エイトライナー、メトロセブンの2023年度の調査結果が明らかになりました。システムや導入空間について検討がおこなわれ、スマートリニアメトロを中心に、区間により地下と高架での整備する方向性になりそうです。
環八・環七鉄道
エイトライナーとメトロセブンは、東京都心から約10km圏を走る環状鉄道計画です。エイトライナーが「環状8号」、メトロセブンが「環状7号」という道路に沿って走り、両線は赤羽で接続します。導入空間の道路が異なるため「エイト」と「セブン」と名称が分かれていますが、現在は「区部周辺部環状交通」として、一体的に調査が進められています。
詳細ルートは決まっていませんが、過去の調査でのエイトライナーのルート案は、田園調布(東急東横線)から二子玉川(東急田園都市線)、千歳船橋西(小田急線)、八幡山(京王線)、高井戸(京王井の頭線)、荻窪(JR中央線)、井荻(西武新宿線)、練馬高野台(西武池袋線)、練馬春日町(都営大江戸線)、平和台(メトロ有楽町線)、東武練馬東(東武東上線)、志村三丁目(都営三田線)を経て、赤羽(JR東北線)に至ります。
メトロセブンは、赤羽から江北陸橋(日暮里舎人ライナー)、西新井(東武伊勢崎線)、六町(つくばエクスプレス)、亀有(JR常磐線)、青砥(京成本線)、東新小岩(JR総武線)、一之江(都営新宿線)、葛西(メトロ東西線)を経て葛西臨海公園(JR京葉線)に至ります。
ルートには未決定の部分が含まれますが、両路線をあわせると、約60kmに達する長大路線となります。
中量軌道の検討
エイトライナー・メトロセブンは、2016年に公表された交通政策審議会答申198号で「中量軌道等の導入や整備効果の高い区間の優先整備など整備方策について、検討が行われることを期待」と記されました。
これを受け、沿線自治体ではスマートリニアメトロ、新交通システム(AGT)、モノレール、LRT、BRTといった中量軌道システムの導入について調査を進めています。
調査は毎年おこなわれていますが、このほど、2023年度の調査結果が明らかになりましたので、その内容をみてみましょう。
総事業費の比較
まずは、導入システムの総事業費の比較です。今回の調査対象は、答申にも記された中量軌道(輸送機関)に絞られています。
総事業費でみると、スマートリニアメトロが8133~9823億円、モノレールが1兆5379億円~1兆8475 億円、新交通システムが1兆3931億~1兆6816億円、LRTが3110億円、BRTが1230億円となっています。
道路上の空間を使うLRT、BRTが安く、次にスマートリニアメトロです。モノレールやAGTは高めです。
地上か地下か
導入空間は、地下および地上が検討されています。
建設しやすいのは、いうまでもなく地下空間です。環八、環七とも都内の主要幹線ですが、地下に作るなら道路構成の変更をする必要がなく、用地買収も基本的には不要です。
いっぽう、地平空間や高架空間に鉄軌道を作るとなると、道路の拡幅による用地買収や道路空間の構成変更が必要となるため、実現性が低くなります。
ただし、メトロセブン区間は、道路の幅員が広く確保されている区間が多いため、高架空間でも成立しやすいといえます。また、葛飾区から江戸川区内にかけては海抜ゼロメートル未満のエリアも含むことから、防災面を考慮すれば、高架空間に優位性がありそうです。
システムの性能比較
中量輸送機関の導入システムの性能を比較すると、輸送力ではスマートリニアメトロ、モノレール、AGTに大差はありません。速度はスマートリニアメトロが優れています。
AGTは最小曲線半径が小さいのがメリットでしょう。
LRTとBRTは、最急勾配で優れていますが、輸送力はだいぶ小さくなります。
エイトライナー区間の需要予測が大きく
では、どの程度の輸送力が必要なのでしょうか。エイトライナー・メトロセブンは、おおむね都心から10km圏を走りますが、想定利用者数は区間により異なります。
需要予測結果では、おおざっぱにはエイトライナー区間のほうがメトロセブン区間と比較して多くなっています。
とくに、世田谷区・杉並区あたりでは1日70,000人以上の利用者を見込んでいて、報告書では「特に二子玉川駅~練馬高野台駅間の断面交通量が多い」と記しています。
いっぽうで、メトロセブン区間では、全区間にわたって50,000人以下の利用者となっています。
スマートリニアメトロを地下鉄で
これらの調査結果からいえるのは、エイトライナー、メトロセブンとも、LRTやBRTでは輸送力が不足し、スマートリニアメトロやモノレール、AGT程度の輸送力が必要になるということでしょうか。
導入コストからみれば、スマートリニアメトロに優位性があります。スマートリニアメトロは従来の地下鉄よりもシールド断面を小さくできる新システムで、導入されれば国内初となります。
導入空間は地下が基本になります。つまり、小型のリニア式地下鉄を環八と環七に通すという、シンプルな話です。ただし、メトロセブン区間の江戸川区内などでは地上(高架)での整備も検討されるでしょう。
優先順位付けも
全長約60kmに及ぶ路線のため一括着工は難しく、整備には優先順位を付けることになるでしょう。先行整備区間は、報告書に明記された「二子玉川駅~練馬高野台駅間」を軸に設定されることになりそうです。とくに、荻窪~二子玉川間は鉄道空白地帯も広いため、需要は高そうです。
ただし、先行整備区間をエイトライナーだけにすると政治的な問題になる可能性もあるでしょう。そのため、メトロセブンの利用者数の多い区間も組み込まれるかもしれません。
少し古い資料をみると、メトロセブン区間で利用者数が多いのは赤羽~西新井間です。となると、メトロセブンを含めて優先整備区間を設定するなら、二子玉川~西新井間が選ばれそうです。
また、新小岩~金町間には新金貨物線旅客化の計画がありますので、メトロセブンの亀有以南は、両計画を調整する必要がありそうです。エイトライナーの田園調布~二子玉川間は、東急大井町線と平行するので、需要予測が高くても優先順位は低くなるでしょう。
次期答申に向けて
沿線自治体が組織する促進協議会では、今後、需要予測や収支採算性、費用便益比を調査し、区間別、システム別の導入システムを検討します。さらに、優先整備区間など整備方策の検討などもおこないます。
2030年ごろには交通政策審議会の次期答申が出されますので、それに盛り込まれるよう、2029年ごろに事業計画案をとりまとめる予定です。
開業予定は見通せませんが、事業化が決まっても、実際の着手は2030年代半ばの話になりそうです。となると、実現するとしても、先行整備区間の開業は早くても2050年ごろになるでしょう。いずれにせよ数千億円から1兆円規模のプロジェクトになってしまうので、最終的に開業に至らない可能性もありそうです。(鎌倉淳)
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