離島や過疎地への航空路線をどう維持していくか、国土交通省で議論が始まっています。運航を担う地域航空会社の経営は厳しく、国土交通省の有識者会議が「JALやANAの系列の壁を超えた協業」を促しました。
「空のローカル線」をどう維持していけばいいのでしょうか。
地域航空会社とは
国土交通省では、2016年夏より、「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」と題する有識者会議を開き、地域航空会社の経営について検討しています。その論点整理がこのほどまとまりました。
「地域航空会社」とは、30~70席程度の小型機で離島や地方路線を運営するエアラインを指します。
有識者会議の資料に掲載されているのは、JALが出資する日本エアコミューター(JAC)と北海道エアシステム(HAC)、JALが共同運航する独立系の天草エアライン(AMX)、ANAが出資するANAウイングスとオリエンタルエアブリッジ(ORC)の5社です。
このほか、JAL系の琉球エアコミューター(RAC)や大手航空会社と共同運航しない新中央航空なども「地域航空会社」に違いありませんが、今回の会議資料には掲載されていません。
5社のうち3社が営業赤字
地域航空会社のなかには、JACのように比較的規模が大きく営業利益を出している会社がある一方で、補助金頼みで運航している会社もあります。2014年度決算では、上記5社のうち、HAC、AMX、ORCの3社が営業赤字を計上しています。
しかも、離島や過疎地の人口は今後減少が予想され、利用者が増える見通しはありません。そのため、こうした「空のローカル線」をどう維持するかが、喫緊の課題になっていきています。
有識者会議では、「大手航空会社の系列にとらわれずに、各航空会社が協力して路線の維持・充実を目指すといった方向性を検討すべきではないか」などのテーマのもと、議論を重ねてきました。
競争ではなく協業を
離島・過疎地の路線では、航空会社同士の競合はありません。有識者会議の論点整理では、地域航空会社が規模拡大をすることで「費用低減や収益力の向上」を目指すべきとし、「競争ではなく協業が必要」と指摘しました。
JALとANAが協力して、離島・過疎地路線を維持すべき、という趣旨です。
最終目標は地域航空会社の経営統合とみられます。両社系列の地域航空会社を集約し、両系列のコードシェアによる共同運航を実現する、というものです。
こうした検討はすでに行われており、2016年秋には国土交通省がJAL、ANA両社に案を示したようです。ただ、現時点では、決定事項は公表されていません。
必要不可欠な交通インフラ
上記の航空会社が運航する路線は、長崎・鹿児島の離島や、北海道の道東・道北エリアの路線です。いずれもバスや船などの代替交通機関はあるものの、時間がかかりすぎるため、飛行機は必要不可欠な交通インフラといえます。
これらの「空のローカル線」は、筆者もたまに使います。とくに離島路線は、船だと時間がかかるうえに本数が少なく、東京から利用する場合は、飛行機のほうが乗り継ぎも格段に便利だからです。
たとえば東京から奥尻島へ行くとして、飛行機なら函館空港で乗り継ぐだけで済みますが、フェリーなら函館空港から江差までバスを乗り継ぎ、そこから乗船しなければならず、所要時間が全く違います。
旅行者にとっても利便性は段違いですが、住民の方にとっては「滅多に使わないけれど、ないと困る」交通手段でしょう。
島を往復するだけで5万円
利用者からみた離島・過疎地路線の問題点としては、航空運賃が高額なうえに、割引が少ないことです。
上記の函館~奥尻間では、HACの普通運賃が片道16,100円。特便割引7で11,300円です。ANAの新千歳~稚内では、普通運賃が片道24,100円、特割で17,900円もします。そして、割引運賃の座席数は限られています。
離島路線の「王様」といえば、RACが運航する大東諸島路線でしょう。那覇~南大東島間では、普通運賃が25,600円で、早割系の割引はありません。
大東諸島へは、船便は4日に1便程度しかなく、飛行機が主要交通機関なのに、島と沖縄本土を往復するだけで5万円もかかるのです(島民は離島割引で4割引)。
訪日外国人の誘客にも
このように、「ないと困るが、使うには高すぎる」のが離島・過疎地の航空路線です。そこで有識者会議では、規模を拡大して収益率を向上させる目的で、JALANAの系列を超えた協業を求めたわけです。
系列を超えた協業が行われれば、機体の効率的運用や、整備費の削減、パイロット不足への対応などに効果があるとしています。
また、国際線を持つJAL、ANA両系列でコードシェアできれば、訪日外国人観光客の誘客にもつながりやすい、という期待もあるようです。
高いユニットコスト
こうした「空のローカル線」は、路線はプロペラ機主体の小型機で運航されており、ユニットコスト(1座席キロ当たりのコスト)は、ジェット機主体の航空会社と比較して高くなっており、だいたい2~3倍もしています。
また、座席利用率も6割弱と低いうえに、離島路線では、急患など緊急の利用者に備えて、ぎりぎりまで空席を残しているなどの事情もあります。そのため、頑張っても収益性の向上には限界があるようにも感じられます。
協業で空のローカル線が抱える問題が全て解決するわけではありません。
「利用者が少ないから廃止」はできない
鉄道のローカル線は、廃止されバス転換しても利便性が損なわれることはあまりありません。バスもありますし、多くの大人はマイカーも使えます。しかし、飛行機の場合は、バスやマイカーでは速達性の面で代替できません。
離島の場合は、「船転換」してしまうと、非常に不便になるのはいうまでもありません。「利用者が少ないから廃止」という単純な図式を、地域航空に当てはめるわけにはいかないのです。
離島・過疎地をつなぐ「空のローカル線」をどう残すか。なかなか難題のようです。(鎌倉淳)