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「信越ミニ新幹線」事業着手の可能性。長岡~上越妙高間、調査結果が良好で

新潟県「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」

新潟県が、県内にミニ新幹線を走らせる構想について、費用便益費などの調査結果を公表しました。4つの案のうち、もっとも数字が良好だったのは、信越線とトキ鉄の長岡~上越妙高間にミニ新幹線を整備する案でした。費用便益比が1を超える見通しが示され、事業着手の可能性が出てきました。

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高速鉄道ネットワークのあり方検討会

新潟県は、新潟市と上越地域を結ぶ鉄道の高速化を図るため、「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」を設置して、新たな高速鉄道の検討をしています。

2025年8月8日に開かれた第6回会合では、これまでに検討された4つの案について、需要予測や費用便益費の試算が示されました。

北陸新幹線上越妙高駅E7系

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4つの案

これまでの議論で、新潟市と上越地域を結ぶ鉄道高速化として検討されてきたのは、以下の4つの案です。

①信越線トキ鉄・長岡~上越妙高ミニ新幹線化
②信越線トキ鉄・長岡~糸魚川ミニ新幹線化
③信越線改良
④北越急行ミニ新幹線化

「ミニ新幹線化」とは、在来線を改軌して新幹線と直通させることをいいます。

①②は、信越線とえちごトキめき鉄道の改軌案、③は信越線を改軌しない改良案です。④は北越急行を三線軌化した上で、北陸・上越両新幹線との連絡線を建設する案です。

それぞれの案について、順にみてみましょう。

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①長岡~上越妙高ミニ新幹線化

信越線とえちごトキめき鉄道の長岡~上越妙高間83.4kmを改軌し、新幹線と直通させる案です。貨物列車を走行可能とするため、複線のうち1線だけを改軌します。直江津~上越妙高間は単線なので、三線軌化します。

実現すれば、新潟市と富山市、金沢市などが新幹線で直通できるようになります。北陸新幹線が新大阪まで延伸すれば、新潟~新大阪間の新幹線列車を設定することもできます。ただし、上越妙高駅での方向転換が必要です。

所要時間は、新潟~直江津間が1時間9分、新潟~新大阪間が3時間31分と見積もられています。

建設費は1,023億円~1,738億円。費用便益費は0.9~1.4程度となりました。概略工期は15~17年です。

信越ミニ新幹線案
新潟県「令和6年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査(主な調査内容、需要予測・費用便益比の前提条件)」 資料

 
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②長岡~糸魚川ミニ新幹線化

信越ミニ新幹線の北陸新幹線側の接続駅を糸魚川駅にする案です。上越妙高駅での方向転換という問題が解決し、直通新幹線が新潟~金沢~新大阪間を方向転換することなく走れます。

ただし、上越市の中心駅の一つである高田駅を経由できません。

また、ミニ新幹線化する区間が111.8kmと長くなります。ミニ新幹線の最高速度は130km/h程度なので、これだけ距離が長くなると、時間短縮効果は限られたものになります。長岡~糸魚川間を走る貨物列車のダイヤへの影響も大きくなります。

所要時間は、新潟~糸魚川間が1時間31分、新潟~新大阪間が3時間32分と見積もられました。

建設費は1,191億円~1,971億円と試算されました。費用便益費は0.7~1.2程度です。概略工期は19~21年です。

信越ミニ新幹線案
新潟県「令和6年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査(主な調査内容、需要予測・費用便益比の前提条件)」 資料

 
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③信越線改良

信越線改良案は、長岡~直江津間で短絡トンネルを整備し、曲線改良などをおこなうものです。要は、在来線の高速化です。長岡駅ではアプローチ線を建設し、新幹線と同一ホームで乗り継げるようにします。

在来線改良なので、新幹線とは直通できません。また、時間短縮効果も限られます。新潟県内の移動だけをみれば意味がありますが、北陸三県や関西方面へのアクセスはほとんど改善されません。

所要時間は、乗り換え時間を含めて新潟~直江津間が1時間19分、新潟~糸魚川間が1時間59分、新潟~新大阪間が3時間53分と見積もられました。

建設費は962億円~1,522億円で、費用便益費は0.1~0.2程度です。概略工期は13~15年です。

信越線改良案
新潟県「令和6年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査(主な調査内容、需要予測・費用便益比の前提条件)」 資料

 
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④ほくほく線ミニ新幹線化

北越急行ほくほく線を三線軌とする案です。それだけでは新幹線と接続できないので、上越新幹線浦佐駅付近からほくほく線までと、ほくほく線から北陸新幹線上越妙高駅まで、それぞれ連絡線を建設します。

浦佐駅からの連絡線は、上越線の浦佐~五日町間の複線のうち1線を改軌し、ほくほく線の魚沼丘陵駅につなぎます。上越妙高駅からの連絡線は、上越妙高~うらがわら間に新線を建設します。五日町~魚沼丘陵間の連絡線は約3km、上越妙高~うらがわら間の連絡線は約18kmです。

実現すれば、新潟~長岡~浦佐~十日町~上越妙高~金沢方面とつながる「ほくほく新幹線」が誕生します。

所要時間は、新潟~上越妙高間が1時間18分、新潟~新大阪間が3時間28分と見積もられました。

建設費は1,326億円~2,251億円。費用便益費は0.5~0.8程度です。概略工期は8~10年で、最も短いです。

ほくほく線ミニ新幹線案
新潟県「令和6年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査(主な調査内容、需要予測・費用便益比の前提条件)」 資料

 
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信越線ミニ新幹線化案に優位性

4案のうち、費用便益費が1を超える可能性があるのは、信越線のミニ新幹線化である①②の両案です。両案の建設費や費用便益費に大きな差はありませんが、県間流動に効果が高いのが①の上越妙高接続案、県内流動に効果が高いのが②糸魚川接続案となっています。

③の信越線改良案は、費用便益費が小さすぎるので、採用の見込みはなくなったと言っていいでしょう。

④のほくほく線のミニ新幹線化案は、建設費が最も高いわりに、便益がそれほどでもなく、費用便益費は1に届きませんでした。したがって、こちらも採用の可能性は小さくなったといえます。

新潟県ミニ新幹線化
新潟県「令和6年度 高速鉄道ネットワークのあり方に係る調査(主な調査内容、需要予測・費用便益比の前提条件)」 資料

 
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ほくほく線ミニ新幹線化案の課題

ほくほく線のミニ新幹線化案については、新線建設区間が長いので、建設費が高いのは当然としても、工事そのものへの懸念も示されています。

新線区間となる上越妙高~うらがわら間については、軟弱地盤などから整備が難航する恐れが指摘されました。また、ほくほく線の三線軌化についても、長大なスラブ軌道区間の改軌工事は前例がなく、橋梁、トンネル等の構造物改良も含め、調査が必要とされました。

便益も低いですが、柏崎駅を経由しないだけでなく、直江津駅や高田駅を経由しないことが影響しているとみられます。その結果、県内流動が減少してしまうという見通しが示されています。

ほくほく線のミニ新幹線化は、信越線の貨物列車の運行に影響を及ぼさないという大きなメリットがあります。そのため、信越線ミニ新幹線化案で、貨物列車への影響が深刻という懸念が示されれば、ほくほく線案が浮上する可能性があります。

いっぽう、信越線案で、貨物列車問題がなんとかなるのであれば、それを差し措いて、ほくほく線案が採用される理由はなさそうです。

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上越妙高接続案が軸になるか

信越線の2案のうち、優先的に検討されるのは、①の上越妙高接続案でしょう。試算の数値が最も良好だったことにくわえ、上越市街地の高田駅にミニ新幹線が乗り入れることは、沿線住民からの支持が得られやすいという優位点があります。

ミニ新幹線が上越妙高駅の新幹線ホームに乗り入れれば、直江津駅や高田駅から東京へ向かう際も、北陸新幹線との乗り換えが便利になり、利便性が高まります。

上越妙高駅は2面4線なので、新幹線側の改良工事も最小限で済みます。信越線の改軌区間も糸魚川接続案に比べて短いので、貨物列車への影響も小さくなります。

新大阪駅方面への方向転換が生じるのはデメリットですが、実際に北陸新幹線への直通列車がどれだけ走るかは未知数です。試算では、1日6往復が運行することになっていますが、そんなに需要があるのか、定かではありません。

そもそも北陸新幹線の新大阪延伸自体にメドが立っていません。当面、実現できたとしても敦賀までであり、方向転換なしにこだわって糸魚川駅でつなぐ必要は、あまりない気もします。

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事業着手の可能性

信越線ミニ新幹線化案は、建設費1,000億円規模の事業であり、そう簡単に着手できる話ではありません。しかし、数兆円規模の整備新幹線と比較すれば、ケタが一つ少なく、非現実的な金額ともいえません。

なにより、費用便益費が1を超えるメドがついたのであれば、夢物語とはいえなくなりました。

石破内閣は、2025年の「骨太の方針」で、新幹線基本計画路線を含めた幹線鉄道の高機能化を掲げていますが、信越線ミニ新幹線化は、まさに「方針」に合致します。

こうした政治的な背景を勘案すると、幹線鉄道高機能化のモデルケースとして、事業着手する可能性が出てきたとも考えられます。

今後の見通しははっきりしませんが、まずは新潟県側で案を一つに絞り、国交省やJR東西、貨物会社との協議が開始されるのではないでしょうか。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。