「北海道の鉄道網のあり方」報告書を読み解く(1)。JR北海道の将来像は固まったか?

JR北海道の経営問題で、北海道の鉄道ネットワークワーキングチームがまとめた報告書が提出されました。

報告書は、具体的な路線名を明示しなかったものの、宗谷、石北、根室の主要3線の路線維持を示唆する一方で、国や地域が鉄道維持に向けて負担を分け合うことを求めています。

JR北海道の将来像を決める上で、「叩き台」になるとみられる報告書です。詳しく読み解いていきましょう。

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個別線区に直接結論を出さない

この報告書は、「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について」と題され、「地域創生を支える持続可能な北海道型鉄道ネットワークの確立に向けて」との副題が付けられています。

報告書では、最初に、「全道的な観点から検討を行うものであり、個別の線区について、直接結論を出そうとするものではない」と前置きしたうえで、北海道新幹線の札幌開業が予定されている2030年頃の道内鉄道網のあり方について検討を行っています。

JR北海道報告書

鉄道路線を6つに分類

報告書では、最初にJR北海道の将来の鉄道網の将来像について、大枠を提示しています。これが報告書の最重要ポイントで、現在のJR北海道の鉄道路線を以下の6つの類型に分類して、将来の方向性を示しています。

1 札幌圏と中核都市等をつなぐ路線
2 広域観光ルートを形成する路線
3 国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線
4 広域物流ルートを形成する路線
5 地域の生活を支える路線
6 札幌市を中心とする都市圏の路線

この分類は、今後のJR北海道の鉄道網を考える上で軸になりますので、ひとつひとつ順に見ていきましょう。

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1 札幌圏と中核都市等をつなぐ路線

報告書では、「1 札幌圏と中核都市等をつなぐ路線」について、「中核都市等と札幌圏をつなぐ路線」と定義しています。

ここでの中核都市とは「北海道総合計画における都市の位置づけ」に準じています。それによると、札幌のほか、函館、旭川、帯広、釧路、北見が中核都市とされています。

さらに札幌周辺の小樽・岩見沢・室蘭に至る広域エリアと、北見・網走付近のオホーツク広域エリアを「中核都市群」としています。

北海道の中核都市

つまり、「1 札幌圏と中核都市等をつなぐ路線」とは、これらの中核都市を結ぶ路線です。函館・室蘭線(函館・室蘭~東室蘭~札幌~旭川)、石勝・根室線(南千歳~新得~釧路)、石北線(旭川~網走)を指すとみられます。

これらの路線では、「大量・高速輸送を担う公共交通機関として、地域における可能な限りの協力・支援のもと、引き続き維持されるべきである」として、明確に維持方針を示しています。

ちなみに、稚内は、中核都市に含まれていませんが、「中核都市から一番遠い“地域中心都市”」と特記されています。

北海道の中核都市

2 広域観光ルートを形成する路線

「2 広域観光ルートを形成する路線」については、「広域観光ルート」がどこを指すのか、具体的に示されていません。

報告書では、国立公園や道立公園、世界遺産などの配置を示したうえで、道内の主要宿泊地を20位まで掲載し、観光庁の広域観光周遊ルートである「日本のてっぺんきた北海道ルート」(道北エリア)、「アジアの宝悠久の自然美への道ひがし北・海・道」(道東エリア)を例示しています。

国立公園の配置

これらのエリア配置を見ると、北海道の半分くらいが「広域観光ルート」に含まれそうです。つまり、広域観光ルートを形成する路線が、どの路線を示しているのかは定かでありません。

広域観光ルートに関わる路線を広く捉えれば、上記「1」の路線に加え、函館山線、日高線、留萌線、釧網線、宗谷線が含まれそうです。狭く捉えた場合でも、釧網線は間違いなく含まれるでしょう。

示されている資料の中で興味深いのは、外国人向けフリーきっぷ「北海道レールパス」の販売実績です。2015年の販売数は2004年の16倍にも達しており、訪日外国人来道者数に比例して伸びています。

北海道レールパス販売実績

JR北海道の別の資料では、北海道レールパスは年間16億円程度の売上実績があります。JR北海道の鉄道運輸収入は685億円ですから、2%に相当します。報告書では、広域観光ルートを形成する路線が、この売上げに貢献していることを示唆しています。

報告書では、広域観光ルートを形成する路線について、「総体の利用が少なく収支状況が厳しい線区もあるが、観光客の利用だけで鉄道を維持していくことは難しいことから、地域において持続的な運行のあり方を検討する必要がある」としています。

結論としては、「地域で検討」という、やや厳しい表現になっています。

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3 国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線

「3 国境周辺地域や北方領土隣接地域」としては、「ロシア国境に近接する宗谷地域」と、「北方領土隣接地域」とを、明確に定義しています。つまり、稚内周辺と、根室周辺です。

宗谷地域については、「今後のロシア極東地域と本道とのさらなる交流拡大の可能性を踏まえ、引き続き鉄路の維持を図る必要がある」と、強い調子で存続を求めています。

北方領土隣接地域については、「元島民の高齢化が進んでおり、公共交通機関の果たす役割が重要となっている」としたうえで、「地域内の高規格幹線道路網の整備が進んでおらず、北方領土における共同経済活動等が期待される中、鉄道の役割を十分考慮する必要がある」としています。

根室地域では、「鉄道の役割を考慮」と表現しているだけで、宗谷地域に比べて、存続への要求水準が低いと言えます。つまり、報告書では、宗谷北線の存続を、花咲線の存続より優先させています。

4 広域物流ルートを形成する路線

「4 広域物流ルートを形成する路線」については、北海道において「鉄道貨物輸送の果たす役割は重要」とした一方で、「輸送実績や貨物輸送に伴う線路等鉄道施設の負担も考慮し、消費地への定時定量出荷、鮮度保持流通など、物流の効率化、最適化の観点から、トラック輸送や海上輸送も含め総合的に対策を検討する必要がある」としています。

お役所言葉の羅列で読みにくいですが、要するに「路線によってはトラックや海上輸送で間に合う」と指摘しています。

報告書には鉄道貨物運転線区が掲示され、設定列車本数によって以下のように分類されています。

・1日上下50本以上…津軽海峡線(51本)、函館・室蘭・千歳線(54本)
・1日上下10~49本…石勝・根室線帯広以西(10本)、函館線札幌~旭川間(12本)
・1日上下10本未満…室蘭東線(2本)、根室線富良野以北(2本)、同帯広~釧路間(6本)、石北線旭川~北見間(2本)

これらの数字には、臨時列車も含まれます。

貨物列車運転本数

この分類には意味がありそうです。すなわち、1日上下50本以上の線区は、貨物列車のために絶対に残さなければならない路線です。

一方で、10本未満の線区は「トラック輸送や海上輸送も含め総合的に対策を検討」に該当しそうです。つまり、室蘭東線と、富良野以北・帯広以東の根室線、石北線の貨物列車に関しては、そのためだけに路線を残す必要はないと指摘しているように読み取れます。

この「4 広域物流ルートを形成する路線」は、要するにJR貨物の負担を求めるために設定された分類に見えます。貨物列車の運行本数に応じてJR貨物に相応の負担を求め、運転本数の少ない路線に関しては、他の輸送方法も検討する、ということなのでしょう。

この項目で路線の存廃に関わるのは、「1」「3」に該当しない、室蘭東線と、富良野以北の根室線です。両区間については、「総合的に対策を検討」することになります。室蘭東線に関しては、追分以北と以南で線区を分けて考える必要があるかもしれません。

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5 地域の生活を支える路線

「5 地域の生活を支える路線」については、「利用者の大幅な減少により、収支が極めて厳しい線区」と定義しています。

これには、輸送密度が低い路線が該当するとみられます。明らかに該当するのは、輸送密度100人キロ未満の札沼北線ですが、そのほか、輸送密度2000人キロ未満の、留萌線や日高線、根室線滝川~新得間、富良野線も、「2 広域観光ルートを形成する路線」に該当しなければ、この「5」になるでしょう。

「2」であれ「5」であれ、結論は同じです。報告書では、「地域の生活を支える路線」について、「他の交通機関との連携、補完、代替なども含めた最適な地域交通のあり方について、JR北海道をはじめとする交通事業者や国、道の参画のもと、地域における検討が必要である」としています。

これもお役所言葉が長くわかりにくいですが、結論としては「地域で検討」という、やや厳しい表現になっています。

6 札幌市を中心とする都市圏の路線

最後が「6 札幌市を中心とする都市圏の路線」です。これは函館・千歳線の小樽~岩見沢・苫小牧間と札沼南線を指します。このエリアでJR北海道の鉄道運輸収入の5割以上を占めるそうです。

報告書では、「営業収入の増加を図り、道内全体の鉄道網維持に資する役割を果たしていくことが必要」としています。道内の他路線への内部補助を期待した表現と受け取れます。

さらに「利便性のさらなる向上により収益の拡大を図る必要がある」として、新千歳空港の利用者数の増加グラフを示したうえで「外国人観光客の増加に伴い、今後、更なる需要の増加が見込まれる」と書き加えています。

これは、札幌~新千歳空港間の輸送力増強を求めた表現と受け取れます。

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2030年に残す鉄道路線とは?

報告書では、路線名の明示は避けたものの、これらの分類をしたことで、2030年に残すべき鉄道網の大枠を示したといえます。

札幌中心として示すと、室蘭・函館方面、帯広・釧路・根室方面、旭川・網走方面、稚内方面です。それに、札幌圏が加わります。

これ以外の路線については、今後、「地域で検討」または「総合的に対策を検討」することを求めています。

存続方向が示された路線のうち、函館~長万部は、北海道新幹線開業時に、第三セクターに移管されることが決まっています。つまり、JR北海道が将来的に運営を続ける可能性の高い路線は、上記のうち、函館~長万部間を除いた、以下の9区間です。

・札幌~苫小牧~長万部
・東室蘭~室蘭
・南千歳~新千歳空港
・南千歳~新得~根室
・札幌~小樽
・札幌~旭川
・旭川~網走
・旭川~稚内
・札幌~北海道医療大学

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宗谷、石北、花咲の優先順位

なお、細かい表現をたどると、上記9区間のなかでも、宗谷北線、石北線、花咲線の優先順位は違います。

・石北線…大量・高速輸送を担う公共交通機関として、引き続き維持されるべきである
・宗谷北線…鉄路の維持を図る必要がある
・花咲線…鉄道の役割を十分考慮する必要がある

石北線が最優先で、次いで宗谷北線、花咲線となりそうです。

だだ、これら3路線の存続については、疑問もあります。というのも、報告書では、これらの路線の存続理由のひとつとして、北海道縦貫自動車道と、北海道横断自動車道網走線に未整備区間が残っていることを図示したうえで、「高速道路のミッシングリンクの存在」を挙げているからです。

ミッシングリンク

逆にいえば、高速道路が稚内や網走まで完全につながれば、これら鉄道の存続理由の一つが失われる、ということです。(鎌倉淳)

北海道の鉄道網のあり方」報告書を読み解く(2)に続きます。

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