2015年国勢調査の速報結果が発表されました。その数字を見ると、地方での人口減少の大きさがわかります。人口減少は、鉄道やバスなど公共交通機関の利用者減に直結します。その影響が深刻に現れつつある、北海道のローカル線の沿線人口を見てみました。
輸送密度500人キロ以下の区間
JR北海道が発表した資料によりますと、2014年度の輸送密度が1日500人キロ以下の区間は以下のとおりです。
留萌線・留萌~増毛 39
札沼線・医療大学~新十津川(札沼北線) 81
石勝線・新夕張~夕張(夕張支線) 117
根室線・富良野~新得 155
留萌線・深川~留萌 177
日高線・苫小牧~様似 298
宗谷線・名寄~稚内(宗谷北線) 405
根室線・釧路~根室(花咲線) 436
根室線・滝川~富良野 460
釧網線・東釧路~網走 466
これらの路線の沿線人口を見てみましょう。データは2015年国勢調査の速報値、( )内は5年前と比べての増減率(△は減少)です。
留萌線(深川~留萌50.1km)
深川市 21,934(△7.5%)
秩父別町 2,516(△7.8 %)
沼田町 3,183 (△11.9%)
留萌市 22,227(△9.1%)
→深川市を除く沿線人口 27,926人(557人/km)
留萌線(留萌~増毛16.7km)
留萌市 22,227(△9.1%)
増毛町 4,504(△11.3%)
→留萌市を除く沿線人口 4,504人(269人/km)
札沼北線(医療大学~新十津川47.6km)
当別町 17,290(△7.9%)
月形町 4,578(△5.8%)
浦臼町 1,985( △10.0%)
新十津川町 6,840(△5.6%)
→当別町を除く沿線人口 13,403人(281人/km)
夕張支線(新夕張~夕張16.1km)
夕張市 8,845(△19.0%)
→沿線人口 8,845人(549人/km)
根室線(滝川~富良野54.6km)
滝川市 41,209(△4.5%)
赤平市 11,097( △12.2%)
芦別市 14,686 (△11.7%)
富良野市 22,947(△5.4%)
→滝川市、富良野市を除く沿線人口 25,783人(472人/km)
根室線(富良野~新得81.7km)
富良野市 22,947(△5.4%)
南富良野町 2,555(△9.2%)
新得町 6,290(△5.5%)
→富良野市、新得町を除沿線く人口 2,555人(31人/km)
花咲線(釧路~根室135.4km)
釧路市 174,804(△3.5%)
釧路町 19,833(△3.4%)
厚岸町 9,777(△8.0%)
浜中町 6,064(△6.9%)
根室市 26,919(△7.8%)
→釧路市を除く沿線人口 62,593人(462人/km)
釧網線(東釧路~網走166.2km)
釧路市 174,804(△3.5%)
釧路町 19,833(△3.4%)
標茶町 7,740(△6.6%)
弟子屈町 7,771(△6.1%)
清里町 4,226(△7.1%)
斜里町 12,226(△6.3%)
小清水町 5,086(△5.1%)
網走市 38,966(△5.0%)
→釧路市、網走市を除く沿線人口 56,882人(342人/km)
宗谷北線(名寄~稚内183.2km)
名寄市 29,060(△5.0%)
美深町 4,659 (△10.0%)
音威子府村 832(△16.4%)
中川町 1763(△7.6%)
幌延町 2,445(△8.7%)
豊富町 4,054(△7.4%)
稚内市 36,399(△8.1%)
→名寄市を除く沿線人口 50,152人(273人/km)
5~10%の人口減少
ご覧いただければわかると思いますが、拠点都市を除いておおむね5~10%程度の人口減少です。たった5年で5%や10%も人口が減っているわけです。夕張市に至っては19%の減少。5年で2割近くも人がいなくなってしまいました。
人口減少が及ぼす問題は多岐にわたるでしょうが、鉄道の経営問題だけで考えても深刻であることがわかります。JR北海道も、この人口では経営がつらかろうことが想像できます。
宗谷北線1kmあたり沿線人口は273人
他路線との接続駅のある自治体を除いた沿線人口の数字と、路線1kmあたり人口も、記しておきました。
北海道の自治体は広いですので、単純に沿線自治体の人口がそのまま鉄道沿線の人口というわけではありませんが、一つの目安にはなると思います。
たとえば宗谷北線は、183.2kmもの距離があるのに、名寄市を除く沿線人口は5万人あまり。1kmあたり沿線人口は273人にすぎません。
浜頓別町や中頓別町を含めた宗谷管内全体の人口も67,520人(△8.1%)に過ぎず、180kmもの鉄道を支えるに十分な数とはいえません。「地方交通は地域で支えるべきか」という議論がありますが、この数字をみると、鉄道を地域だけで支えるには無理があります。
富良野~新得間は1kmあたり31人
1kmあたり沿線人口が極端に少ない区間としては、根室線富良野~新得間が挙げられます。富良野市と新得町を除く沿線自治体が南富良野町しかないのが理由で、1kmあたり31人しかいません。富良野・新得両市町の人口を含めても1kmあたり389人の沿線人口で、この区間が苦戦している理由の一つは、この人口の少なさにあるのでしょう。
鉄道の輸送密度や沿線人口を計る場合、どこを区切るかによって出てくる数字が異なります。富良野~新得間は根室線という長大路線の峠越え区間だけを切り取ったものなので、数字が低くても当然で、切り取り方への異議があるかもしれません。とはいうものの、いまとなっては富良野~新得間は、事実上、支線になっています。
根室線は、末端部の釧路~根室間(花咲線)も輸送密度が低い区間です。釧路市を除く沿線人口は62,593人とまずまずですが、釧路市に隣接する釧路町の人口を除くと42,760人となります。釧路町のある別保~根室間は126.8kmもあり、4万人超の沿線人口で支えるのは厳しいでしょう。
留萌線の輸送密度が低い理由
留萌線は留萌~増毛間の廃止が決まっていますが、深川~留萌間に関しては、深川市を除く沿線人口が 27,926人いて、1kmあたり557人です。今回取り上げたローカル線では多い方といえます。それでも輸送密度が177人キロと低いのは、バスとの競合が激しいことが理由かもしれません。
過疎地の鉄道をどうするのか、という問題に簡単な解はありません。一つ明らかなことは、このような人口の少ない地域に鉄道を運行させて採算を取ることは不可能である、という点です。しかも、人口は5年で5~10%も減っています。35年後には、全国の自治体の6割で人口が半分以下になる、という予測もあります。そうなると、さらに鉄道の維持は困難になるでしょう。
過疎地の鉄道をそれでも存続させるなら、最終的には公的資金の投入が不可欠になります。その場合でも、利用者数や輸送密度、赤字額、沿線人口、他の交通手段の利便性など、さまざまな視点で検討してほしいところです。(鎌倉淳)