京成電鉄が成田空港アクセスの増強に乗り出します。押上~成田空港間に新型特急列車を導入するほか、「スカイライナー」の次世代車両を長編成化します。さらに、スカイアクセス線では、空港付近の複線化を推進する方針を明らかにしました。その全貌を詳しく解説してみましょう。
新中期経営計画を発表
京成電鉄は、新たな中期経営計画「D2プラン」を作成し、公表しました。
その大きな柱は「空港アクセス強化の推進」です。成田空港アクセスについて、「輸送力・サービスを継続的に強化」する方針を明確にしました。
背景として、成田空港の拡張があります。成田空港は2028年度末にB滑走路の延伸とC滑走路の供用開始を予定しており、航空旅客の大幅な増加が見込まれています。その後も空港機能の拡張が構想されていて、航空旅客数は現在の年間4000万人が、将来的に7500万人にまで増えると見通しています。
旅客が増えれば空港勤務の従業員も増えます。空港勤務者は現在4万人ですが、7万人に増えると見込まれています。こうした旅行者と通勤需要の増大に対応し、京成として輸送力増強を図るというわけです。
押上~成田空港間に有料特急
具体的な施策としては、押上~成田空港間に有料特急を導入します。運行開始は、C滑走路の供用開始に間に合うよう、2028年度を目指します。すでに設計に着手しています。
さらに、京成上野~成田空港間を走る「スカイライナー」についても車両更新をおこない、現在の8両編成を超える長編成化を視野に検討します。次世代「スカイライナー」の登場時期は明らかではありませんが、2030年代になりそうです。
単線区間の複線化も推進
長期的な施策としては、成田空港周辺の単線区間の複線化にも乗り出します。
成田スカイアクセス線においては、空港周辺の成田湯川~成田空港間が単線区間となっていて、運行本数が制約されています。空港アクセスの輸送力を増強するには、この単線区間を複線化し、線路容量を拡大することが必要なためです。
空港付近の複線化は永年の懸案でしたが、ついに事業化に向けて動き出すというわけです。
成田空港駅を統合・拡張
成田空港の駅機能も拡大します。現在は、空港第2ビル駅と成田空港駅の2駅がありますが、成田空港では、新旅客ターミナルの建設が予定されていて、これにあわせて両駅を統合します。
現在の空港駅では、ホームを縦列で運用しており、列車の折り返しに時間を要するという課題があります。新駅では、こうした課題も解消できる形にします。
宗吾車両基地も拡充
成田スカイアクセス線においては、他にも線路容量や線形など、施設上の課題があります。こうした課題も解決し、さらなる輸送力の増強や速達性の向上が目指します。
宗吾車両基地の拡充工事もすすめています。これも成田空港アクセスの拡充による車両増備に備えたもので、2029年3月に完成する予定です。
このほか、京成高砂駅付近の施設の改良も予定しています。輸送上のボトルネックを解消するためです。
総額8000億円の大事業
以上が、京成電鉄が新中期経営計画で示した、成田空港アクセス増強計画の概要です。
投資額は巨額で、押上~成田空港間の新型有料特急の導入に400億円、宗吾車両基地の拡充工事に470億円、次世代スカイライナー車両の導入に700億円、新旅客ターミナルにともなう駅整備に1000億円、成田空港周辺の単線区間の複線化に2000億円、その他の施策に3500億円を見込んでいます。
これらは2040年代までの長期的な投資額で、すべてを京成電鉄が負担するものではありません。とはいえ、総額は約8000億円にものぼると見込まれます。「成田空港アクセス大増強作戦」といっても差し障りないくらいの、大事業でしょう。
「押上ライナー」は29年3月登場か
当面の具体的な施策で気になるのは、押上~成田空港間の新型有料特急です。ここでは「押上ライナー」と表記しましょう。
「押上ライナー」は、2028年度の運行開始予定となっています。成田空港の新滑走路の供用開始予定が2029年3月末ですので、それにあわせて登場する可能性が高そうです。すなわち、2029年3月ダイヤ改正での運行開始が予想されます。
2029年3月に予定される滑走路増設と、それにともなう航空会社の大増便により、現行の「スカイライナー」だけでは旅客を運びきれなくなるとみて、補完的な列車として「押上ライナー」を設定する、というわけです。

なぜ押上発着?
京成上野発着でなく、押上発着としたのはなぜでしょうか。
中期経営計画によると、押上エリアには京成グループのホテルやバス路線網があり、それらとのシナジー効果と、エリア価値向上を狙ったということです。
京成は2020年から「スカイライナー」の一部列車を青砥駅に停車させています。それにより、押上方面からの有料特急需要がある程度見込めることが、確認できていたのでしょう。
押上駅には都営浅草線のほか、東武スカイツリーラインや東京メトロ半蔵門線も乗り入れており、東急田園都市線方面からの利用者も期待できます。
押上駅周辺での自社事業との関連に加え、一定の需要が見込めることから、新たな有料特急を押上発着と決めたようです。
「押上ライナー」の課題
「押上ライナー」には、課題も多そうです。まず、押上駅の狭い構内と細いホームで、特急旅客を本当に捌けるのか、という点でしょうか。
これについては、4年間で押上駅の地下ホームを拡張することは不可能ですから、現在の施設で発着させるのでしょう。中期経営計画にも、押上駅の改良は含まれていませんので、大規模な設備改良もおこなわれない見通しです。
容量面では、押上駅ホームは2面4線あり、日中時間帯の折り返し列車もありません。したがって、1線を使って特急列車を折り返すことは可能とみられます。
40分間隔の運転か
経路については、「押上ライナー」は、成田スカイアクセス線を経由する予定です。
前述したように、同線には単線区間があり、線路容量には限りがあります。高い速達性を求められる有料特急を、ダイヤにどう入れ込むのかは気になるところです。
「押上ライナー」への総投資額は400億円なので、次世代「スカイライナー」700億円の6割程度です。となると、編成数も「スカイライナー」の半分程度が見込まれますので、運転本数も「スカイライナー」の半分程度になるでしょう。
現在のダイヤに即していえば、「スカイライナー」が20分間隔なので、「押上ライナー」は40分間隔での運転となる可能性が高そうです。料金不要のアクセス特急とあわせて20分間隔になる形でしょうか。
見方を変えれば、「アクセス特急の運転本数を倍増し、倍増分を有料化する」と捉えることもできます。混雑が問題になっているアクセス特急の増発は、当面、実現しないとみられます。
途中停車駅候補
「押上ライナー」は、青砥や新鎌ケ谷などの途中駅にも停車する可能性が高いでしょう。押上発着だけでは利用者が少ないため、途中駅からの旅客を拾うダイヤになりそうです。
現在、一部の「スカイライナー」が両駅に停車していますが、「押上ライナー」運行開始後は、途中駅停車を肩代わりするということです。
「押上ライナー」では、さらに停車駅を増やすかもしれません。東松戸や千葉ニュータウン中央などが、停車駅の候補に挙がっても不思議ではありません。
都営浅草線乗り入れは?
「押上ライナー」には、特急の都営浅草線乗り入れも期待したいところですが、京成は、現時点で浅草線乗り入れを想定していないことを明らかにしています。
ただ、これは現時点の話で、将来的に乗り入れる可能性がないとはいえません。
2029年までには、直通先の京急で、品川駅の2面4線化や、羽田空港駅の引き上げ線が完成している予定です。それにより、京急線方面でダイヤの柔軟性を高められますので、有料特急を入れ込む余地ができるかもしれません。
次世代スカイライナーはどうなる?
次世代スカイライナーについては、1編成あたりの車両数を増やすことが、中期経営計画に明記されたのが注目点です。現在は8両編成ですが、これを9両以上に増やすということです。
現在のスカイライナーの車体は、中間車が19mです。いっぽう、京成線のホームは18m車10両編成に対応しています。そのため、スカイライナーが既設のホーム延長の範囲内で輸送力の最大化を目指すのであれば、次世代車を18m車の10両編成にする可能性がありそうです。
スカイライナーのダイヤについては、「押上ライナー」の登場を受けて、青砥や新鎌ケ谷停車がなくなる可能性が高そうです。日暮里~空港間でノンストップに戻るのではないか、ということです。
できる限りの手を打って
成田空港会社では、空港拡張にあわせて、『「新しい成田空港』構想とりまとめ 2.0』という計画を発表しています。今回の京成の「成田空港アクセス拡充計画」は、このとりまとめの方向性に沿ったものです。
ただ、「とりまとめ」では、「都心側の鉄道施設の容量拡張」も指摘しているのですが、これについては、京成はほとんどゼロ回答です。空港輸送に対応する形の、都心側の輸送力増強策は示されておらず、押上駅を新たな都心側の特急ターミナルすることが示されただけです。
現実問題として、京成電鉄の路線網の範囲内で、都心側の容量を拡張するのはほぼ不可能です。したがって、京成の計画は、現時点でできうる限りの手を打つ姿勢を示したといえるでしょう。(鎌倉淳)