JR北海道は日ハム新球場の観客を運びきれるか。計算してみた

単純計算では10分間隔の増発が必要に

プロ野球北海道日本ハムの新球場が、北広島市に建設されます。札幌市から新球場への鉄道アクセスとして期待されているのはJR千歳線。しかし、その輸送力には不安もあります。開業後、JR北海道はプロ野球の観戦客を運びきれるのでしょうか。計算してみました。

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1万人の輸送体制構築

日本ハムの新球場は、「きたひろしま総合運動公園」に建設されます。ホテルや商業施設も備えた「ボールパーク」とする構想で、開業予定は2023年。球場の座席数は3万~3万5000人程度です。JR千歳線北広島駅から1.5kmの位置に、ボールパーク新駅の建設も検討されています。

2018年4月5日には、北広島市の上野正三市長がJR北海道の島田修社長と会談し、観客輸送の協力を要請。JR北海道は、新駅建設も含め要請を受諾し、球場の収容人員の3分の1にあたる、1万人前後の輸送体制構築を約束したということです。

この「1万人」というのは、2時間かけての輸送人員のようです。つまり、毎時5,000人をJRが運ぶことになります。

これは、実現可能な数字なのでしょうか。現在のJR千歳線の輸送力からみてみましょう。

731系

千歳線の輸送力

列車は形式や車両数により定員に違いがありますが、快速「エアポート」733系の場合、編成定員は6両で821人。現行は毎時4本運転で、1時間の輸送力は3,284人となります。

普通列車731系の場合、3両編成で435人。おおむね毎時3本運転で、1,305人。快速と普通をあわせて毎時4,589人の輸送力という計算になります。

快速「エアポート」は2020年に毎時5本運転になる予定で、これを勘案すると、快速・普通列車の合計で毎時5,410人となります。これが、新球場開業時のJR千歳線の普通・快速列車の標準的な輸送力と計算されます。

普通列車をすべて6両とすれば、定員は1,305人増えて、毎時6,715人となります。車両形式や両数、時間帯によって差はありますが、おおざっぱにいって、千歳線の快速・普通列車の輸送力は、毎時5,000~7,000人程度と計算できます。

阪神電鉄の約半分

比較のため、甲子園球場へのアクセス路線である阪神電鉄の梅田~甲子園の輸送力を見てみましょう。

阪神電鉄本線には4両編成と6両編成がありますが、普通列車の編成定員を4両580人(5700系)、優等列車の編成定員を6両778人(1000系)と仮定して計算します。すると、夕方ラッシュ時には毎時優等12本、普通6本が運転されていますので、定員ベースで毎時1万1,656人を運ぶことができます。

それに比べると、千歳線の現状の輸送力は、阪神電車の約半分といえます。

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千歳線に余力はあるか

この輸送力で、野球観戦客以外の旅客も乗せなければなりません。快速「エアポート」は空港輸送で手一杯なため、そもそも余力は少ないでしょう。ナイターの場合は、夕方ラッシュ時に重なりますので、普通列車も混雑しています。

千歳線の混雑率は、朝ラッシュ時で101%です(国交省データ、白石→苗穂)。夕ラッシュ時のデータがありませんが、朝より低いと考えて90%と仮定します。千歳線の輸送力を、簡単のため毎時6,000人とすると、通勤・通学客や空港利用客が5,400人を占めます。野球観戦客に対する余力は600人となります。

一方で、列車には定員の1.5倍くらいは詰め込めると考えると、輸送力は毎時9,000人程度になります。その場合、毎時3,600人の野球観戦客輸送ができることになります。2時間で7,000人あまりです。

つまり、乗車率150%にしても、「1万人」の観戦客を運びきれないわけです。JR北海道社長のいう「1万人の輸送体制構築」が、定員ベースの話なのか、定員以上に詰め込む前提なのかはわかりませんが、いずれにしろ、現状の快速・普通の輸送力だけでは困難です。

特急を活用する?

ところで、快速「エアポート」は、北広島駅には停車しますが、ボールパークに新駅ができたとしても、列車の性格上、通常は停まらないでしょう。とはいえ、普通列車だけでは輸送力が足りませんから、プロ野球開催時には、快速「エアポート」を臨時停車させることになりそうです。

それでも輸送力は足りませんので、特急を活用するという方法もあります。普通・快速列車がパンクしそうなタイミングに限って、特急をボールパーク新駅に停車させるのです。

JR千歳線には、毎時2本程度の特急が運転されています。たとえば、ゲーム終了後の時間帯では、「スーパー北斗」19、21号、「スーパーとかち」10号があります。

「スーパー北斗」が261系7両編成で370名、「スーパーとかち」が261系4両編成として190名。2列車合計で1時間あたり560名の定員が加算されます。これらの列車の混雑率はわかりませんが、あわせて100人程度は、野球観戦客向けに回せるかもしれません。

特急に乗るには、料金が別途かかりますが、快適に移動したい人は利用するでしょう。JRにとっては室蘭や帯広方面からの観戦客誘致にもつながりますし、増収効果も高いので、特急停車は実現するかもしれません。

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増発するしかない

ここまで列車の定員数の足し算をしてきましたが、どう考えても、現状の列車本数では「2時間で1万人の観戦客」を運ぶことはできません。JR北海道が、本当に「1万人の輸送体制構築」をするのなら、列車の増発をするしかないでしょう。

定員ベースで考えると、1万人を新たに運ぶには、733系6両編成(定員821人)で12.2本の列車が必要です。2時間で運ぶとして、毎時6本、つまり10分間隔での運転が、観戦客向けに必要になるわけです。

既存列車も活用できますので、実際に必要な本数はこれより少ないですが、千歳線は混雑路線ですので、増発は容易ではありません。

週末デーゲームの時間帯は比較的マシなものの、平日夕方は通勤列車に加えて貨物列車の本数も多く、ダイヤに余裕がありません。

17時台~18時台に上野幌~北広島間を走行する上り列車は、貨物列車含めて毎時10~11本に達します。貨物列車が札幌貨物ターミナルから千歳線に入る部分は平面交差となっていて、増発のネックになっています。

仮にダイヤに増発を盛り込ませる余地があったとしても、車両や乗務員の手配も必要になります。そう考えると、増発は簡単ではなさそうです。

ボールパーク新駅の構造は?

野球は終了時間が一定しないので、復路便(札幌行)の増発が難しくなります。どこかに増発用車両を待機させておいて、試合の終了時刻を見極めて運行させる、という細かい工夫も求められます。

そのため、可能なら、ボールパーク新駅は、2面3線など折り返し施設を備えた余裕ある作りにしたいところでしょう。ただ、自治体などによる請願駅となり予算が限られるなか、どこまで設備が作れるかは未知数です。

ちなみに、阪神電車の野球輸送を報じた東洋経済新報「阪神・甲子園駅の野球ファン輸送は『神業』だ」(2016年09月19日)によりますと、阪神電鉄では、試合のあった取材日に「往路で3本、復路で5本の臨時列車を運転」したそうです。これは本数としては多いほうで、「チケットの前売り状況などで本数を決定する」という細かい作業が行われているそうです。

復路便は「試合の進み具合はもちろん、当日の観客数や天候、そして得点差なども考慮」して、運転のタイミングを決めるとのこと。こうした工夫が、JR北海道にも求められることになりそうです。

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増収効果は?

ボールパーク新駅が、北広島駅より1.5km札幌寄りに作られた場合、札幌からの距離は20.3kmで、運賃は450円となります。新札幌~ボールパーク間は220円になりそうです。荒っぽい計算ですが、利用者平均350円として、往復700円、1万人が年間60試合利用したとして、年4億2,000万円の収入となります。

実際は毎試合1万人が利用するわけではないでしょうし、利用区間もさまざまでしょうが、プロ野球以外のイベントも行われることを考えれば、少なくとも年間5億円程度の増収は見込めるのではないでしょうか。札幌圏全体のJR線の収入は約400億円ですので、1.25%程度の増収効果になりそうです。

1万人の輸送は簡単ではない

ここまで、仮定に基づいた机上の計算なので、現実とかみ合わない点もいろいろあると思います。それでも、1万人の輸送が簡単でないことと、それなりの増収効果が得られることがわかりました。

年5億円であっても、いまのJR北海道にとっては貴重です。ボールパークが人気を博せば、年間10億円以上の増収が狙えるかもしれません。とはいえ、JR北海道が持ち出せる金額は、手堅く見込んだ収益予測の範囲内に収めなければなりません。

その範囲で、どういう施策が可能なのか。球団としては、アクセス手段としてJR千歳線のほか、5,000台規模の駐車場、地下鉄主要駅などと結ぶシャトルバスなどを想定しているそうです。

JRが担える輸送量には限界があります。さまざまな交通機関で補完し合い、利用者がストレスなくボールパークを訪問できるようにしてほしいところです。(鎌倉淳)

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