イギリスの大手旅行会社トーマス・クック・グループが経営破綻しました。世界初の旅行会社と言われる老舗企業は、なぜ行き詰まったのでしょうか。
世界で最も古い旅行会社
トーマス・クックは1841年創業の、世界で最も古い近代的旅行会社です。パッケージ旅行や団体旅行の手配を手始めに、1873年に『Thomas Cook Continental Time Table』(トーマス・クック・ヨーロッパ鉄道時刻表)を発刊、1874年には、トラベラーズチェックの取り扱いも開始するなど、近代的ツーリズムを切り開いてきました。
現在も世界16カ国でホテルやリゾートを運営し、航空会社も保有、大手旅行会社として世界的に名を知られてきました。
しかし、近年はオンライン旅行会社の台頭で、インターネットを使った個人による旅行手配が一般化し、伝統的な旅行会社は世界的に苦戦。トーマス・クックも例外ではなく、経営難が続いていたそうです。
EU離脱が追い打ち
追い打ちをかけたのが、イギリスのEU離脱(ブレグジット)を巡る不透明感です。トルコなどイギリス人に人気の海外旅行先で政情不安が続いたり、ヨーロッパで記録的な熱暑が続いたりしたことなども、イギリス人の海外旅行の手控えを招き、同社の業績不振に拍車をかけました。
各社報道によりますと、同社は2019年夏に最大株主の中国投資会社、復星集団などに支援を要請し、9億ポンド(約1,200億円)の資金を確保。しかし、主要取引先銀行などが信用条件として追加で2億ポンドの資金調達を要求、交渉を重ねていたものの成立しませんでした。
英BBCの取材では「トーマス・クックは政府に2億5000万ドルの資金援助を要請していたが、政府はそれだけの公的資金を注入しても同社は数週間しかもたないと判断した」とのことです。最後は政府にも見放される形で、同社はロンドンの裁判所に破産を申請、経営破綻に至った模様です。
英政府がチャーター便
トーマス・クックのツアーでイギリスから国外を旅行している旅行者は15万人以上に及ぶといい、大手旅行会社の経営破綻の影響の大きさを物語ります。保有している航空会社が運航を停止したこともあり、全世界で約60万人の旅行客に影響するとの報道もありました。
イギリス政府は、民間航空局がチャーター機を調達し、トーマス・クックの手配で海外に出国している旅行者を全員、無料で帰国させると発表。ブレグジットで迷走する英政府ですが、この件での混乱を最小限にとどめる姿勢を示しました。
『ヨーロッパ鉄道時刻表』は譲渡済み
日本人旅行者でトーマス・クックのパッケージ・ツアーに参加している人は、それほどいないと思われます。したがって、日本人旅行者への影響は限定的とみられます。
しかし、ヨーロッパ鉄道時刻表や、トラベラーズチェック、両替などで、トーマス・クックのお世話になった人は多いでしょう。特にベテラン旅行者ほど、「あのトーマス・クックが」と衝撃を受けたのではないでしょうか。
ちなみに、『トーマス・クック・ヨーロッパ鉄道時刻表』は、1873年に創刊し、140年間刊行が続きましたが、2013年8月発売号を以て休刊しています。このとき、トーマス・クック社は出版事業そのものから撤退しました。
その後、編集部員などが新会社「ヨーロピアン・レイル・タイムテーブル社」(European Rail Timetable Limited)を設立し、トーマス・クック社から版権を譲り受け、『ヨーロッパ鉄道時刻表』の出版が継続されています。日本語版も、ダイヤモンド・ビッグ社から継続販売されています。
つまり、『ヨーロッパ鉄道時刻表』は、すでにトーマス・クック社の手を離れているため、今回の経営破綻の影響は免れそうです。(鎌倉淳)