奥羽新幹線は、福島市から山形市を経由して秋田市に至る新幹線計画です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。
ミニ新幹線として開業している山形新幹線と秋田新幹線とは別の、フル規格の新幹線を作る構想です。着工予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。
奥羽新幹線の概要
奥羽新幹線は、福島~秋田を結ぶ新幹線の基本計画路線です。在来線の奥羽線に沿う形です。
1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれましたが、現在に至るまで、具体的な建設予定はありません。
ただし、奥羽新幹線の計画区間では、在来線を改軌した山形新幹線が福島~新庄間と、同じく秋田新幹線が大館~秋田間で開業してます。これらは、在来線に新幹線の車両を乗り入れさせ新在直通運転をしているものです。在来線区間(ミニ新幹線区間)は最高時速130km程度に過ぎませんが、フル規格の東北新幹線に直通して東京まで運転しています。
ミニ新幹線は、新幹線鉄道整備法に定義されたフル規格の高速新線とは異なります。したがって、運行中の山形・秋田新幹線と奥羽新幹線は、基本的には別の構想です。
奥羽新幹線がフル規格で建設される場合の経路は、東北新幹線福島駅から、米沢市、南陽市、上山市、山形市、天童市、村山市、尾花沢市、新庄市、湯沢市、横手市、大仙市を経由して、秋田駅に至ると思われます。
奥羽新幹線の建設計画は具体化していませんが、板谷峠に山形新幹線用として23kmの長大トンネルを掘る計画が検討されています。2017年までにJR東日本が調査し、山形県にその結果を伝えました。それによりますと、板谷峠トンネルが完成すれば、現在の山形新幹線の所要時間が10分程度短縮されるそうです。
板谷峠トンネル事業費は1500億円で、将来のフル規格新幹線を想定した大きさにする場合は、120億円余分にかかります。板谷峠トンネルがフル規格新幹線仕様で作られるならば、その部分だけ、実質的に奥羽新幹線が着工することになります。
以下では、2020年3月にまとめられた『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務報告書』を基に、奥羽新幹線の概要を見て行きます。
所要時間と運転本数
報告書によりますと、奥羽新幹線の総延長は265.6kmを想定します。
所要時間は、320km/h運転の場合、東京~秋田間が2時間23分、東京~山形間が1時間40分です。秋田駅は鉄道が有利とされる3時間を大きく下回り、山形は2時間を切ることが想定されます。
1日あたりの運転本数は、羽越・奥羽両新幹線が開業した場合、新大阪~新潟、新大阪~新青森、東京~新青森(新潟経由)、東京~新青森(山形経由)、東京~秋田(同)の5系統が、各16往復と試算しています。各系統が毎時1本程度、複数系統が走る区間は毎時2本程度です。
概算工事費
概算工事費は、全線を複線フル規格で、これまでの新幹線と同等のものを建設する場合、奥羽新幹線が1兆9525億円です。羽越・奥羽新幹線を同時開業で工事した場合、5兆4833億円と試算しました。
単線化、駅舎の簡略化、高架ではなく地平・盛土構造での建設などにより費用を圧縮した場合、奥羽新幹線で1兆4451億円、同時開業で4兆393億円となります。
ただし、単線整備の場合は列車交換による表定速度の低下や運行本数の制限が生じます。地平構造の場合は、交差道路との立体交差対応や、排水・排雪設備の整備が必要になります。
輸送密度は、320km/h運転の場合で、福島~秋田が19,300~25,100と試算されました。
費用便益比(B/C)は、320km/h運転の奥羽新幹線単独整備が0.65、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.62となっています。一方、単線化など建設費圧縮を全体の33.9%にわたって実施した場合、奥羽新幹線単独整備が0.90、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.86となります。いずれも、基準となる「1」を上回ることはできません。
ただし、社会的割引率を3%と仮定した場合、奥羽新幹線単独整備が1.13、同時整備が1.08となり、いずれも基準の「1」をクリアします。2%と仮定した場合は、それぞれ1.44、1.38となり、より高い数字となります。
奥羽新幹線の沿革
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に奥羽新幹線の基本計画が決定しました。
しかし、2000年代まで具体的な建設の動きはほとんどありませんでした。2010年代になり、整備新幹線の完成が視野に入ってくると、山形県を中心に建設運動が始まります。
2015年には、山形県知事がJR東日本を訪れ、板谷峠トンネルの掘削調査を依頼。2017年11月にその調査結果が山形県に伝えられました。
また、2016年5月22日には、山形県が、地元自治体や経済界で構成する「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を発足させています。
2017年8月9日には、奥羽、羽越両新幹線のフル規格での整備を目指し、山形県を事務局として沿線6県(青森、秋田、山形、福島、新潟、富山)の担当課長などで構成される「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム(羽越・奥羽新幹線PT)が発足。日本海側の県で連携して建設運動に取り組む方針が示されました。
羽越・奥羽新幹線PTは沿線エリアの地域ビジョンや費用対効果、整備手法の3項目について調査・検討を進め、2020年3月付で最終報告書を公表しました。実際に一般公表されたのは2021年6月です。
奥羽新幹線のデータ
営業構想事業者 | JR東日本 |
---|---|
整備構想事業者 | 鉄道・運輸機構 |
路線名 | 奥羽新幹線 |
区間・駅 | 福島~山形~秋田 |
距離 | 265.6km |
想定輸送密度 | 19,300~25,100人 |
総事業費 | 1兆4451億~1兆9525億円 |
費用便益比 | 0.50~0.90 |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 新幹線鉄道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 交流25,000V |
単線・複線 | 未定 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | 全国新幹線整備法 |
※データはおもに『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書』(2022年)に基づく。
奥羽新幹線の今後の見通し
奥羽新幹線の建設を強く推進しているのは山形県です。山形県の主要都市を貫くフル規格新幹線が実現して、もっとも恩恵を受けるのが山形県だからでしょう。秋田県も前向きですが、いまのところ建設運動は山形県が中心となっている印象です。
奥羽新幹線の計画区間の半分以上には、すでにミニ新幹線が通っています。奥羽新幹線を建設する場合は、このミニ新幹線を活かしつつ、フル規格に「格上げ」していく手法が現実的です。
具体的には、おそらく板谷峠トンネルがフル規格仕様で作られ、福島~米沢間が実質的にフル規格の先行開業区間になるのでは、と予想されます。福島~米沢間で260km/h運転ができれば本物のフル規格ですが、そうなるのかはわかりません。
米沢以北に関しても、フル規格を高速新線で作るよりは、在来線の高架化や短絡線整備などによる高速化が図られるのではないでしょうか。