四国新幹線は、大阪市から徳島県徳島市、香川県高松市、愛媛県松山市を経て大分市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
ただ、最近は、岡山から瀬戸大橋を渡って四国4県に延びる十字型ルートを「四国新幹線」と呼ぶことも多いです。この意味での四国新幹線についても、当記事でご紹介します。
四国新幹線の詳細なルートは未決定で、着工の予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
四国新幹線の概要
四国新幹線は、大阪市から徳島市、高松市、松山市を経て大分市に至る新幹線の基本計画路線です。総延長は約480kmです。
おおまかなルートとしては、大阪から淡路島を経由して大鳴門橋を経て徳島市に入ります。そこから高徳線、予讃線に沿う形で松山に進み、豊予海峡を橋またはトンネルで渡って大分市に達します。
大鳴門橋は鉄道道路併用橋となっていて、新幹線が通るルートが確保されています。明石海峡大橋は道路単独橋のため、新幹線は通れません。したがって、本州と淡路島の間には、別途トンネルを掘るなどの工事が必要になります。
四国新幹線は、1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。しかし、現在に至るまで、大鳴門橋以外で建設へ向けた動きはなく、具体的なルートや途中駅などは一切未定です。
2014年に四国4県と四国経済連合会、JR四国などによる「四国の鉄道高速化検討準備会」が四国新幹線について建設費などを調査しました。
それによりますと、四国新幹線を大阪~大分間で淡路島経由で整備した場合、路線延長は477km、概算事業費は4兆0200億円(建設費は3兆9900億円、車両費330億円)と試算しています。
整備後の所要時間は新大阪~徳島が40分、新大阪~高松が61分、新大阪~松山が98分です。この試算では、平均輸送密度は1日16,200人を確保するものの、、費用便益比は0.31にとどまるとしています。
十字型ルート
このため、同準備会では、四国横断新幹線とあわせたコンパクトな新幹線網を提言。具体的には、四国新幹線は徳島~松山間にとどめ、四国横断新幹線を岡山~高知間で建設するというものです。両新幹線の経路が重なる宇多津町~四国中央市付近は、線路を共用します。
これを「十字型ルート」と呼びます。最近では、「四国新幹線」という場合、この十字型ルートを指すことが多いです。
同準備会の試算によれば、四国新幹線十字型ルートの場合、路線延長は302km、概算事業費は1兆5700億円(建設費1兆5300億円、車両費410億円)です。瀬戸大橋に、すでに新幹線の導入空間が確保されているため、本四間に新たなトンネルや橋を作らなくてすむのが強みです。
完成すれば新大阪~徳島が95分、新大阪~高松が75分、新大阪~松山が98分、新大阪~高知が91分で結ばれるとしています。輸送密度は1日9,000人ですが、費用便益比は1.03になるとしました。
四国4県の方向性としては、上記のように、徳島、高松、松山、高知の4県庁所在地までの新幹線建設でまとまってきました。新大阪~徳島間と松山~大分間については先送りを容認する姿勢です。
駅位置
四国新幹線の駅位置について、公式に発表されたことや、確定した事実はありません。ただ、国土交通省の「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」の「令和元年度調査」では、四国新幹線をイメージしたケーススタディが掲載されています。下図は、その想定図です。
これを当サイトの独自解釈で四国新幹線十字型ルートに当てはめると、以下のようになります。括弧内は上表の仮定駅です。
■瀬戸大橋・予讃ルート
岡山(A)~児島(B)~宇多津(C)~観音寺(D)~伊予三島(E)~新居浜(F)~伊予西条(G)~松山(H)
■高徳ルート
宇多津(C)~高松(I)~三本松(J)~徳島(K)
■土讃ルート
四国中央(E)~高知(L)
松山、高松、徳島、高知、宇多津、伊予三島が2面4線で、それ以外は2面2線の構成です。
これはあくまでも、一つの仮定としての駅配置です。実際に建設するとなると、政治的な動きもあるでしょうし、駅数はもう少し増えるのではないか、と予想します。
県庁所在地駅の候補地
各駅の詳細な位置も未定ですが、2022年6月1日に、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地駅位置の候補地を発表しています。
「高松駅」は、JR高松駅、JR栗林駅、琴電伏石駅、高松空港の4案があります。古くから栗林駅が有力とされていますが、事業費と線形問題を克服できるなら高松駅もあり得るでしょう。
「松山駅」は、JR松山駅の高架化に際しスペースを確保してありますので、松山駅併設で決定です。その場合、線路は北方向から入ります。
「徳島駅」は、鳴門エリア、徳島空港、JR徳島駅の3案があります。将来的な紀淡海峡への延伸を考慮するなら鳴門エリアが有力ですが、当面の利便性を重視するなら徳島駅になるでしょう。
「高知駅」は、JR高知駅、JR後免駅の2案があります。利便性を考えるなら高知駅になりますが、建設費を縮減するなら後免駅もあり得るでしょう。
これらもあくまで民間団体の私案にすぎません。実際にどこに駅ができるかは、事業着手前に検討されることになるでしょう。
豊予海峡ルート
四国新幹線の終点となる大分市は、松山~大分間の新幹線計画について「豊予海峡ルート」として調査をしています。
2つのルート案が検討され、いずれも松山~大分間に3駅を作る設定です。1ルートが大洲市、伊方町、大分市幸崎付近に、2ルートが内子町、八幡浜市、大分市幸崎付近に、それぞれ駅を作ります。最終的には距離の短い1ルートで試算がなされました。総延長は146.0kmです。
この試算によると、豊予海峡を海底トンネルで結び、単線の新幹線を建設した場合、松山~大分間の所要時間は上り42分、下り36分になるとしました。
単線新幹線でも1日32往復の運転が可能とし、利用者は1日あたり約18,000人と予測しています。事業費は6,860億円で、費用便益比は1.20~3.32、初年度から黒字化が可能になるとしています。
なお、四国新幹線計画で残る新大阪~徳島間については、全くの未定です。この区間を推進するのは主に徳島県ですが、関係者の発言などから、明石海峡経由ではなく紀淡海峡経由を前提とする方向に傾きつつあります。関西空港を経由地とすることで採算性が改善するとの見通しからです。ただ、実現のメドは全く立っていません。
四国新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15 日に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に四国新幹線が盛り込まれました。いわゆる「基本計画路線」の一つです。
その後建設に向けた具体的な動きはほとんどありませんでしたが、2010年代に入り、地元自治体などが新幹線誘致に本腰を入れ始めます。「四国の鉄道高速化検討準備会」が設立され、2014年4月に「四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査」の結果をまとめました。
2016年3月に国土交通省が公表した「四国圏広域地方計画」では、「鉄道の抜本的な高速化」が「長期的な検討課題」とされました。
2017年7月6日にはオール四国で新幹線誘致を推進する新組織として「四国新幹線整備促進期成会」が発足しています。2022年6月1日には、四国アライアンス地域経済研究会が各県庁所在地の新幹線駅候補地を発表しています。
2023年には、徳島県の後藤田正純新知事が、岡山ルートの四国新幹線計画に対して支持を表明。四国4県が一致して十字型ルートを推進する方向でまとまりました。
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四国新幹線のデータ
営業構想事業者 | JR四国 |
---|---|
整備構想事業者 | 鉄道・運輸機構 |
路線名 | 四国新幹線 |
区間・駅 | 大阪市~徳島市~高松市~松山市~大分市(基本計画) 徳島~高松~松山、岡山~宇多津、伊予三島~高知(十字型ルート) |
距離 | 477km(基本計画) 302km(十字型ルート) |
想定輸送密度 | 16,200人/日(基本計画) 9,000人/日(十字型ルート) |
総事業費 | 4.02兆円(基本計画) 1.57兆円(十字型ルート) |
費用便益比 | 0.31(基本計画) 1.03(十字型ルート) |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 新幹線鉄道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 交流25,000V |
単線・複線 | 未定 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | 全国新幹線整備法 |
四国新幹線の今後の見通し
新幹線の基本計画では、四国新幹線は大阪から四国を経由して大分に抜けるルートです。この場合、本土・淡路島間と、四国・九州間のそれぞれに、海峡を越える橋またはトンネルが必要となります。
建設費が非常にかさむため、四国新幹線の実現は非現実的と見られてきました。しかし、四国4県が「四国新幹線」と「四国横断新幹線」をひとまとめにして、十字型のルートに当面の計画を絞ったため、現実感が出てきたと言えるでしょう。
現在の構想では、すでに新幹線の導入空間が確保されている瀬戸大橋を本四間のルートとし、宇多津で高松・徳島方面に分かれ、伊予三島で松山・高知方面に分かれる系統となります。全線建設しても建設費は1兆円程度という試算で、実現性としては基本計画路線のなかで上位にありそうです。
主力となるのは松山方面の予讃ルートでしょう。一方で、大阪方面からの経路が大回りになる徳島への路線や、長大な山岳トンネルを掘らなければならない高知方面への土讃ルートを、本当に作るのか、という疑問もあります。
一方で、高知方面については、土讃線(在来線)の山岳区間の設備の老朽化が激しいため、その更新をするくらいなら新幹線を作ったほうが効果的という指摘もあります。
十字型ルートは「オール四国」の形を整えるには適していますが、実際に事業着手するとなると、優先順位を付けざるをえません。そのため、岡山~松山・高松が優先着工されて、高知、徳島は後回しにされる可能性は否めません。