埼玉高速鉄道は、赤羽岩淵~浦和美園間14.6kmを結ぶ鉄道路線で、赤羽岩淵から東京メトロ南北線に直通運転しています。終点の浦和美園から岩槻市を経て蓮田市まで延伸する計画があります。
埼玉高速鉄道は地下鉄の「東京7号線」と表記されるので、「地下鉄7号線延伸」とも呼ばれます。開業予定時期は未定です。
埼玉高速鉄道線延伸の概要
埼玉高速鉄道(地下鉄7号線)を、岩槻市、蓮田市まで延伸しようというのが、埼玉高速鉄道の延伸計画です。2014年(平成26年)の『地下鉄7号線延伸に関する報告書』で概要がまとめられています。
それによると、浦和美園駅~岩槻駅間の7.2kmが「先行整備区間」とされています。途中駅(いずれも仮称)として、埼玉スタジアム駅、中間駅の2駅を設置します。岩槻駅では、東武野田線(アーバンパークライン)と連絡します。
埼玉スタジアム駅は、サッカーの試合が行われるときのみ営業する臨時駅との位置づけでしたが、常設駅にする方向です。また、中間駅の位置は、目白大学岩槻キャンパス付近が想定されているようです。
浦和美園~岩槻間のほとんどが高架構造ですが、岩槻駅周辺のみ地下路線となります。
岩槻~蓮田間は「計画検討区間」とされ、途中に中間駅を設置することが検討されています。経路や中間駅の位置は未定ですが、大規模団地のアーバンみらい付近に中間駅を設けるルートが有力で、総延長は6.5kmとなります。蓮田駅では、JR宇都宮線と連絡します。
いずれの区間も、実際に建設された場合、運営は埼玉高速鉄道が担うとみられます。現時点では、事業性に課題があり、計画内容の精査をおこなっています。
埼玉高速鉄道延伸の沿革
2000年の運輸政策審議会答申第18号では、浦和美園~岩槻~蓮田について「2015年までに開業が適当である路線」とされました。
これを受け、2003年には、埼玉県、さいたま市、岩槻市が「地下鉄7号線に関する基本的考え方」を4原則2課題として整理。2005年には「埼玉高速鉄道検討委員会」が岩槻駅で東武野田線への直通運転を検討、大宮ルートと春日部ルートの2方向の案が議論されました。
しかし、東武野田線の設備などの事情で、乗り入れは不可能との結論が出て、東武野田線岩槻駅地下部に駅を建設する方向でまとまりました。
2011年度には、埼玉県とさいたま市による「地下鉄7号線延伸検討委員会」が設置され、2012年3月に提言をまとめました。「B/Cと採算性は一般的な目安に届いていない」とし、「採算性を改善させ、B/Cを向上させるための延伸実現に資する方策」の検討が必要という結論になっています。
検討委員会は同時に「沿線地域の活性化・開発を進めることで、プロジェクトの評価を高めることは可能」としました。これを受けて、さいたま市は同年4月に「地下鉄7号線延伸実現方策検討会」を設置して課題を整理。最終的に、2012年10月に、さいたま市は事業着手を延期し、沿線のまちづくりを進めて、5年後の着手を目指すこととなりました。
2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、浦和美園~岩槻~蓮田間の延伸が「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」として盛り込まれています。ただし「事業性に課題がある」とし、「事業性の確保に必要な需要の創出に繋がる沿線開発や交流人口の増加」などが求められました。
これを受け、さいたま市では、「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」を設置して協議を実施。2018年2月に、浦和美園~岩槻間について、「沿線開発と快速運転を行えば、B/Cと採算性が基準に達する」という結論を得ています。快速列車の想定停車駅は以下の通りです。
このとき、浦和美園~岩槻間の総事業費は860億円が見込まれました。
この報告後、さいたま市では中間駅のまちづくりの方針などを定め、事業化への準備を進めました。2021年6月には、清水勇人市長が「2023年度中に鉄道事業者に対する要請を行う」と市議会で表明。事業化への準備を進めることを明らかにしました。
しかし、その後、詳細な調査をおこなうと、資材の高騰などで建設費が増加することが明らかになります。2024年1月に、市側は工事費が860億円から1300億円に膨らむことを市議会特別委員会に報告。概算工期についても、れまで7年とされていたところ、昨今の人手不足が今後も恒常的に継続すると仮定した場合、18年程度となるとしました。
こうした調査結果をうけ、さいたま市は事業化要請を断念。整備計画、収支計画、運行計画について「課題解決」が必要とし、鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道に対し「技術的な協力・支援」を要請しました。両者はこれを受諾して、計画内容の精査をおこなっています。
埼玉高速鉄道線延伸のデータ
営業構想事業者 | 埼玉高速鉄道 |
---|---|
整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線 |
区間・駅 | 浦和美園~埼玉スタジアム~中間駅~岩槻~蓮田 |
距離 | 浦和美園~岩槻7.2km 岩槻~蓮田6km |
想定利用者数 | 20,200~27,500人/日(浦和美園~岩槻) |
総事業費 | 1,300億円 |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 未定 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1067mm |
電化方式 | 直流1,500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | 都市鉄道利便増進事業 |
※データはおもに『地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会 報告書』(2017年度)より。総事業費は2024年のもの。
埼玉高速鉄道線延伸の今後の見通し
埼玉高速鉄道は盲腸線になっており、岩槻まで接続させることには意味があります。大宮から浦和美園まで鉄道だけでアクセスが可能になり、さいたま市内の鉄道のミッシングリンクを埋めることができるからです。したがって、さいたま市として意義のある事業といえます。
そのため、2000年の運輸政策審議会答申第18号以来、埼玉県、さいたま市は、埼玉高速鉄道の岩槻延伸に関して、強い意欲で望んできました。ただ、浦和美園エリアの人口がなかなか増えず、採算面の課題をクリアすることができないうえ、埼玉高速鉄道の経営難もあり、延伸着工には踏み切れませんでした。
埼玉県などは、2015年に埼玉高速鉄道に対し、事業再生ADRという私的整理に踏み切り、経営再建にメドを付けました。さらに2016年の交通政策審議会答申第198号答申を受けて、ようやく検討に入る段階に至りました。
2018年には、さいたま市が設けた「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」で、浦和美園~岩槻間について、「沿線開発と快速運行をすれば採算が取れる」との試算を得ました。試算内容を精査すると帳尻あわせの感もぬぐえませんが、事業化に向けて一つの弾みになったのは事実でしょう。
2021年には、清水市長が、埼玉高速鉄道への事業化要請をする姿勢を明らかにしたことで、事業着手への期待が高まりました。その後、建設費の高騰などで再検討を迫られていますが、浦和美園~岩槻間に限れば、いずれ着工に漕ぎ着ける可能性が高いといえます。とはいえ、直近の建設費の高騰を考えると、採算性のカベは厳しく、まだ不透明感は深いともいえます。
岩槻~蓮田間は、いまのところ構想の域を出ていません。ミッシングリンクを埋める意義も小さい路線なので、さいたま市には、着工へ向けた情熱もみられません。
郊外型ニュータウンの人口減少が始まっているいま、岩槻~蓮田間の事業化はかなり困難というのが正直な印象です。