し、再開発計画そのものが再検討されることになったためです。理由は人手不足で、簡単に解決する問題ではありません。
人材確保が難しく
名古屋鉄道は、名古屋駅前で進めていた再開発計画を全面的に見直すと発表しました。解体・新築工事に応募していた事業者が、人材確保が難しいとして入札を辞退したためです。
これにより、現ビルの解体や新ビルの着工が大幅に遅れることが確実となり、同社は、竣工時期などをすべて「未定」としました。再開発計画全体が暗礁に乗り上げた形です。
2025年3月に概要発表
名鉄名古屋駅の再開発計画は、名鉄百貨店本店、近鉄百貨店名古屋店などのビルを建て替える構想です。新たなビルの地下には4面4線の駅ホームを整備する予定でした。
2025年3月に事業概要を発表し、5月に事業化が決定したばかりでした。第1期として、2033年度にオフィスやホテルなどが開業する予定で、ホーム4線化は、第2期が竣工する2040年代前半の完成を目指していました。
新駅ビルには米系の高級ホテルハイアットの「アンダーズ」が入居することも明らかにしており、事業は順調に進み始めたとみられていました。

ゼネコン側が辞退
名鉄によると、施工業者としてゼネコンの共同企業体(JV)1者が参加していましたが、11月の締め切り直前に、人材確保が難しく、施工体制をとれないことを理由として、入札辞退届が出されました。
これにより、当面の事業着手が不可能になり、計画見直しを余儀なくされたとのことです。
見直す場合、概算工事費および工事期間が当初想定を大幅に上回る見込みとなります。事業を推進する前提が大きく変わるため、名鉄は、計画そのものを再検証することに決めました。

名鉄百貨店は営業終了
解体予定の名鉄百貨店本店(本館、メンズ館)は、2026年2月末に営業を終了する予定となっています。これについて名鉄は、すでに従業員の再配置計画などが進んでいることもあり、再開発事業見直しによる営業延長はしないことも明らかにしました。
営業終了後、空きビルとして維持するのか、暫定的に何らかの用途に転用するのかは決まっていません。
一方、2026年3月に営業終了予定だった名鉄バスセンター、名鉄グランドホテル、スカイパーキングなどについては、今後の営業を未定としています。現ビルでの営業を続ける可能性も出てきました。
事業の見通しははっきりしませんが、名鉄によると、新たな計画の方向性を示すのは2026年度になる見込みです。今後も共同事業者(ゼネコン)との協議を継続するということで、ゼネコン側が事業そのものから撤退したわけではないようです。
名鉄名古屋駅の4面4線化も諦めたわけではなさそうですが、本当に実現可能なのか、可能としていつ完成するのかは、全く見通せなくなりました。
半年で想定外に
工事費の急騰や人手不足により、大規模事業が延期や中止となる事例は、名古屋に限らず全国で相次いでいます。資金や人手が潤沢とみられる東京でも、中野サンプラザや新宿駅などで、事業の見直しや完成時期の先送りが発生しています。
ただ、今回の計画について、名古屋鉄道は、事業費や工期について、「ゼネコン各社とともに相当期間をかけて検討・精査した」ともしています。
つまり、近年の事業費高騰や人手不足を織り込んだうえで、2025年3月に計画を発表したわけです。それがわずか半年あまりで、想定を超える事態に陥ったという点で、他の事例よりも衝撃的です。
人手不足が深刻なのは以前からですが、それがさらに、次の段階に移ったようにも感じられます。
改善の見込みなく
今回の事例が示しているのは、「発注先のゼネコンと協議しつつ、実現可能な計画を立てたつもりでも、半年で前提が覆る」ということです。当事者であるゼネコンですら、先を見通せない状況になっているわけです。
ゼネコン側が辞退の理由として挙げたのは、「人材確保難」です。困ったことに、人手不足が当面、改善する見込みはありません。
日本人の労働人口はこれから急速に減っていきますので、長期プロジェクトの人員確保はますます難しくなるでしょう。十分なお金を用意したとしても、人手が集まらなければ工事はできません。
外国人労働者を大量に受け入れれば改善できますが、昨今の政治状況ではそれも見通せません。さらに、円安により外国人からみた賃金が目減りしているため、優秀な労働者を集めにくくなっています。円安がさらに進めば、途中で辞めて他の国へ向かう労働者も増えていくでしょう。
鉄道新線も困難に
再開発事業だけでなく、鉄道新線も心配です。すでに着工している路線はともかく、未着工の路線は、今後事業化のハードルはますます高くなるでしょう。
話題の北陸新幹線延伸を例に取れば、小浜・京都ルートですぐに着工した場合でも、完成は早くて2050年代です。これから急速に労働人口が減る状況において、そんな先まで、計画通りに要員を確保できるのでしょうか。
着工済みの路線についても安心はできません。着手した以上、なんとしても完成を目指すでしょうが、開業までさらなる時間がかかる事例が出てくるかもしれません。(鎌倉淳)





















