大阪市を南北に貫く「なにわ筋線」の建設が動き出しそうです。大阪府と大阪市、JR西日本、南海電気鉄道の4者が2030年の開通を目指すことで最終調整に入りました。
驚くのは、ここへ阪急電鉄の乗り入れが計画されていること。軌間の異なる阪急が、なぜ参入を目指すのでしょうか。
北梅田~関空が最速38分
なにわ筋線は、JR大阪駅北側の再開発地区「うめきた」地下で整備中の新駅「北梅田駅(仮称)」から、なにわ筋地下を走り、JR・南海難波駅周辺までを結ぶ路線計画です。完成すれば、北梅田から関西国際空港までの所要時間が、JRで最速約40分、南海で最速38分で結ばれます。
なにわ筋線は、なかなか計画が進まない路線でした。なにわ筋に地下鉄を作るという構想は1980年代からあり、2004年の近畿地方交通審議会答申8号で「中期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」とされたものの、具体的な建設となると、採算性などが壁になり、合意が得られなかったのです。
2014年から本格協議
ところが、訪日外国人客の急増を受けて、関西空港利用者が増加すると、風向きが変わります。2014年以降、府市とJR西、南海の4者が建設に向けて本格協議を開始しました。
ただ、協議は一筋縄ではいきませんでした。読売新聞2016年10月29日付によりますと、「南海電車が大阪の玄関口である梅田や新大阪まで運行できるかが争点」になり、停滞します。
南海が梅田・新大阪乗り入れを求めるのには理由があります。なにわ筋線が完成した場合、JR特急「はるか」は、京都、新大阪、梅田、難波、天王寺という主要ターミナルを網羅する「最強の空港特急」になります。
一方の南海「ラピート」は、難波を拠点とする空港アクセス特急です。なにわ筋線開業後、「はるか」が難波に入ってくるのに対し、「ラピート」が梅田に乗り入れられないとなれば、劣勢は否めません。そのため、南海にとって、北梅田駅乗り入れは、なにわ筋線計画に加わる絶対条件でした。
北梅田駅はJR線
とはいえ、北梅田駅は、JR西日本が主体となって、「東海道線支線地下化・新駅設置」として整備を進めています。この「東海道支線の地下路線」となにわ筋線が接続するので、北梅田駅に南海が乗り入れる場合は、JRがそれを認めることが前提になります。
難波からなにわ筋線を経て梅田・新大阪への乗り入れを求める南海に対し、JRは、当初、難色を示していました。それが受け入れる姿勢に転じたことで、協議が進展します。
それでも合意には時間がかかり、朝日新聞2017年3月17日付によりますと、協議開始後も、「北梅田駅から、仮称・中之島駅までの営業権をめぐり、JR西と南海の協議が難航していた」とのことです。
ようやく、2017年3月になり、「JR西が北梅田―中之島間の南海の営業権を認め、南海がJR西に使用料を支払うことで両社が大筋合意」したことで、建設へ向け大きなハードルを越えました。
上下分離方式で建設
日本経済新聞2017年3月17日付によりますと、「南海が北梅田駅までの鉄道免許を取得し、JR西と南海の両社が新大阪~関西空港駅の間を共同運行する方向で最終調整中」とのこと。
「鉄道免許を取得」とは、南海が第二種鉄道事業者として北梅田まで乗り入れるということでしょう。「共同運行」の意味は曖昧ですが、なにわ筋線の線路を共用するという意味とみられます。
整備方式については、「新設する三セクが鉄道インフラの整備資金を負担し、鉄道会社が長期的に運行収益で返済する上下分離方式が採用される見通し」だそうです。
阪急が北梅田新線を打診
驚くのが、阪急電鉄の参入です。同紙によると、「阪急電鉄が阪急神戸線十三駅と北梅田駅をつなぐ新線構想を『なにわ筋線関連事業』として協議するよう4者に打診」したとのこと。
阪急が北梅田~十三に新線を敷設し、なにわ筋線に乗り入れる提案をしたことで、北梅田以北については、阪急を含む5社で協議する方向となりました。
阪急は十三―新大阪駅を結ぶ新路線建設も検討しており、最終的には、「北梅田~十三~新大阪」の路線建設を構想しているようです。
独立した狭軌新線に
とはいえ、阪急は標準軌、JRと南海は狭軌で、線路の幅が違います。読売新聞3月16日付によりますと、「新線の軌道はJR西、南海と同じ幅とし、専用の車両を新たに開発する見込み」とのことです。
この報道が事実なら、阪急新線は、既存路線に乗り入れない、独立した狭軌新線になります。
報道をおおざっぱにまとめると、なにわ筋線は、北梅田で分岐し、一方が十三を経て新大阪へ、一方が直接新大阪へとつながることになりそうです。南側については、JR難波付近でJR関西線につながり、新今宮付近で南海本線につながる形になります。
阪急沿線の利便性向上
それにしても、なぜ、阪急がこの計画に加わったのでしょうか。報道を読む限り、阪急側からのアプローチのようですが、阪急がなにわ筋線に乗り入れることで、どんなメリットがあるのでしょうか。
一つには、阪急沿線からの関西空港へのアクセス向上でしょう。
なにわ筋線が完成した場合、梅田エリアから関西空港へのメインルートはなにわ筋線になるとみられます。ところが、なにわ筋線の北梅田駅は、阪急梅田駅から離れていて乗り換えには不便です。
となると、阪急沿線から関西空港へのアクセスは、JRに総取りされてしまう可能性があります。しかし、十三でなにわ筋線に乗り換えることができれば、阪急沿線から関西空港へ利便性が確保されます。
また、今後成長が期待されるうめきたエリアへ、阪急の列車を乗り入れさせておきたい、という阪急側の思惑もあるでしょう。新路線は、阪急沿線からうめきたエリアへのアクセス向上に資するはずです。
南海の新大阪乗り入れ問題も関連か
もう一つの理由として、南海電鉄の折り返しに関わる事柄です。報道によると、JRは南海の北梅田駅までの営業権を認めたものの、新大阪駅乗り入れには難色を示しているようです。新大阪駅から関西空港へのアクセスは、現時点ではJRの独壇場ですので、そこに南海が参入するのを嫌がったのかもしれません。
新大阪駅に南海電車が乗り入れた場合、その車両をどう折り返すかという問題もあったとみられます。JRなにわ筋線は、新大阪駅からおおさか東線(建設中)に乗り入れる予定ですが、南海電車までおおさか東線に入れるわけにはいきません。
となると、なにわ筋線を北上してきた車両を、北梅田か、新大阪で折り返さなければならなくなります。その処理をどうするかが問題になります。
しかし、阪急が十三経由で新大阪への路線を敷けば、南海の新大阪駅乗り入れが阪急経由で実現します。南海電車の折り返しも容易になります。つまり南海にとって、阪急の北梅田駅乗り入れは渡りに船で、事前に両社の話し合いがあった可能性が高そうです。
四つ橋線延伸構想を利用
もともと、梅田エリアから十三へは、大阪市営地下鉄四つ橋線の延伸構想がありました。西梅田から北梅田を経由して十三駅に至る路線で、2004年の近畿地方交通審議会の答申で、なにわ筋線とともに「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」の一つと認定されています。
毎日新聞2017年3月17日付によりますと、「今回の阪急の新提案は、従来の案を一部変更して実現し、関空方面へのアクセスを得たい意向がある」とのことで、答申の存在が貢献していることになります。
最終的には、なにわ筋線は、JRが新大阪~北梅田~難波~天王寺へと走り、阪急・南海が新大阪~十三~北梅田~難波~新今宮へと抜ける形の、2系統になると予想されます。こういう形なら、なにわ筋線の線路は共有しながら、JR陣営と民鉄陣営で健全な競争が期待できそうです。
北梅田駅は一大ターミナルに
複雑な事情があったようですが、なにわ筋線の実現へ前進したことには意義があります。完成すれば、北梅田駅は、JR阪和線、大和路線、京都線、おおさか東線、南海本線、阪急線の各方面へとつながる、一大ターミナルとなります。
関西空港アクセスばかりが注目されますが、梅田エリアから大阪府南部へのアクセスが大きく改善されることにも意義があるでしょう。
なにわ筋エリアの住民にも、もちろんメリットはあります。大阪環状線の西半分の優等列車がなにわ筋線に移れば、環状線各駅停車の運転増が期待でき、同線快速通過駅の利便性向上にも資するでしょう。
なにわ筋線は、中之島で京阪中之島線と接続します。そのため、中之島線の活性化にも役立つでしょう。京阪エリアから関西空港へのアクセス向上も見込めそうです。
楽しみな大型路線
と、バラ色の未来を書きましたが、問題は建設費です。4000億円とも試算される巨費をどう調達するのか、課題は残るでしょう。採算性について精査が必要なのはいうまでもありません。
大阪市では、2018年度政府予算案になにわ筋線の事業費を求める予定で、全線開業を最速で2030年としています。阪急の北梅田駅乗り入れは、その後になるかもしれませんが、全体完成が楽しみな大型路線です。(鎌倉淳)