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東武宇都宮線は「全面LRT化」されるか。新栃木~芳賀、直通運転検討へへ

協議会が初会合

宇都宮LRT(ライトライン)の東武宇都宮線への乗り入れに関する検討が開始されました。先行きは不透明ですが、東武鉄道が協議のテーブルについたことで、直通運転実現へ向け動き出す可能性が出てきました。

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広域公共交通協議会

栃木県と宇都宮市、東武鉄道の3者は、2025年3月25日に「ライトラインのJR宇都宮駅西側延伸と連携した広域公共交通協議会」の第1回会合を開催しました。宇都宮LRT(ライトライン)と東武宇都宮線との連携について検討する会議です。

会議の冒頭で、北村一郎副知事が「LRTの効果を県内各地に波及させるためにも、LRTと東武宇都宮線との交通結節機能の強化が重要と考えて、具体的な検討を進めていく必要がある」と述べました。

宇都宮ライトレール

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段階的に進める

協議会は非公開でおこなわれましたが、報道各社によれば、協議項目は以下の3つです。

・LRTの西側延伸にあわせた東武宇都宮駅との乗り継ぎ利便性の向上
・東武宇都宮駅周辺のまちづくりと連携した交通結節機能の強化
・LRTの東武宇都宮線への乗り入れ

つまり、LRTと東武宇都宮線の直通運転ありきの会議ではありません。乗り入れを将来的な目標としつつ、当面は、LRTと東武線の乗り継ぎ利便性の向上や、東武宇都宮駅の交通結節機能強化を段階的に進めていくということです。

とはいえ、東武鉄道と県・市が、「乗り入れ検討」で合意したことは確かで、直通運転の実現可能性が出てきたことになります。

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馬車道通りの利便性向上

宇都宮LRTは、JR宇都宮駅西側への延伸を計画していて、2030年の開業を目指しています。今回設置された協議会は、LRT西側延伸開業を見据えたものです。

協議会では、まず、西側にできる新停留所と、東武宇都宮駅の乗り継ぎ利便性の向上を話し合うことになるのでしょう。距離は200mほど離れていて、「馬車道通り」で繋がっています。馬車道通りでの乗り換えを便利にしようという議論です。


 

東武宇都宮駅周辺再開発

ただし、それは入口の議論にすぎず、焦点となりそうなのは東武宇都宮駅周辺の再開発です。

東武宇都宮駅のある東武百貨店は1959年築で、建て替えのタイミングを迎えています。建て替えにあわせた再開発構想があり、東武鉄道も2024年4月の決算資料で「東武宇都宮駅周辺の開発検討」を明記しています。

駅の建て替えと周辺再開発により、交通結節機能の強化を図ることが議論の中心となるでしょう。

線路を路面へ

LRTの東武宇都宮線乗り入れは、こうした議論の延長線上にあります。

実際に乗り入れをする場合は、東武宇都宮駅建て替えのタイミングで、新たなホームを設置し、線路を路面へと伸ばすことになります。

乗り入れしない場合でも、駅とLRT乗り場を近づけるなどして、周辺エリアの再開発とあわせて、乗り換えを便利にしようという目論見です。

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経済同友会も提言

直通乗り入れする場合の構想図については、栃木県経済同友会が『トチギの未来夢計画』として2017年にまとめた提言書のなかに示されています。

この図によれば、東武宇都宮駅から線路を延伸して、馬車道通り(トランジットモール)上に軌道を敷設し、LRTに乗り入れられるようにします。

栃木県経済同友会『トチギの未来夢計画』
画像:栃木県経済同友会『トチギの未来夢計画』

 

この形態を実現するには、東武宇都宮駅のビル(東武百貨店)の建て替えが不可欠ですが、前述のように、タイミング的には建て替えの時期であり、荒唐無稽な夢物語とはいえません。

新栃木までの直通視野に

朝日新聞2025年1月1日 付に掲載された福田富一・栃木県知事へのインタビューで、知事はLRTと東武宇都宮線との連携について、以下の5つの可能性に言及しています。

①東武車両のLRT化
②東武へのLRTの乗り入れ
③LRTが東武宇都宮駅に乗り入れて同駅で乗り換え
④同駅とLRTの最寄り駅をつなぐ動く歩道の設置
⑤何もしない(徒歩で移動)

知事が狙うのは①または②で、①は東武宇都宮線の全面的なLRT化を意味します。②は東武宇都宮線にLRT向けホームを設けて、鉄道線車両を残しつつLRTが乗り入れるといった対応を意味しています。

朝日新聞のインタビューで、福田知事は「LRTの東武乗り入れができれば芳賀から新栃木まで乗り換え無しで行ける。電圧などの問題などはあるが、東武宇都宮線をどう生かすかが前提と考えている。東武の車両がLRTの路線に入って来ることは構造的にありえない」と述べています。

東武宇都宮線と宇都宮LRTは、軌間は同じですが電圧は異なります。ドアの高さや車両限界も異なります。知事は、こうした違いを理解した上で、芳賀から新栃木までの直通運転を視野に入れていることがうかがえます。

宇都宮市内に限った直通運転ではなく、東武宇都宮線全線のLRT化です。当然、東武宇都宮駅の建て替えが前提になります。

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東武にも検討余地

東武宇都宮線の利用者は、1990年に1日約2.5万人でしたが、2021年度には9800人程度に落ち込んでいます。人口減少にともない、今後も利用者の減少は避けられそうにありません。東武鉄道としてもテコ入れを考えたい時期でしょうから、LRT乗り入れを検討することにしたのでしょう。

現在の東武宇都宮線は、都内との直通列車は走っていませんので、宇都宮線を切り離してLRT化しても、運行面で大きな問題もなさそうです。

問題は費用負担です。当然、栃木県や宇都宮市が多額の費用負担をするのでしょうが、東武鉄道も応分の負担をしなければなりません。それだけの価値があるか、直通によるデメリットはないかなどを、東武としては慎重に検討することになりそうです。

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国交省も後押し?

近年の制度改定で、鉄道事業の再構築に国交省から多額の補助金が出るようになりました。そのため、こうした事業の費用面のハードルは、以前よりは低くなりました。国交省としても、地域交通改革のモデルケースとして推進したい事業とみられ、後押しをしそうです。

いずれにしろ、宇都宮LRTの東武鉄道の乗り入れが、現実的な政策課題として検討される段階に至ったことは、大きな進展でしょう。全国の地方鉄道のあり方にも影響を及ぼす可能性がありそうです。(鎌倉淳)

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