小笠原空港を1,000m以下の滑走路長で建設する方針が固まりつつあります。東京都はフランスの航空機メーカーATRが開発中の短距離離着陸機・ATR42-600S型機の導入を検討。実現した場合、小笠原への旅はどう変わるのでしょうか。
1200m滑走路は困難に
小笠原諸島・父島の新空港計画は、州崎地区の旧日本海軍飛行場跡地付近に1,200mの滑走路を建設する案が有力でした。
しかし、1,200m滑走路を建設する場合、滑走路が二見湾側に約350m、小港側に約700mも海に突き出します。さらに、南にある中山峠付近を最大80mも切り取らなければならないことが判明。国立公園区域としては類を見ない大きな地形改変であるため、実現には疑問符が付けられていました。
そのため東京都では滑走路を1,000m以下に短縮することを検討。小池百合子都知事は、2018年6月30日に「1,000m以下の滑走路で運航可能な機材について調査・分析を指示した」と述べ、滑走路を短縮したうえで、対応できる機材を導入する方向性を明確にしました。
800m滑走路対応の新機種
小笠原空港では、50席クラスの機材の導入を目指しています。
白羽の矢が立ったのが、フランスの航空機メーカーATRが開発中のATR42-600S型機。座席数48席のターボプロップ機ATR42-600型機の短距離離着陸(STOL)性能向上型です。2017年6月に発表されたばかりの新機種で、2020年運用開始を目指しており、実現すれば、800m滑走路での離着陸が可能となります。
2018年7月12日に開かれた第7回小笠原航空路協議会では、滑走路を1,000mにした場合、離着陸時のルートを確保するために削る近くの峠の土の量を8割以上減らせると報告。滑走路が海に突き出す部分も従来案より200m短くなり、環境への負担が軽減できるとの説明がありました。
そのうえで、ATR42-600S型機を使用機材と想定し、滑走路を1,000m以下にして空港を建設するという方針が確認されました。
飛行時間2時間半
ATR42-600S型機がATR42-600型機と同性能の場合、48席で1,560kmの航続距離を有します。東京~父島の距離は約1,000kmなので、小笠原諸島へのフライトに利用できますが、無給油での往復はできません。巡航速度は約550kmと、ジェット機(約900km/h)に比べて遅いため、飛行時間は2時間半程度になりそうです。
ATR42-600Sは、800m滑走路で離着陸が可能なため、東京側は調布飛行場の発着もできます。実際に調布便が設定されるかはわかりませんが、羽田発着枠は貴重なので、小笠原への航空需要が膨らめば、調布便設定があるかもしれません。
JALが第一候補
運航する航空会社の第一候補はJALグループでしょう。
JALグループはJAC(日本エアコミューター)、RAC(琉球エアコミューター)といったコミューター航空会社を有しており、もともと離島便は得意です。さらに、JACは2017年にATR42-600型機を日本の大手航空会社で初めて導入しています。条件的には、小笠原路線を担うのはJALグループが第一候補になりそうです。
調布空港を拠点とするなら、伊豆諸島便を展開している新中央航空も候補になりそうですし、羽田~八丈島便を運航しているANAも、もちろん可能性はあるでしょう。現時点では、航空会社については何も決まっていません。
週末小笠原の旅
小笠原村の予測では、2025年における本土~小笠原間の片道流動量は年間24,215人とされています。定員48人の飛行機なら505便で運びきれる計算で、1日2便が妥当です。そのため、現時点では、小笠原空港へのフライトは1日2往復が想定されています。
つまり1日あたり片道定員は100人程度です。ただ、実際に飛行機が就航されれば、観光客は激増するでしょうから、季節によってもっと多くの航空便が設定される可能性もありそうです。
特殊な機材を使うため、運用は単純往復が基本となります。1日2往復なら一つの機材で回せますが、3往復以上ならもう1機必要となります。あまり余分な機材を持つわけにもいかないでしょうから、多くても2機で回せる1日4往復程度でしょうか。午前2便、午後2便というのが、当初の最大運航本数になるのでは、と予想します。
そうなれば、土曜日午前に父島へ行き、日曜日の夜に東京へ戻る、といった「週末小笠原の旅」ができるようになるかもしれません。
空港アクセスは?
小笠原空港のできる州崎地区から、父島中心部の大村地区までは約6km。空港バスが運行されるとして所要時間は20分程度になりそうです。これまではやや町はずれだった扇浦地区が、空港至近の新リゾートエリアとして注目されるかもしれません。
小笠原空港の建設はまだ決まっていませんし、決まったとしても完成はかなり先ですが、楽しみではあります。(鎌倉淳)