大阪メトロ今里筋線は、井高野駅から今里駅まで11.9kmを結ぶ路線で、地下鉄8号線とも呼ばれます。2006年12月24日に開業した地下鉄路線で、今里駅から湯里六丁目まで6.7kmを延伸する計画があります。
大阪メトロ今里筋線延伸の概要
大阪メトロ今里筋線の延伸計画区間は、今里~湯里六丁目の6.7kmです。今里筋の真下を南北に走る路線となります。
延伸区間では、今里駅含め全7駅が予定されており、中川二丁目、大池橋、杭全、今川二丁目、中野町、湯里六丁目の6カ所の新駅が設けられます(いずれも仮称)。杭全駅はJR関西本線の東部市場前駅との乗り換え駅になります。また、湯里六丁目駅にバスターミナルを設置します。
現状の今里筋線で使われているリニアモーター駆動式中量規模地下鉄がそのまま走ります。ワンマン運転の4両編成が朝ラッシュ時4分~5分間隔、夕ラッシュ時が5分間隔、昼間が10分間隔で運転されます。車庫は既設の鶴見北車庫を使用します。
2014年に公表された「『大阪市交通事業の設置等に関する条例』に位置づけられた未着手の地下鉄計画路線の整備のあり方について」によりますと、2017年度着工、2025年度開業として、開業5年後の輸送人員が1日あたり31,744人、輸送密度が18,042人キロと見込まれました。開業15年後には、輸送人員が1日あたり27,903人に減るとの想定も示されました。
延伸にかかる総事業費は1,363億円と見込まれました。収支予測は厳しく、開業40年目の累積最大欠損は712億円にのぼり、30年の費用便益比は0.92というものでした。新線加算運賃を60円とし、需要が1日あたり3,000人増える方策を施して、年間11.5億円の追加補助をした場合に、費用便益比がようやく1を超える(1.01)という試算です。「延伸しても採算が取れない」という結論と表現していいでしょう。
今里筋線には、このほか、井高野~正雀・岸辺1.8kmへの延伸構想もあります。ただ、構想の域を出ておらず、具体化していません。
大阪メトロ今里筋線延伸の沿革
今里筋線の建設計画は、1982年2月の「大阪を中心とする鉄道網整備構想について」(大阪府・大阪市)において、構想路線に位置づけられたのが最初です。1989年5月の運輸政策審議会第10号答申では、「今後路線整備を検討すべき区間」として、上新庄~太子橋今市~湯里六丁目間が盛り込まれました。
これを受け、1989年11月の「大阪市交通事業の設置等に関する条例」にも今里筋線計画が盛り込まれ、1996年12月には、大阪市交通局の次期整備路線を井高野~湯里六丁目間とすることが、議会で了承されました。このうち、井高野~今里間が、2000年3月に着工し、2006年12月に開業しています。
残る今里~湯里六丁目間については、2004年10月の近畿地方交通審議会答申第8号で「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」と位置づけられました。それを受けて、井高野~今里間の開業後、速やかに建設できるよう準備が進められ、2006年度中の着工・2016年度の開業予定とされました。2005年8月には、今里~湯里六丁目間の建設に向けて、地下鉄建設の補助金が国の予算概算要求に盛り込まれています。
しかし、当時の大阪市長の関淳一が、再選の選挙に向けて延伸凍結を公約。再選後、同年11月の大阪市都市経営会議で、市の財政が厳しいことなどから補助採択要望の取り下げを決定。事実上、延伸計画を凍結します。
橋下市政下での結論
その後、橋下徹市政下で、2013年に設置された大阪市鉄道ネットワーク審議会が、大阪市営地下鉄の計画4路線について検討。2014年に『「大阪市交通事業の設置等に関する条例」に位置づけられた未着手の地下鉄計画路線の整備のあり方について』というとりまとめを答申しました。
そのなかで今里筋線延伸に関して、「収支採算性は累積欠損を解消できず、費用対効果もB/Cが1を下回る」などという結果を示し、採算が取れないと結論づけました。
これに対し延伸実現を求める自民党市議団が、大阪市営地下鉄民営化関連議案に賛成する条件として今里筋線延伸区間でのBRTの実験実施を求めました。2015年に就任した吉村洋文市長がこれを受け入れ、地下鉄民営化後、2019年4月から、今里線延伸予定区間を中心としたBRT(いまざとライナー)運行が社会実験として行われています。
社会実験は5年間の予定でしたが、新型コロナ禍を挟んだことから2年間を延長。2026年ごろまで続けられる予定です。
社会実験2024年2月の発表では、いまざとライナーの2023年12月時点の利用者数は1日約3,000人。1便あたりの利用者数は21.3人でした。
大阪メトロ今里筋線延伸データ
営業構想事業者 | 大阪市高速電気軌道(大阪メトロ) |
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整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 今里筋線 |
区間・駅 | 今里~湯里六丁目 |
距離 | 6.7km |
想定輸送密度 | 18,042人 |
総事業費 | 1293億円(民営) |
費用便益比 | 0.87(民営) |
累積資金収支黒字転換年 | 発散 |
種別 | 未定 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1435mm |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
※データは『「大阪市交通事業の設置等に関する条例」に位置づけられた未着手の地下鉄計画路線の整備のあり方について』より
大阪メトロ今里筋線の今後の見通し
大阪の地下鉄未成線のなかで、比較的実現可能性が高かったのが、この今里筋線今里~湯里六丁目間です。実際、関淳一市長が計画凍結をしなければ、2016年に開業していたかもしれません。
しかし、大阪の地下鉄路線で唯一大阪環状線内に入らず、御堂筋線にも接続しない路線だけあって、建設しても、採算面で苦戦したのは間違いありません。実際、今里筋線の既開業区間の利用状況は厳しく、年間約40億円の赤字を計上しています。
延伸区間についても、2014年の答申で、採算が取れないとの結論が出ています。大阪の地下鉄は2018年4月に民営化されたこともあり、今後、湯里六丁目延伸の実現はかなり困難とみられます。
井高野~正雀・岸辺方面の延伸については、大阪市域を外れ吹田市にかかる話なので、さらに実現へのハードルが高そうで、現時点で、実現の見通しはありません。