鉄道沿線別に将来の人口動態を見ていくシリーズ。今回は、日本を代表する人気居住エリアを走る東急東横線と、直通先のみなとみらい線を取り上げます。日本の人口減少の影響が及ぶのは最後になりそうなエリアで、人口と輸送量はどう変わるのでしょうか。
沿線市区の将来人口
東急東横線・横浜高速鉄道みなとみらい線の沿線自治体は、東京都渋谷区、目黒区、世田谷区、大田区、川崎市中原区、横浜市港北区、神奈川区、西区、中区で、日本を代表する人気居住地エリアといえます。この将来人口を見ることで、両線の利用者が今後どう変わるかを考えてみます。
ただし、上記自治体のうち、世田谷区、大田区は人口・面積が大きいわりに東横線沿線エリアが少ないので、今回の計算から除外します。残る渋谷区、目黒区、中原区、港北区、神奈川区、西区、中区の7区を取り上げます。
データは、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表した『日本の地域別将来推計人口』(2013年3月推計)の数字です。社人研の推計により、東横線渋谷~横浜間の自治体の将来人口を見てみましょう。
30年で人口は3%減
左から2010年と2040年の総人口です。( )内は、2010年を基準にした指数です。
渋谷区 204,492→178,755(87.4%)
目黒区 268,330→244,387(91.1%)
中原区 233,925→226,328(96.8%)
港北区 329,471→345,110(104.7%)
神奈川区 233,429→237,065(101.6%)
西区 94,867→91,601(96.6%)
中区 146,033→137,103(93.9%)
計 1,510547→1,460,349(96.7%)
東急東横線エリアでは、2010年から2040年にかけて、それほど大きな人口減少には見舞われません。横浜市内の港北区、神奈川区では微増の推計となっています。
最も人口減少が進むと予想されているのは渋谷区。出産適齢女性が少なく、高齢化が進みやすいため、人口が減りやすいと予想されているようです。
沿線の総人口では、150万人が146万人に減少します。減少率としては3%台で、ほぼ横ばいと表現していいでしょう。
生産年齢人口は8割に
つづいて、生産年齢人口(15歳~64歳)も見てみましょう。東京近郊の鉄道路線は通勤・通学で主に使われていますので、生産年齢人口の将来予想を見ることが、鉄道の利用者数の予測には適切です。
渋谷区 148,580→104,107(70.1%)
目黒区 189,758→145,465(76.7%)
中原区 171,541→139,124(81.1%)
港北区 233,463→202,062(86.5%)
神奈川区 162,360→137,038(84.4%)
西区 67,247→53,059(78.9%)
中区 99,628→76,422(76.7%)
計 1,072,577→857,277(79.9%)
生産年齢人口では、沿線全体の人口減少傾向がはっきり見て取れます。最高の港北区で86.5%。最低の渋谷区で70.1%になります。横浜市は中区が最低値で76.7%。沿線合計は79.9%と、約8割になります。
おおざっぱにいって、東横線・みなとみらい線エリアでは、2040年までの30年間で、総人口はほぼ横ばいながら、生産年齢人口は2割減ることになります。
2040年までの人口推移
では、ここで、2040年までの人口推移を5年ごとの年表形式でみてみましょう。総人口と生産年齢人口のそれぞれを掲載しておきます。( )内は2010年を基準とした指数です。
年 | 総人口 | 生産年齢人口 |
2010 | 1,510,547(100) | 1,072,577(100) |
2015 | 1,542,783(102.1) | 1,053,635(98.2) |
2020 | 1,548,235(102.5) | 1,040,048(97.0) |
2025 | 1,540,860(101.2) | 1,028,179(95.9) |
2030 | 1,523,480(100.9) | 995,117(92.8) |
2035 | 1,496,430(99.0) | 934,885(87.1) |
2040 | 1,460,349(96.7) | 857,277(79.9) |
総人口は2020年まで増加し、2030年までは2010年水準を維持します。2040年でも大きくは減りません。一方、生産年齢人口は2015年から一貫して減少し、2030年以降に急減します。
団塊ジュニアを中心とした、1960年代後半から1970年代の人口ボリュームゾーンが、生産年齢を外れ高齢者入りすることによるものです。
このことから、東急東横線でも、2030年以降に急激に利用者が減ることが予想されます。
東急東横線・みなとみらい線「輸送密度の未来年表」
さて、2014年度の鉄道統計年報によりますと、東横線の輸送人員は年間4億2959万人、みなとみらい線が7081万人です。旅客人キロから計算すると、輸送密度(1日1kmあたり人)は東横線が465,774、みなとみらい線が126,302となります。
沿線総人口減少の割合に応じて輸送密度も減少していくと仮定して、輸送密度がどう変わるか、「未来年表」にして見てみましょう。
輸送密度の基準値は2014年度、人口の基準年は2010年度で4年のギャップがありますが、それは考慮していないことをご了承ください。また、掛け数は、両線全体の生産年齢の増減率を使用しています。
年 | 東横線 | みなとみらい線 |
2020 | 451,800 | 122,512 |
2025 | 446,677 | 121,123 |
2030 | 432,238 | 117,208 |
2035 | 405,689 | 110,009 |
2040 | 372,153 | 100,915 |
※生産年齢人口の沿線平均値に比例して輸送密度が減ると仮定した推測値です。
日本を代表する高収益路線だが
この仮定では、2025年に東横線が輸送密度45万を割り込み、2030年にみなとみらい線が12万を割り込みます。とはいうものの2040年でも、東横線は37万で、十分混雑しています。みなとみらい線も10万を維持しており、もちろん鉄道経営には支障のない水準です。
そもそも東急東横線は、日本を代表する高収益の私鉄路線です。輸送密度では全私鉄路線でトップですし、JRでも東横線以上の輸送密度の区間は数えるほどしかありません。
それでも生産年齢人口に比例して輸送量が減っていくならば、30年後には利用者が2割も減ることになります。
「S-TRAIN」を投入した理由
東急東横線は、横浜市南部など沿線以外から都内へ向かう通過客を抱えています。そうしたエリアでは、より人口減少が激しいので、その影響で東横線も30年後に2割の利用者減ではとどまらない可能性もあります。一方、相鉄線との直通運転も準備中で、その流入を考慮すれば利用者はあまり減らないかもしれません。
仮に輸送量が2割減ることは、運賃収入が2割減ることを意味します。みなとみらい線を運営する横浜高速鉄道の場合、旅客運輸収入は年間約100億円ですから20億円の減収となります。2016年度決算で営業利益が16億円にすぎない同社には、厳しい数字です。
東横線とみなとみらい線では、2017年3月に「S-TRAIN」という有料座席指定列車を投入しました。西武鉄道の車両を使った運行で、実験的な意味合いもありそうな列車です。
現在の東横線の混雑を見れば、有料座席指定列車は不要な気もしますが、これから利用者がどんどん減っていくとなれば話は違います。新車は導入後30年程度は使いますので、東急としては、将来の利用者減を見据えて、有料対応できる設備の車両を自社投入する布石を打ち始めているのでしょう。(鎌倉淳)