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JR桜島線延伸

JR桜島線夢洲延伸

JR桜島線は、西九条駅から桜島駅まで4.1kmを結ぶ路線です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへのアクセス路線として知られ、「JRゆめ咲線」とも呼ばれます。 これを舞洲を経て夢洲まで約6km延伸する計画があります。北港テクノポート線計画とのかかわりにも触れながら解説します。 JR桜島線延伸の概要 JR桜島線の延伸構想は、桜島駅~舞洲駅~夢洲駅の約6kmです。2014年にまとめられた『夢洲への鉄道アクセスの技術的検討の報告』によりますと、ユニバーサルシティ駅西付近から地下化し、桜島駅を地下化。北西の舞洲へ地下路線で進み、さらに南西へ折れて夢洲に達するというルートです。 桜島駅~夢洲駅間の途中駅は舞洲駅のみです。大阪駅~舞洲駅の所要時間は約22分。概算整備費は1700億円と見積もられました。建設期間は、標準工期で11年、短縮工期で9年と考えられています。 整備主体や開業予定、運転計画などは未定です。JR西日本は、2022年度までの中期経営計画で「夢洲アクセス検討」を掲げ、IR(統合型リゾート)が実現した場合に、整備を検討する姿勢を明らかにしました。 しかし、新型コロナ禍を経て消極姿勢に転換。2025年までの中期経営計画では、桜島線の延伸にかかわる記載はなくなりました。したがって、現時点では、JR桜島線沿線は構想段階にとどまり、実現の見通しは立っていません。   JR桜島線延伸の沿革 オリンピックとUSJ ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの西にある島を舞洲、その南西にある島を夢洲といいます。これらの人工島をつなぐ鉄道を敷く構想は、1983年に「テクノポート大阪計画」が発表されたころから具体化し始めたようです。 1989年の運輸政策審議会第10号答申では、海浜緑地(コスモスクエア)~北港南(夢洲)~北港北(舞洲)間を結ぶルートが「北港テクノポート線」として、2005年までに整備に着手することが適当な路線とされました。さらに北港北から此花方面が「今後路線整備について検討すべき方向」として盛り込まれました。 1991年に大阪市はオリンピックの招致活動を開始。舞洲が会場予定地、夢洲が選手村予定地とされました。北港テクノポート線はそのアクセス鉄道としての役割が付与されることになります。当初の構想は、桜島線の延伸ではなく、地下鉄中央線を大阪港からコスモスクエアを経て、夢洲、舞洲まで延ばすというものでした。 1998年になり、北港テクノポート線の計画は新桜島までに拡大されます。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の誘致が決まったことを受けたもので、新桜島駅はUSJの北側に隣接する位置に予定されました。   オリンピック招致の失敗 新桜島への接続路線として、JR桜島線の延伸が計画されました。桜島線は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの整備計画にあわせて、1999年に安治川口~桜島間のルートを変更、桜島駅を移設しています。移設された桜島駅は新桜島駅への延伸を考慮した形となり、大阪市はJR西日本に新桜島駅まで約1kmの延伸を要請しています。 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2001年7月に無事開業したものの、大阪オリンピックの招致は2001年7月のIOC総会で失敗。北港テクノポート線計画は凍結となり、JR桜島線の新桜島駅延伸も立ち消えとなりました。 一方で、京阪中之島線の新桜島駅延伸計画が浮上。玉江橋(現中之島)~西九条~千鳥橋~新桜島間として建設するルートです。2004年の近畿地方交通審議会答申第8号で、「中期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として記載されました。 まとめると、2000年代前半までの大阪北港への計画路線としては、大阪市内からJR桜島線と京阪中之島線を新桜島駅まで建設し、その先は北港テクノポート線が舞洲、夢洲を経てコスモスクエアをつなぐルートとなっていたわけです。   IR誘致 しかし、オリンピック招致失敗の後、大阪湾岸の開発が停滞したこともあり、これら鉄道計画は全く進展しませんでした。状況が変わったのは、2008年に大阪府知事に橋下徹が就任してからです。 大阪府知事就任後、橋下知事は、大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)の再建問題に絡み、JR桜島駅からニュートラムのトレードセンター前駅まで約4kmの延伸を検討。2009年9月の各社報道によれば、舞洲や夢洲に寄らず、桜島駅からトレードセンターへ海底地下路線で直結するルートが考えられていたようです。 この計画は具体化しませんでしたが、 その後、大阪府市が夢洲に統合型リゾート(IR)の誘致を進めるにあたり、鉄道アクセスとしてJR桜島線の延伸が改めて検討されました。 2014年9月には、IR立地準備会議「夢洲への鉄道アクセスの技術的検討の報告」で、JR桜島線の延伸計画の概要が明らかにされました。桜島駅~舞洲駅~夢洲駅の約6kmのルートで、新桜島駅を経由しません。報告ではこのルートのほか、舞洲へは「京阪中之島延伸案」も検討されました。つまり、JR桜島線で確定した話にはなっていません。 また、2014年1月に公表された大阪府の『公共交通戦略』には「JR桜島線延伸については、まずは、夢洲、咲洲、舞洲地区の開発の具体化を⾒極める」と記されるにとどまり、具体的な方向性を示すに至りませんでした。   中期経営計画記載と削除 2018年4月には、JR西日本が2022年度までの中期経営計画で、「夢洲アクセスの検討」を記載。2018年11月には、2025年大阪万博が夢洲で開かれることが決定し、JR桜島線延伸の機運は高まりました。 ただし、JR西日本の来島達夫社長は、万博開催のみでの延伸はせず、IR誘致決定が路線延伸の前提という姿勢を見せました。 2019年の大阪府『公共交通戦略』改訂版では、「夢洲まちづくりの主体が夢洲の段階的な土地利用の状況に応じた鉄道整備を検討」という記述に変わりました。IRの展開次第で鉄道整備の検討を促す記述になっています。 その後、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、JR西日本の経営状況が悪化。桜島線延伸は議論の俎上にのぼらなくなります。2023年4月に発表された2025年度までの中期経営計画では「夢洲アクセスの検討」の記載はなくなり、「万博アクセス」と表現されるのみになっています。夢洲延伸への前向きな表現が消えたように感じられ、実現は見通せなくなりました。 北港テクノポート線計画という視点で見ると、コスモスクエア~夢洲間3.0kmについては、大阪メトロ中央線が建設することが決まっています。しかし、夢洲~舞洲~新桜島間の計画は残されたままで、JR桜島線の延伸によって実現するかは定かではありません。 JR桜島線延伸のデータ JR桜島線延伸データ 営業構想事業者 JR西日本 整備構想事業者 未定 路線名 桜島線(ゆめ咲線) 区間・駅 桜島~舞洲~夢洲 距離 約6km 想定利用者数 -- 総事業費 -- 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 未定 種類 普通鉄道 軌間 1,067mm 電化方式 直流1500V 単線・複線 複線 開業予定時期 未定 備考 -- JR桜島線延伸の今後の見通し JR桜島線の舞洲・夢洲延伸は、夢洲IRの実現が決定することが前提でした。2023年4月にIRが正式決定したことで、その前提は充たされました。 しかし、新型コロナ禍による社会情勢の変化や、JR西日本の経営状況の悪化を受け、延伸実現は見通しづらくなりました。夢洲でのまちづくりなどが成功し、多くの利用者が見込まれる状況になり、初めて実現に向け動き出す形となりそうです。 新桜島~舞洲~夢洲の路線計画は、もともとは北港テクノポート線の枠組みとして構想され、地下鉄中央線を大阪港から延伸する形が想定されていました。この案については、梅田から北港への利便性に難があるため、おそらくは採用されないとみられます。 【参考資料アーカイブ】 『夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について』(2014年、大阪府)[PDF]
大阪モノレール延伸

大阪モノレール瓜生堂延伸

大阪モノレール線(本線)は、大阪空港駅から門真市駅まで21.2kmを結ぶ路線です。1990年に千里中央~南茨木間が開業し、1997年に大阪空港~門真市間が開業しました。 現在、門真市~瓜生堂間(仮称)の8.9kmの延伸に着手していて、2033年ごろに開業する予定です。 大阪モノレール延伸の概要 大阪モノレール本線の延伸計画区間は、門真市~瓜生堂の8.9kmです(未設駅は仮称、以下すべて)。途中、松生町、門真南、鴻池新田、荒本の4駅を設置します。軌道は中央環状線に沿って建設しますが、荒本駅付近のみ東側にせり出し、東大阪市道上を走り、東大阪市役所に隣接する形で駅を設けます。終点瓜生堂の北には、中央環状線の未利用地を使って車庫を設置します。 門真南駅では地下鉄鶴見緑地線と接続。鴻池新田ではJR学研都市線と接続。荒本駅では近鉄けいはんな線と接続。瓜生堂では近鉄奈良線と接続します。瓜生堂に近鉄の駅はありませんが、モノレール延伸にあわせて設置される予定です。また、荒本~瓜生堂間に車両基地を設けます。 延伸開業後、門真市~瓜生堂間は17分、瓜生堂~大阪空港は55分で結ばれます。開業後の運行系統や本数について明確な資料はみつかりませんでしたが、既存の大阪モノレール本線の全列車が瓜生堂まで乗り入れるとみられます。 開業予定は2029年度とされていましたが、2024年4月に、4年の延期を発表。2033年頃に後ろ倒しとなりました。   総事業費と費用便益比 延伸区間の需要予測は1日5万3000人(全区間1日16万9000人)です。事業費は事前評価時に1,050億円、2022年の再評価時に1,113億円、2024年の再々評価時に1,864億円と見積もられました。このうちインフラ部が1,442億円、インフラ外部が422億円です。 インフラ部分については、国が791億円、大阪府や東大阪市などの自治体が651億円負担し、車両などのインフラ外部422億円を大阪高速鉄道が負担します。 費用便益比は、2024年の再々評価時に1.23(30年)~1.42(50年)です。 大阪モノレール延伸の沿革 大阪モノレールは、伊丹空港と堺の工業地帯を結ぶという構想の路線です。そのため、現在着手している延伸区間は、当初構想の範囲内です。 1989年の運輸政策審議会答申第10号では、大阪国際空港~門真間が「2005年までに整備することが適当である区間」、門真~茨田~荒本・堺方面と大阪国際空港~伊丹付近~武庫之荘方面が「今後路線整備について検討すべき区間・方向」として示されました。 2004年の近畿地方交通審議会答申第8号では、「京阪神圏において、中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として、門真市~瓜生堂のみが盛り込まれ、延伸区間が絞られました。しかし、財政状況が厳しいなか、大阪モノレールの既存区間の経営状況を見極めるということで、計画は凍結状態になってしまいます。   公共交通戦略の位置づけから合意へ 建設へ向け動き出したのは、2012年6月。大阪府戦略本部会議が大阪モノレール延伸を検討することを決めます。2013年4月から事業化に向けた検討を開始し、2014年1月に『大阪府公共交通戦略』で「今後、事業実施の可否について、個別に検討が必要な路線」と位置付けました。 その後、事業負担割合について自治体との協議に移り、2015年7月に東大阪市と合意。着工への環境が整いました。2016年1月15日に行われた大阪府の戦略会議で、大阪モノレール延伸の事業化を意思決定。2019年度の着工、2029年度の開通を目指すとしました。 2019年3月にに都市計画決定、軌道法特許取得、2020年3月に都市計画事業認可取得、同4月に軌道法工事施行認可取得と進み、着工に至っています。 当初、松生町駅の設置予定はありませんでしたが、2021年3月には、門真市~門真南間に松生町駅を設置することで、大阪府、門真市、守口市、大阪モノレールが合意しました。 事業は順調に進んでいるように見えましたが、2024年4月に、事業費の増加と開業時期の後ろ倒しを発表。2029年度の開業が2033年度ごろになる見通しになりました。事業費はインフラ部が約786億円が約1,442 億円になるという、大幅な増額でした。 その他の区間 大阪モノレールには、瓜生堂~堺間の建設計画が残っています。2017年6月には、堺市、八尾市、松原市が、連盟で大阪府に対し、「大阪モノレール計画の堺方面へ延伸に関する要望書」を提出しました。しかし、建設についての議論は進んでいません。 なお、大阪モノレールには、彩都線の彩都西~山手台車庫駅の延伸計画もありましたが、2017年1月に計画中止が決まっています。2019年3月19日に正式に計画廃止となりました。   大阪モノレール延伸のデータ 大阪モノレール延伸データ 営業構想事業者 大阪高速鉄道 整備構想事業者 大阪府(インフラ部)大阪高速鉄道(インフラ外部) 路線名 大阪モノレール線 区間・駅 門真市~瓜生堂(5駅新設) 距離 約8.9km 想定利用者数 約53,000人 総事業費 約1,442億円(インフラ部) 費用便益比 1.23~1.42 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 軌道事業 種類 跨座式モノレール 軌間 -- 電化方式 直流1500V 単線・複線 複線 開業予定時期 2033年度頃 備考 社会資本整備総合交付金(インフラ部) ※データはおもに『事業再々評価書』(2024年度)より。 大阪モノレール延伸の今後の見通し 2016年度に事業化が決定し、2020年に事業着手しており、導入空間もほぼ確保されています。開業予定は2033年度ごろと後ろ倒しされましたが、門真市~瓜生堂間がいずれ開業することは間違いありません。 大阪モノレールは、さらに堺市方面への建設計画も残っています。しかし、瓜生堂~堺間に事業化に向けた動きはまだなく、建設のメドは立っていません。また、彩都線延伸は、2017年に計画断念が決まっています。
近鉄けいはんな線延伸

近鉄けいはんな線延伸

近鉄けいはんな線は、長田駅から生駒駅を経て学研奈良登美ヶ丘駅まで18.8kmを結ぶ路線です。学研奈良登美ヶ丘駅から、新祝園駅または高の原駅まで延伸する計画があります。 近鉄けいはんな線延伸の概要 近鉄けいはんな線の延伸は、学研奈良登美ヶ丘~高の原間と、同~新祝園間の計画があります。近畿地方交通審議会答申第8号(2004年)では、両線並記で記載されました。 2018年の精華町の調査報告書では、新祝園ルートで鉄道案とLRT案を挙げ、高の原ルートでは鉄道案のみを挙げています。報告書を基に、概要をみてみます。   高の原延伸(鉄道) 高の原延伸案は、近鉄けいはんな線をそのまま延伸します。計画区間は、学研奈良登美ヶ丘~高の原間の3.8kmです。途中駅として、乾谷を設けます。 けいはんな線と同じく第三軌条方式で、運行速度は100km/h。概算事業費は約350億円、1日16,700人の利用者を想定します。 新祝園延伸(鉄道) 新祝園延伸鉄道案は、近鉄けいはんな線を新祝園に延伸します。計画区間は、学研奈良登美ヶ丘~新祝園間の6.2kmです。途中駅として、精華光台、学研中央、祝園ニュータウンの3駅を設けます。 こちらも第三軌条方式で、運行速度は100km/h。概算事業費は約570億円、1日25,200人の利用者を想定します。   新祝園延伸(LRT) LRT案は、近鉄けいはんな線と直通しませんので、正確には同線の延伸ではありません。計画区間は学研奈良登美ヶ丘~新祝園間の7.0kmです。 途中駅として、鹿の台口、光台5丁目、光台4丁目、光台3丁目、けいはんなプラザ、国会図書館前、けいはんな記念公園、精華台3丁目、精華台2丁目、畑の前公園、精華町役場前の11駅を設けます。 運行速度は20km/h。基本的には道路上に軌道を敷設するため、概算事業費は約140億円と廉価です。1日12,000人の利用者を想定します。 2ルート3案のいずれも費用便益比や採算性の試算は公表されていません。事業着手の予定はなく、開業予定も決まっていません。運行計画なども未定です。 近鉄けいはんな線延伸の沿革 近鉄けいはんな線(生駒以東)は、「京阪奈新線」と呼ばれ、1982年に国土庁が発表した「関西学術研究都市基本構想」に端を発します。この構想で、生駒~高の原間と、途中で分岐して精華・西木津方面へ向かう路線が示されました。 1989年の運輸政策審議会答申第10号『大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について』では、「京阪奈新線」について、生駒~高の原間が「2005年までに整備することが適当な区間」、分岐して祝園付近までと高の原~木津方面までが「整備について検討すべき路線」として盛り込まれました。 その後、近畿運輸局、奈良県、京都府、近鉄が参加する「京阪奈新線整備研究会」が調査を実施し、1995年に中間報告を公表。全線整備での事業収支採算性確保が厳しいため、「段階的な整備も一つの有効な方策」としました。 翌1996年6月13日の近畿地方交通審議会答申第5号『奈良県における公共交通機関の維持整備に関する計画について』では、「早期に事業化を図るため、第一段階として、生駒駅から登美ヶ丘付近まで整備することが適当であり、引き続き高の原までの残る区間についても前記答申(運輸政策審議会答申第10号)の趣旨に沿って、できる限り早期に整備する必要がある」とされました。 これを受け、生駒駅~学研奈良登美ヶ丘駅間の事業化が決定。2000年に着工し、2006年3月に開業します。しかし、利用者数は伸び悩み、2010年の事後評価総括表によれば、生駒~登美ヶ丘間の開業5年目の1日あたりの利用者数は、25,000人(2009年)にとどまりました。5年目の想定利用者数が1日84,000人だったので、3割程度にすぎません。 登美ヶ丘以遠については、2004年の近畿地方交通審議会答申第8号『近畿圏における望ましい交通のあり方について』で、「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として、「登美ヶ丘~高の原」「登美ヶ丘~学研中央~祝園NT~新祝園」の両区間が並記されました。 しかし、開業区間の利用状況が思わしくないこともあり、延伸は事実上凍結されています。 新祝園ルートの延伸先にあたる京都府精華町が建設運動をしており、「京阪奈新線新祝園ルート」の実現に向けて調査などを進めています。 近鉄けいはんな線延伸のデータ 近鉄けいはんな線延伸データ 営業構想事業者 近畿日本鉄道 ...
富士山登山鉄道

富士山登山鉄道

富士山登山鉄道は、富士スバルライン上にLRTを敷設する構想です。富士山吉田口五合目へのアクセスを、現在の道路交通から登山鉄道に転換するもので、山梨県が主体となって計画の検討をすすめています。 富士山登山鉄道の概要 「富士山登山鉄道」構想は、富士山への来訪者が激増するなか、自動車交通を主体としたアクセスを抜本的に見直し、五合目のライフラインの整備を行おうというものです。山梨県が設置した富士山登山鉄道構想検討会が2019年から検討を開始し、2020年12月に『富士山登山鉄道構想』をとりまとめました。 富士山登山鉄道は、環境負荷が少なく輸送力のある鉄道を導入して来訪者増に備える一方で、全車指定席の定員制とし来訪者数をコントロールするのが目的です。また、軌道整備と同時にライフラインも整備し、五合目まで電気や上下水道を引くという副次的な目的もあります。 システムはLRTを想定。比較的氷雪に強く、緊急車両との併用が可能なためです。緊急事態の際に、軌道上を救急車や消防車が走れるのが、普通鉄道などにはないメリットです。一方、難点としては、下り勾配で速度制限を受けます。   ルートと駅位置 富士山登山鉄道は富士スバルラインをそのまま活用します。したがって、ルートは現在の富士スバルラインそのものです。 スバルラインに複線軌道を敷設しLRTを走らせる構想とし、道路の拡幅などの改変は原則としておこないません。スバルラインの車道幅員は約6.5mで、最急曲線でも幅員内にLRT軌道を複線で設置することは可能です。   道路にはあらかじめレール溝を刻んで成形したコンクリートブロックを埋設し、ライフライン用管路を併設します。山麓を起点とし、五合目までの区間を整備します。総延長は28.8kmです。 起点となる山麓駅は、東富士五湖道路の富士吉田料金所付近です。山麓駅には駅施設や交通広場を設置。パーク・アンド・ライド駐車場や車両基地も整備します。富士急行河口湖駅から約2km離れていますが、市街地などへの延伸については将来的な検討課題としました。 終点となる五合目駅は、富士スバルライン終点に設けます。半地下式を想定し、店舗など含めた五合目全体の空間再編をあわせて検討します。五合目以降の延伸はしません。 中間駅は4駅想定しています。既存の駐車場空間を活用する方針で、展望景観に優れる場所、既存遊歩道等との結節点が候補となります。 起点の標高は1088m(料金所)で、五合目は2305mです。標高差1217mを駆け抜ける鉄道路線となります。実現すれば、五合目は日本最高所の鉄道駅となります。   車両は蓄電池車両 車両は蓄電池車両の使用を想定し、架線レスとします。バッテリーなどの機器を搭載しやすいように、軌間は1435mmです。 スバルラインの最小曲線半径は30m、最急勾配は8%です。これに対応する車両として、10m×3車体で1編成とし、最大2編成を連結します。つまり最長6連のLRTが走ることになります。1編成(3両)の車両長は30mで、最長60mの列車となります。 1編成の定員は120人で、着席利用を基本とする定員制とします。合計で24編成を用意します。 最高速度は40km/hですが、下りは25km/hに制限します。急曲線部では上下とも10km/hです。このため所要時間は上り52分、下り74分と差が付き、五合目から山麓へ下るほうが時間がかかります。 列車は乗ること自体を楽しめるデザインやサービスとします。たとえば、車内での飲食の提供や、モニターでのガイダンスの提供などを検討します。 運賃は往復1万円~2万円と想定。年間鉄道利用者数は、1万円なら310万人、2万円なら120万人で、100万人~300万人と見積もっています。   総事業費と収支予測 概算事業費は全体で1200億円~1400億円程度と試算。内訳は軌道、駅、車両基地などに560億円、電力・通信設備などに500億円、車両に170億円、ライフライン整備費に100億円などとなっています。 収支予測に関しては、運賃往復1万円で、年間300万人が利用し、総事業費が1400億円と仮定した場合、単年度損益は開業初年度から黒字。累積損益も開業2年度で黒字となります。資金収支は開業初年度から黒字となります。 事業スキームは上下一体、上下分離の双方を検討。国土交通省の支援スキームは都市型LRTを想定しているため、この計画には適用できないようです。   富士山登山鉄道の沿革 富士山に登山鉄道を建設するという構想は昔からあり、1935年には山麓と山頂を結ぶ「地下ケーブルカー構想」の計画が浮上。1940年に予定されていた東京オリンピックを視野に入れた計画でしたが、同オリンピックの開催中止とともに立ち消えになりました。 戦後、1960年代に富士急行が山頂へのケーブルカーを敷設する構想を発表。このときは、富士山にトンネルを掘り、5合目~8合目間と、8合目~頂上間に分けて、それぞれケーブルカーを建設する構想でした。 この構想は、1963年に「富士山地下鋼索鉄道」として免許申請にまで至りました。しかし、環境面への懸念から反対論がわき上がり、結局、1974年に申請を取り下げ。以後、富士山登山鉄道に具体的な動きはありませんでした。 再び動きが出るのは、2000年代になってからです。2008年11月に、富士五湖観光連盟が富士スバルラインに単線の線路を敷設して5合目まで結ぶ構想を発表。背景として、冬場の観光客誘致の狙いがありました。このときは、観光連盟の会長でもある富士急行の堀内光一郎社長が、登山鉄道を富士急と接続させ、JR線を使って成田空港ともつながる構想まで提唱しています。つまり、普通鉄道として構想されていました。 2013年6月、富士山の世界文化遺産登録を受けて、堀内社長が富士スバルラインの敷地を使って5合目までを結ぶ観光用鉄道の計画を発表。2019年に、富士山登山鉄道の検討を公約に掲げた長崎幸太郎が知事に就任すると、山梨県が「富士山登山鉄道構想検討会」を発足させ、本格的な議論を開始しました。 検討会での議論の末、2020年12月に、富士スバルライン上にLRTを敷設計画を素案として発表。2021年2月8日に開かれた検討会の総会で、正式に「富士山登山鉄道構想」を了承するに至りました。 2023年秋には、山梨県が事業化に向けた検討会を発足させ、技術課題や収益性などの議論を開始。当初は23年度末に中間報告を出す予定でしたが、遅れています。   富士山登山鉄道のデータ 富士山登山鉄道データ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 山麓(富士吉田料金所付近)~吉田口五合目(中間4駅程度) 距離 約28.8km 想定利用者数 約100~約300万人/年 総事業費 約1,200億~約1,400億円 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 未定 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 架線レス(蓄電池車両) 単線・複線 複線 開業予定時期 未定 備考 富士山登山鉄道の今後の見通し 「富士山登山鉄道構想検討会」がまとめた『構想』を読み進めると、富士山登山鉄道は十分に現実感があるように思えます。技術的にも採算的にもハードルが低く、あとは関係者のやる気次第、とすら思えてしまうほどです。 だからといってすぐに実現できるか、というと定かではありません。『素案』は行政と一部の事業者側の都合で練られた案で、実際に利用する登山者や、影響を受けるツアーを実施する旅行会社の声などはまったく反映されていません。国土交通省もいまのところ関与していません。 採算性の計算も粗い部分があり、精緻に計画を詰めていくと、さまざまな問題が出てくることも予想されます。ということで、開業時期などはまったく未定です。 筆者の感想をいえば、山頂近くまで行けるならともかく、五合目まで行くだけなのに鉄道利用必須となると、面倒だな、という気になります。したがって、鉄道そのものを魅力あるものにして、乗るだけで楽しくなるような仕掛けにしないと、利用者は伸び悩むのではないか、という気もします。 富士スバルラインは曲線も勾配も鉄道が走れる範囲に収まっているようで、道路を廃棄して鉄道を敷設しようという計画自体には、大きな無理はないようです。架線を掛けることが景観上できないので、蓄電池電車を走らせることになりますが、課題があるとすれば、その技術が確立していないことくらいでしょうか。とくに、下り時の安全性が気になります。 採算性については、1人1万円で、これまで通りのペースで観光客がやってくれば十分黒字になる、という見立てです。技術的にも採算面でも無理がなければ、あとはやる気の問題ですが、山梨県が計画に前向きな一方、富士吉田市や富士急行はいまの計画に反対の姿勢のようで、一枚岩ではありません。 また、懸念点として、実現すれば、バスで吉田口五合目へ行けなくなるわけで、登山客は山麓駅でLRTへの乗り換えを強いられます。しかも山麓から五合目に行くだけで1万円もとられるのであれば、登山客には不評でしょう。これまで吉田口を使っていた登山ツアーが、他の登山口に流れる可能性もあり、そうした調整などもまだこれからです。 富士山に登山鉄道というのは夢のある話題で、実現性もありそうですが、本当に実現するかは、何とも言えない、という段階でしょうか。 【参考資料アーカイブ】 『富士山登山鉄道構想(2021)』[PDF]
岡山駅路面電車乗り入れ

岡山駅前広場路面電車乗り入れ

岡山駅前には、岡山電気軌道の路面電車の停留所があります。この停留所を岡山駅前広場に移設し、JR線との乗り換え利便性を向上させる計画があります。2026 年度末の開業予定です。 岡山電気軌道駅前広場乗り入れの概要 岡山電気軌道の岡山駅前電停は、JR駅ビルから市役所筋を挟んだ東側にあります。ここから軌道を西(駅方向)に約100m延ばし、岡山駅東口駅前広場内に乗り入れさせる形で、駅前広場を整備します。 JRの駅ビル前に、2面3線のホームを備えた電停を新設。JR岡山駅東口を出て電停までの距離は現在の約180mから約40mに短縮します。これにより、JR線からの乗り換えを36秒に短縮します。 現在の岡山駅前電停は東西に2カ所のホームを備えますが、これを東側(現降車ホーム)に集約し、西側(現乗車ホーム)とともに地下街と接続する階段を廃止します。東側ホームは通常の電停として存続します。   2018年11月22日に、デザイン案が決定。岡山の名所・後楽園をモチーフとしたデザインが採用となりました。 2020年3月13日に特許を交付。開業予定を2023年度として着工しましたが、設計ミスで計画変更が生じ、2022年1月になって、2025年度開業に延期することが明らかにされました。2023年1月10日に本格的な工事に着手しましたが、その後、さらに遅延が発生し、2026年度末に先送りされました。 事業費は当初43億円と見積もられていましたが、2022年に66億円へ上振れ、最終的に94億円(うち軌道部分は11.6億円)となっています。駅前広場整備事業としておこなっているため、路面電車乗り入れに直接的に94億円もかかるわけではありません。補助金として社会資本整備総合交付金を活用しています。   岡山駅前広場路面電車乗り入れの沿革 岡山駅前広場への路面電車の乗り入れは、大森雅夫市長が1期目就任直後の2013年12月に検討を表明し、計画が動き出しました。交通結節点となる岡山駅の利便性と中心市街地の回遊性を高める狙いとされました。 乗り入れ方法としては、岡山駅構内に接続する「平面乗り入れ」、岡山駅2階の中央改札口に接続する「高架乗り入れ」、駅前電停付近から地下に入る「地下乗り入れ」、現在の岡山駅前電停からエスカレーターなどで2階のJR中央改札を結ぶ「歩行者デッキ連結」の4案が提示されました。 有識者の調査検討会の協議の結果、コスト、利便性などから2015年11月に「平面乗り入れ」が採用されています。 その後、「路面電車乗り入れを含めた岡山駅前広場のあり方検討会」により、バスやタクシー乗り場を含めたレイアウトやデザインを検討してきました。2018年にデザイン案を公募。応募のあった6案のうち、同年11月に「弥田俊男設計建築事務所」の案に決定しました。春日大社の国宝殿増改築で設計デザインに携わるなどの実績がある事務所です。 2018年度のデザイン案決定により、2019年度に詳細設計、2020年度に着工、2023年度の運用開始というスケジュールとなりました。 ところが、2022年1月に、2025年度への開業延期を公表。火災に備えて避難通路を確保することが必要だったところ、建築基準法の認識不足で計画に入れていなかったのが主な要因というお粗末な理由でした。 事業費は43億円から86億円に増える見通しとなり、案内所や大ひさし、植栽などを中止して事業費を66億円に圧縮することになりました。このため、採用されたデザイン案も、一部変更となりました。 さらに、2023年8月には、移転の補償などに時間がかかり、開業が2026年度末となることが明らかになりました。事業費もさらに上振れし、最終的に94億円になる見通しです。 岡山駅前広場路面電車乗り入れのデータ 岡山駅前広場路面電車乗り入れデータ 営業構想事業者 岡山電気軌道 整備構想事業者 岡山市 路線名 東山線 区間・駅 岡山駅付近 距離 0.1km 想定利用者数 約10,800人/日(岡山駅電停の想定乗降者数) 総事業費 約94億円(軌道部分は11.6億円) 費用便益比 1.07 累積資金収支黒字転換年 3年 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,067mm 電化方式 直流600V 単線・複線 複線 開業予定時期 2026年度末 備考 社会資本整備総合交付金 ※データは主に岡山電気軌道の軌道事業の特許申請資料(2018年)より。最新情報は岡山市ウェブサイトより。 岡山駅前広場路面電車乗り入れの今後の見通し 岡山駅前広場路面電車乗り入れは、2020年3月に特許が交付され、工事が始まりました。2020年度に着工し、2022年度中の工事完了、2023年度の運用開始を目指しましたが、2026年度に延期となりました。ただ、遅れが生じるにせよ、実現は間違いない状況です。 岡山の路面電車では、環状化などの延伸構想もありますが、それについては全くの白紙です。 【参考資料アーカイブ】 『岡山電気軌道からの軌道事業の特許申請1』[PDF] 『岡山電気軌道からの軌道事業の特許申請2』[PDF]
広島電鉄駅前大橋ルート

広島電鉄駅前大橋ルート・循環ルート

広島電鉄は、広島駅電停から東に迂回をしてから、市の中心部に向かっています。この迂回区間を廃止し、かわりに駅前大橋に短絡線を建設するのが、広島電鉄の「駅前大橋ルート」計画です。 迂回区間の一部を残し、比治山町から的場町を経て市内を循環する路線が「循環ルート」計画です。開業時期は2025年春の予定です。 広島電鉄駅前大橋ルートの概要 広島電鉄駅前大橋ルートは、広島電鉄の広島駅電停が駅ビルのアトリウム内に入り、そこから高架線で駅前大橋を経て、神谷町方面に繋がる新路線です。 広島駅から稲荷町交差点を経て比治山町交差点までが、駅前大橋ルートの新線区間です。   新線開業後は、広島駅~駅前大橋線~稲荷町~紙屋町方面が「本線」になります。また、稲荷町~比治山下が「比治山線」(皆実線)となります。稲荷町~的場町~比治山下は「循環線」に組み込まれます。広島駅~猿猴橋町~的場町間は廃止となります。   広島駅電停が駅ビル内に移設されることで、広島駅でのJRから広島電鉄への乗り換え時間は、約2.1分から約1.3分に短縮されます。 広島電鉄の乗降場には4線が配置され、これまで乗車2カ所、降車4カ所だったのが、乗降とも4カ所になります。広島駅に乗り入れる市内線は4系統ですので、乗降場は各系統別に運用される予定です。   駅前大橋線の開通により、広島駅から八丁堀地区、紙屋町地区への距離が約200m、所要時間が約4分短縮されます。 循環ルートは、的場町から紙屋町、市役所前、皆実町六丁目、段原一丁目を経て的場町に戻る路線です。循環ルートの運行頻度については「地域の利便性が確保できる便数」という曖昧な表現になっています。開業時期は2025年春です。   事業費と費用便益比 広島電鉄駅前ルートの事業費は109億円。うちインフラ部が約83億円で、国と自治体が負担します。インフラ外部が約26億円で、国と自治体が1/6ずつ、事業者(広島電鉄)が2/3を負担します。国負担分は、社会資本整備総合交付金により交付します。 費用便益比は2020年度調査で1.7。社会資本整備総合交付金により手厚い補助を受けることもあって、社会累積資金収支は1年で黒字転換する見通しです。   広島電鉄駅前大橋ルートの沿革 広島電鉄の路面電車は、広島駅から東へ迂回して市街地に向かっているという難点がありました。これを解消しようという考えは、路面電車利用者が減り始めた1960年代から存在していたようです。 具体的な動きになったのは、2000年の広島市『新たな公共交通体系づくりの基本計画について』で駅前大橋線が盛り込まれてからです。2002年には、中国地方交通審議会『広島県における公共交通機関の維持整備に関する計画について』で駅前大橋線が新規路線案として盛り込まれました。2004年12月に、広島市に路面電車の機能強化策を探る検討委員会が設置され、本格的な協議が始まりました。 2010年6月、広島電鉄の社長に国交省出身の越智秀信氏が就任すると、「駅前大橋線」の2016ー17年の運行開始を目指す考えを明らかにします。これを受け、2010年8月に、広島市は「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」を設置しています。 検討委員会では、広島駅乗り入れ方法について、平面、高架、地下が検討されました。広島市とJR側は広島駅建て替えを含めた高架案を支持し、広島電鉄側は地下案を推しました。ただ、地下案を推していたのは、広島電鉄内では越智社長一人のみだったようです。 危機感を抱いた他の役員が結束して、2013年1月に取締役会で越智社長を解任。新社長に就任した椋田昌夫氏により、広電も高架案に転じ、同年6月に、高架案の採用が決まりました。 当初の計画では、駅前大橋ルートの開業により、東に迂回する区間は廃止される予定でした。しかし、沿線町内会から的場町、段原一丁目電停の存続等を求める要望書が出されます。循環ルートの提案もこのときに出されました。これについて、広島市と広電は受け入れる姿勢を示し、迂回区間の多くが存続することになりました。 最終的に、広島市は、2014年9月2日に「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」を決定。本線が稲荷町電停から駅前大橋を通るルートに変更となり、駅前大橋で高架に上がり広島駅ビルに乗り入れることが決まりました。 2019年度に軌道法特許取得、都市計画決定となり、2020年度に着工しました。 広島電鉄駅前大橋ルートのデータ 広島電鉄駅前大橋ルートデータ 営業構想事業者 広島電鉄 整備構想事業者 広島電鉄・広島市 路線名 本線・比治山線 区間・駅 広島駅~稲荷町~比治山下 停留場1カ所新設、2カ所変更、1カ所廃止 距離 1.1km 想定利用者数 約32,000人/日(広島駅電停) 総事業費 約109億円 費用便益比 1.7 累積資金収支黒字転換年 1年 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 直流600V 単線・複線 複線 開業予定時期 2025年春 備考 社会資本整備総合交付金 ※データは主に広島電鉄株式会社からの軌道事業の特許申請(軌道延伸)の審議資料(2019)より 広島電鉄駅前大橋ルートの今後の見通し 広島電鉄駅前大橋ルートは、すでに整備着手済みの事業です。駅ビルに乗り入れる高架路線のため、工事には多少の時間はかかるものの、完成するのは確実となりました。駅前大橋ルートの開業にあわせて、循環ルートも整備されます。 開業時期は、当初は「平成30年代半ば」とされていましたが、特許申請時に「2025年春」とはっきりした時期が明示されました。 【参考資料アーカイブ】 『広島電鉄株式会社からの軌道事業の特許申請』(国土交通省)[PDF]
アストラムライン西風新都線

アストラムライン西風新都線

アストラムライン(広島高速交通)は、広島市中心部の本通から、大町、長楽寺を経て広域公園前駅まで18.4kmを営業している新交通システムです。これをさらに延伸し、JR西広島駅を経て本通に至る環状線を形成する計画があります。 JR西広島駅までの延伸は「西風新都線」として事業化が決定しており、さらに平和大通りを経て本通に至る区間は将来構想となっています。西広島までの延伸開業時期は平成40年代初頭(2028年頃)を予定していましたが、2036年度頃に後ろ倒しになりそうです。 アストラムライン西風新都線の概要 アストラムラインの延伸計画は、現在の終点である広域公園前駅から、五月が丘団地、石内東開発地を経由し、己斐中央線の全線を通り、西広島駅に接続するものです。延伸区間は「新交通西風新都線」と名付けられ、路線延長は約7.1kmです。 6駅を新設します。広域公園前~石内東開発地までに3駅、その先2駅を導入空間となる己斐中央線に設置します。残る1駅は西広島駅です。 2019年2月5日の広島市議会都市活性化対策特別委員会で詳細な駅位置やルートが公表されました。それによりますと、五月が丘1、五月が丘2、石内東、己斐上、己斐中、西広島の各駅(いずれも仮称)を設けます。石内東は、ジ・アウトレット広島に隣接します。 西風新都線は単線で建設し、各駅に交換設備を設けます。高架部分が5.6km、トンネル1.5km。途中に最急勾配5.9%という急勾配区間があります。区間の表定速度は27kmです。   需要予測と費用便益比 利用者数は、事業化決定時には約15,200人(2030年度)と予測され、建設費は570億円と試算されました。しかし、2024年に見直され、約9,100人、約760億円に修正されています。 費用便益比は2015年公表の資料で1.3とされています。2024年見直し後の数字は明らかではありません。 アストラムライン延伸の沿革 アストラムラインは、開業当初から延伸が想定されていて、当初の計画では、草津沼田道路を導入空間として、新井口方面への延伸が予定されていました。しかし、西風新都と広島中心部を直結する路線として、JR西広島駅延伸が議論されるようになりました。 広島市が正式にアストラムラインの延伸計画を示したのは1999年11月です。このとき公表された「新たな公共交通体系づくりの基本計画」において、広域公園前駅から西広島駅までの区間を「新交通西風新都線」と位置付け、おおむね15年後の完成を目指す第Ⅰ期事業化区間としました。 さらに、西広島駅から平和大通りなどを経由し広島駅までの区間を「新交通東西線」、本通駅から広大跡地付近までの区間を「新交通南北線」として位置付け、西広島駅から白神社前交差点を経由し本通駅までの区間を第Ⅱ期事業化区間とし、残る区間を第Ⅲ期事業化区間としました。また、五日市、商工センター方面などへの延伸についても、将来、ネットワーク化する可能性のある発展方向と定義しています。 このうち、西広島駅まで延伸する「新交通西風新都線」の整備が最優先とされ、2001年1月策定の「広島市都市計画マスタープラン」や、2009年10月策定の「第5次広島市基本計画」に盛り込まれています。ただ、広島市の財政が厳しいうえに、アストラムラインの経営も不振が続き、延伸事業化にはなかなか至りませんでした。 そんななか、アストラムラインは2012年に初めての営業黒字を計上。2015年6月に、広島市は、西風新都線の西広島延伸を事業化させることを正式に発表しました。 同時に、これまでⅢ期事業化区間とされてきた「新交通東西線」及び「新交通南北線」の広島駅~白神社前交差点~広島大本部跡地前の廃止を決め、西広島~本通間だけが計画として残されました。この区間は「新交通都心線」と名付けられ、西風新都線整備後に事業化が改めて検討されます。 新型コロナ禍などによる社会環境の変化を受け、2024年3月に開業予定を後ろ倒しを発表しました。新たな開業予定は2036年度ごろとされています。事業費は3割増の約760億円となり模様です。。 アストラムライン西風新都線のデータ アストラムライン西風新都線データ 営業構想事業者 広島高速交通 整備構想事業者 未定 路線名 西風新都線 区間・駅 広域公園前~西広島6駅新設 距離 7.1km 想定利用者数 約9,100人/日 総事業費 約760億円 費用便益比 1.3 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 不明 種類 案内軌条式鉄道 軌間 -- 電化方式 直流750V 単線・複線 単線 開業予定時期 2036年度ごろ 備考 -- ※費用便益比は2015年公表の試算。 アストラムライン延伸の今後の見通し アストラムラインの延伸については、広域公園前駅~石内東までの区間を「西風新都線」という形で部分開業することが構想されています。当初、開業時期は平成30年代後半とされており、2025年頃と見込まれていました。 しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で事業スケジュールを見直し、2024年3月に開業予定を後ろ倒しを発表しました。新たな開業予定は2036年度頃です。また、事業費は3割増の約760億円となる模様です。 西広島から平和大通りの地下を走り本通へ至る区間の開業時期は見通せません。開業すれば、全線が循環系統となって便利ですが、開業するにしても相当先となりそうです。 【参考資料アーカイブ】 『アストラムライン延伸の事業化について(2015)』[PDF]
熊本市電東町線

熊本市電東町線

熊本市電は、熊本市内の田崎橋・上熊本駅前~健軍町の2路線を有します。3方面5ルートの延伸計画があり、このうち「東町線」(健軍町~市民病院)1.5kmが事業化されています。 熊本市電東町線の概要 熊本市の市電延伸計画で優先的に進められているのが、「東町線」です。 現在の市電の終点・健軍町から新市民病院まで約1.5kmを延伸するものです。健軍町から県道熊本高森線を東へ向かい、自衛隊熊本病院や陸運支局などの横を通り熊本市民病院へ至ります。 停留所として、秋津新町、第二高校前・東区役所入口、東町、市民病院の4つを新たに設置します(停留所名はいずれも仮称)。延伸距離は正確には1.57kmで、単線0.43km、複線1.14kmです。 単線区間は健軍町から秋津新町までの区間です。健軍町から市民病院までの所要時間は7.2分を見込みます。概算事業費は135億円です。 開業予定は、秋津新町までが2029年度、市民病院までが2031年度です。 熊本市電延伸の沿革 7ルート案 熊本市電の延伸構想は古くからあり、2000年6月には熊本市交通局が「7ルート案」を公表しました。以下の7つです。 ・南熊本ルート(辛島町~東バイパス4.1km) ・沼山津ルート(健軍町~沼山津2.3km) ・県庁ルート(市立体育館前~熊本空港15.1km) ・東町ルート(健軍町~熊本空港14.1km) ・産業道路ルート(電報局前~長嶺5.9km) ・田崎ルート(熊本駅前~田崎市場2.0km) ・広町ルート(市役所前~上熊本駅1.4km) 2001年6月には、当時の三角熊本市長が、東町ルートのうち健軍町~東町~グランメッセ熊本間の4.1kmと、広町ルート1.4kmを優先することを表明しました。東町ルートは、健軍官庁エリアへのアクセスの役割を果たし、広町ルートは熊本電鉄と接続します。 2002年1月には、九州運輸局が地域活性化調査委員会を開き、10の延伸ルート案を提示しました。熊本港延伸、上熊本駅結節強化、熊本電鉄都心結節(国道3号ルート、上通ルート、坪井川ルート)、帯山・長嶺延伸(健軍ルート、上水前寺ルート、産業道路ルート)、熊本空港延伸(健軍方面延伸ルート、第2空港線延伸ルート)の5ケース10案です。 いずれも、熊本港や熊本空港方面への延伸、熊本電鉄との接続案が含まれていましたが実現には至りませんでした。 2004年には、動植物園正門までの延伸案が浮上。健軍線の動植物園入口電停から分岐し、熊本市東区の庄口公園の東側に単線を敷設し、動植物園正門まで800m延伸する計画でした。しかし、調査をした結果、採算性が見込めないことと、湖の水質に悪影響を与える可能性があることから、計画は中止となりました。 この時期には、健軍町から沼山津や自衛隊方面の延伸や、藤崎宮へ延伸し熊本電鉄と接続する案なども新たに浮上しました。しかし、いずれも実現には至りませんでした。 5ルート案 なかなか前に進まない市電延伸計画が、改めて具体化しはじめたのは、2014年12月の市長選で大西一史氏が当選してからです。大西氏は、市長選のマニフェストに市電延伸を盛り込んでいました。具体的には、田崎橋から先の西部方面、南熊本駅への延伸、健軍からグランメッセ経由熊本空港への延伸、の3路線を候補としていました。 大西氏は2014年12月に市長に就任。大西市政が本格的に始動した2015年度には、さっそく3方面5ルートについて、導入空間、採算性、道路交通への影響などの観点で具体的な検討が始まります。 検討対象となった「5ルート」は以下の通りです。 熊本市電延伸検討ルート ルート名 区間 経由地 距離 沼山津ルート 健軍町電停~沼山津周辺 県道熊本高森線 約2.3km 自衛隊ルート 健軍町電停~新市民病院周辺 第二高校、東市役所 約1.5km 産業道路ルート 九品寺交差点電停~県民総合運動公園周辺 日赤病院、県立大学 約9.5km 田崎ルート 田崎橋電停~西区役所周辺 田崎市場 約4.5km 南熊本駅ルート 辛島町~南熊本駅周辺 熊本地域医療センター 約1.7km   2015年の調査では、このうち自衛隊ルート、南熊本駅ルートの2ルートが相対的に優位とされました。両ルートは、道路を拡張せずに軌道を敷設できるため、工事のハードルが低く、利用者も多く見込めると判断されました。 2016年度にさらに事業の精査が行われ、結果として、まずは自衛隊ルートを優先して検討することが決まりました。2000年の「7ルート案」の東町ルートの一部と考えると、当初構想から16年を経て、ようやく実現にいたることになります。   事業着手へ 2016年度の調査では、自衛隊ルートの概算事業費が100億円~130億円、費用便益比は1.0~1.3、収支採算性は一定の黒字を確保する見込みとされました。利用者は年間58万人との予測です。事業期間は7年ほどで、2026年度の開業を目指すとしました。 2018年12月には、熊本市が市議会に延伸の整備スケジュール案を提示。2019年度から設計や地質調査に入り、工事に必要な手続に着手する方針を伝えました。早ければ2021年度に着工、工期は4年で、2026年度の開業を目指す考えを明らかにしました。 2019年度予算には、基本設計費が計上されました。ところが、議会から「延伸効果や市民ニーズが限定的」として、予算執行凍結の決議がなされてしまいます。しかし、2019年4月~6月に行われた市民アンケートでは、事業の推進を求める声が8割を超え、工事へ向けて準備が進められました。 2020年度に基本設計がおこなわれ、2021年3月に総事業費が135億円になると発表されました。 2021年3月に公表した基本設計では、健軍町電停から県道28号を東進し、東野1丁目交差点を左折して市道に入るコースを採用しました。電停は4カ所を設けます。 新型コロナの影響もあり、2021年度では事業化へ向けた予算が計上されず、計画は停滞します。しかし、2023年度末(2024年3月)に、熊本市が軌道運送高度化実施計画を発表。2031年度開業を目指して事業着手することが正式に決まりました。秋津新町までの区間は、2029年度の先行開業を目指します。路線名は「東町線」とされました。 熊本市電東町線のデータ 熊本市電東町線データ 営業構想事業者 一般財団法人 熊本市公共交通公社 整備構想事業者 熊本市 路線名 東町線 区間・駅 健軍町~市民病院 距離 1.5km 想定利用者数 約2,290 人/日の増加 総事業費 約135億円 費用便益比 1.1~1.3 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 直流600V 単線・複線 複線(健軍町~秋津新町間約0.43kmは単線) 開業予定時期 2029年度(健軍町~秋津新町) 2031年度(秋津新町~市民病院) 備考 軌道運送高度化事業 社会資本整備総合交付金 ※データは主に熊本市の『軌道運送高度化実施計画』(2024年)より。 熊本市電東町線の今後の見通し 熊本市電の延伸は、昔から構想が浮かんでは消えることを繰り返してきました。なかでも健軍町からの路線延伸は大本命とされてきましたが、それでもなかなか実現しませんでした。 2014年に大西市政が誕生して、市電延伸計画は、ようやく実現へ向け大きく動き始めます。背景として、市電の利用者が微増傾向にあることも挙げられます。2009年度には924万人だった利用者は、2017年度には年間1109万人が利用するまでに増えていて、路面電車の必要性が広く認識されるようになりました。 終点の健軍町の利用者数は、熊本駅前、通町筋に次いで3番目に多く、駅勢圏の広さを感じさせます。そして、延伸先には官庁や公的施設が軒を連ねているほか、市民病院も建設されましたので、確実な利用者が見込めます。 2024年度に事業着手となり、市民病院までの延伸開業は確実になりました。新型コロナ禍の影響もあり、当初予定の2026年度には間に合いませんが、2031年度の全線開業を目指します。 それ以外の4ルートについては、「南熊本ルート」にやや優位性があるとされます。南熊本ルートに関しても、事業着手に向けた検討が始まりそうですが、現時点で実現性についてはなんともいえません。 【参考資料アーカイブ】 『熊本市電軌道運送高度化実施計画概要版』(2024)[PDF]
熊本空港アクセス鉄道

熊本空港アクセス鉄道

熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線肥後大津駅~熊本空港(阿蘇くまもと空港)を結ぶ鉄道新線計画です。実現すれば、熊本駅~熊本空港間が約44分で結ばれます。 熊本空港アクセス鉄道の概要 熊本空港アクセス鉄道はJR肥後大津駅~阿蘇くまもと空港間の約6.8kmを結ぶ鉄道新線計画です。開業目標は2034年度です。 空港アクセス鉄道が整備されると、熊本駅から阿蘇くまもと空港までの所要時間が約44分となり、既存交通機関を使った場合の約60分から約20分短縮されます。 路線は肥後大津駅の東でJR豊肥線から分岐し、南へ向かい、白川を渡って、東側から阿蘇くまもと空港に至ります。新駅は終点の阿蘇くまもと空港駅にのみ設置されます。途中駅の計画はありません。 路線は単線で、起点の肥後大津駅は地上駅です。肥後大津の住宅街から田園地帯にかけては高架構造で通過し、その後、空港のある高遊原台地は地下トンネルとなります。終点の空港駅は、2023年に公表された「計画段階環境配慮書」では「地上式又は地下式」と記されています。   需要予測と採算性 需要予測は1日約4,900人の利用を見込み、快速運行の場合は約5,500人としています。 概算事業費は約410億円で、費用便益比は30年間で1.03、50年間は1.21、快速運行の場合は1.21と1.42としました。 収支採算性は、国と県が3分の1ずつ補助した場合、36年(快速運行なら30年)で累積資金収支が黒字転換します。一方、現行の補助制度(空港アクセス鉄道等整備事業費補助)の場合、国と県の補助が18%にとどまるため、基準となる40年以内の黒字転換はできません。 このため、熊本県では空港アクセス鉄道補助の嵩上げを求めてきましたが実現できず、2024年度の国への要望で、補助率の高い地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の鉄道事業への適用を求めています。この交付金は道路には適用されていますが、鉄道への拡大を求めたものです。 適用されれば、少なくとも3分の1以上の補助率が見込めるため、収支採算性の問題が解決し、着工に向けたハードルがなくなります。   熊本空港アクセス鉄道の沿革 熊本空港は、熊本市中心部から直線距離で約15kmの位置にあり、地方空港の立地としては市街地から離れています。現在の主たる交通手段はバスで、熊本中心部の交通センターから約50分、熊本駅からは約60分かかります。しかも、市内の渋滞がひどく、予定通り着かないこともあります。 市街地から空港までのアクセスに時間がかかりすぎ、定時性にも難があるため、熊本市中心部と空港とを結ぶ空港連絡鉄道を求める声は古くからあり、整備構想も存在していました。 2004年には実際に空港アクセス鉄道の建設が調査されました。当時の試算では、総事業費286億円と見積もられ、採算を取るには1日5,000人の利用が必要とされました。 しかし、当時は1日2,500人程度の利用者が精一杯で、鉄道事業の採算性の確保は難しいとの判断に至りました。2007年度には、鉄道建設計画を凍結。肥後大津駅から熊本空港へシャトルバスを運行して連絡する施策に軸足を移しています。 その後、インバウンド需要の盛り上がりやLCCの隆盛を経て、熊本空港の利用者数は増加。2020年には空港民営化が予定され、2022年度末には新ターミナルビルが竣工する見通しとなりました。 状況の変化を受け、熊本県は2018年度にアクセス手段の改善案を再検討。鉄道延伸(事業費330億~380億円)、モノレール新設(2,500億~2,600億円)、熊本市電延伸(210億~230億円)の3案で事業費や所要時間、輸送量などを比較検討しました。 結果として、モノレールは事業費が高すぎ、市電は速達性などに難があり、最終的に鉄道延伸案を採用しました。 鉄道延伸案では、JR豊肥線からの分岐駅の候補として、三里木駅、原水駅、肥後大津駅が検討されました。原水分岐の場合、熊本駅~熊本空港の所要時間は約38分、1日の利用者数は約5,900人、事業費は約330億円と試算されました。肥後大津分岐の場合は、同約42分、約5,800人、約330億円です。 これに対し、三里木分岐案は総合運動公園へのアクセスにも使えるため、利用者数が6,900人と最も多く見込めることがわかりました。このため、2018年12月には、熊本県の蒲島知事が三里木駅分岐案を中心に検討を進める方針を示しました。2019年2月には、JR九州と基本合意にこぎ着けます。 ただ、JR九州は運行系統の都合から三里木分岐案に消極的な姿勢を示し、基本合意では、空港線の列車は三里木駅で折り返し、豊肥線には乗り入れないこととなりました。 熊本県は三里木駅案を中心にさらなる調査を進め、2020年6月に新しい報告書(2019年度調査)を公表。しかし、この調査では、費用便益比や採算性の問題をクリアできないことがわかりました。新型コロナ禍の折でもあり、蒲島知事は「いったん立ち止まり、さらに議論を深める」と議会で述べ、先行きは見通せなくなりました。 コロナ禍も落ち着いた後、2022年9月には、新たな試算を公表。知事は「肥後大津ルートの事業効果が高い」と表明し、肥後大津ルートへ転換します。 このときの30年間の費用便益分析では、肥後大津ルートが1.03、三里木ルートが1.01、原水ルートが0.72でした。収支採算性については、国と自治体が3分の1ずつを補助する場合に、累積資金収支が黒字になるのは肥後大津ルートが36年、三里木ルートが34年となりました。原水ルートは40年以内に黒字になりません。 こうした調査の結果として、最も事業効果が高いのは肥後大津ルートであるという結論に至ったようです。数字的に抜きんでているわけではありませんが、肥後大津ルートなら、JR九州が直通運転に応じる姿勢を見せたことが決め手になったように察せられます。直通運転をするかしないかは、空港アクセスの価値に大きな影響を及ぼします。 2022年11月29日には、蒲島知事がJR九州の古宮洋二社長と会談。肥後大津分岐案で合意し、熊本空港アクセス線は肥後大津ルートとなることが、事実上決定しました。 合意に際して交わされた確認書では、空港アクセス線と豊肥線が直通運転をすることや、運営方式を「JRへの委託」または「上下分離でJRが運行」とすることが記されました。いずれの形でも「JR線」として運行する方針で合意したといえます。約410億円と見込まれている整備費は、JRが受益の範囲で最大3分の1を負担します。 2023年3月20日には、熊本県が空港アクセス検討委員会の第6回会合を開催。空港アクセス鉄道建設の今後のスケジュール案を示しました。2027年度から用地取得などの本格的な工事期間に入り、2034年度の開業を目指すことが明らかになりました。 最後に残されたのは、補助金の問題です。熊本県では、2024年に公表した『国の施策等に関する提案・要望』に「空港アクセス鉄道の整備」及び「JR豊肥本線の機能強化」を盛り込み、これらの事業を「国家戦略の実現に必要なインフラ整備として位置づけ、鉄道整備を地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の対象とする」ことを求めました。 これまでは、空港鉄道アクセス補助の補助率の嵩上げを求めていましたが、方針転換したことになります。同交付金の適用対象になるかはまだ決まっていませんが、2027年度の着工までにケリを付けることになるのでしょう。 熊本空港アクセス鉄道のデータ 熊本空港アクセス鉄道データ 営業構想事業者 JR九州 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 肥後大津~熊本空港 距離 約6.8km 想定利用者数 4,900~5,500人/日 総事業費 約410億円 費用便益比 1.03~1.21 累積資金収支黒字転換年 30~36年(国1/3補助の場合) 種別 未定 種類 普通鉄道 軌間 1,067mm 電化方式 交流20,000V 単線・複線 単線 開業予定時期 2034年度 備考 地域産業構造転換インフラ整備推進交付金を要望 ※データは主に熊本県の『阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取組み状況』(2024年5月)より。 熊本空港アクセス鉄道の今後の見通し 熊本市内から熊本空港は遠く、バスでのアクセスでは所要時間がかかりすぎるため、鉄道新線は待ち望まれてきました。しかし、2000年代まで、熊本空港の利用者数は伸び悩み、採算性の問題でアクセス鉄道は実現しませんでした。 しかし、LCCの登場やインバウンドの隆盛により、空港利用者数が増え、鉄道新線の議論も本格化していきました。 新型コロナの影響もあり計画は停滞しましたが、最終的に肥後大津ルートで話がまとまり、蒲島知事が退任間際にJR九州と合意にこぎ着けました。 JR豊肥線沿線にTSMCの工場が進出したことも追い風となり、熊本空港アクセス手鉄道の実現はほぼ確実といえそうです。採算性の問題は課題としてあるものの、空港アクセス鉄道は豊肥線の輸送力増強とセットで議論されるようになり、あわせて「地域産業構造転換インフラ整備推進交付金」の適用を目指すようです。 空港アクセス鉄道ができれば、JR豊肥線の輸送力増強も不可欠になるので、部分複線化も見据えながら、どちらも整備が進むことでしょう。 【参考資料アーカイブ】 『阿蘇くまもと空港アクセス鉄道の検討に係る調査業務報告書(2020)』[PDF] 『阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取り組み状況(2024)』[PDF]
那覇LRT

那覇LRT

那覇市LRTは、沖縄県那覇市の真和志地域を中心にLRTを敷設する計画です。市街地の東西と南北に2ルート3区間を整備します。 那覇LRTの概要 那覇市では、モノレールと並ぶ交通軸としてLRTの導入計画を進めています。2024年3月28日に、LRT(次世代型路面電車)の整備計画の素案を公表しました。 素案によりますと、LRT導入が検討されているのは、東西ルートと南北ルートの2路線です。 先行整備をするのは東西ルートです。県庁北口~県立南部医療センター付近の約5kmを本線とし、県庁北口~若狭海浜公園付近の約1kmを支線とします。 具体的なルートをたどると、若狭海浜公園から、ゆいレールの県庁前付近を経由し、那覇高校前を経て開南せせらぎ通りを東へ向かい、開南交差点で南東に折れて開南本通りに入ります。寄宮十字路(真和志小学校前)で南北軸と交差し、真地久茂地線を東進して、県立南部医療センター付近が終点です。 南北ルートは、真玉橋付近~新都心地区の約5kmです。具体的なルートをたどると、那覇新都心から那覇中環状線をたどっておもろまち駅前を経て、真嘉比で南に折れます。松川を経て寄宮十字路で東西ルートと交差。そのまま南下して、真玉橋に至ります。   導入空間 導入空間は4車線道路で、中央2車線をLRT軌道とします。LRT軌道は1435mmの標準軌複線で、導入空間の幅は約7m。東西ルートの支線部分は単線として、幅約4mです。 停留所は約500m間隔で設置します。車両基地は立体都市公園制度を活用し、松山公園の地下に整備する予定です。 一般車両のLRT軌道内走行は、原則として禁止します。停留場は、交差点の横断歩道からアクセス可能な位置に整備することを想定しています。   所要時間と運行本数、車両 所要時間は、東西ルート本線が約19分、同支線が約8分。南北ルートは約17分です。 運行本数は、本線部がピーク時に毎時10本、オフピーク時に毎時6本、深夜早朝に毎時4本です。深夜早朝を除き、10分間隔以上の頻度で運行します。 東西ルートの支線部は毎時3本程度で、深夜早朝は毎時2本程度です。 導入車両は、全長30mの低床車両3両編成を想定します。定員160人で、うち座席定員は50人です。編成数は東西12、南北9の計21編成を想定します。 概算事業費と収支予測 事業スキームは上下分離方式となる見込みです。軌道運送事業者(上)が運行を担い、軌道整備事業者(下)が施設を整備・保有します。軌道運送事業者は第三セクター、軌道整備事業者は那覇市を想定します。 概算事業費は、東西ルート(本線・支線)が約320億円、南北ルートが約160億円の計480億円です。国の街路事業と都市・地域交通戦略推進事業制度の適用を受け、480億円のうち半分以上の約270億円を、国の交付金でまかなう想定です。 那覇市の実質的な負担は約210億円という計算です。 需要予測は、東西ルート(本線・支線)開業時で1日約15,000人、全線開業時には東西ルートとあわせて1日約21,900人を見込みます。 収支計画は、東西ルート開業時で約2.3億円の単年度黒字が出ると見込みます。全線開業時には約1.5億円の黒字です。 費用便益比(B/C)は、東西ルート(本線・支線)が30年で1.01、50年で1.20。全線開業時には、30年で1.15、50年で1.35と試算しました。いずれも、基準となる1を超える見通しです。 那覇LRTの沿革 那覇市には、戦前の一時期、路面電車が敷設されていました。通堂~首里間6.9kmで、那覇港周辺から市街地を経て首里に至る路線です。1917年に全線開業、1933年に全線廃止という短命路線でした。このとき、首里から真和志に至る路線も計画されていましたが、実現はしませんでした。 戦後、那覇市内の道路渋滞が激しくなると、那覇市内に軌道系交通機関を敷設する計画が浮上し、「ゆいレール」として結実します。ゆいレールは那覇市中心部と首里を結んでおり、経路こそ違うものの、戦前の路面電車の生まれ変わりともいえます。 一方で、新たに路面電車を敷設する計画も浮上しました。明確にいつ浮上したかは定かではありませんが、どうやら1990年代に国際通りに路面電車を走らせようという構想が浮上してきたようです。 2000年に那覇市長に当選した翁長雄志氏は、選挙中に国際通りや平和通りに路面電車を敷設することを訴えました。同氏の公約だったわけです。同市長は、2004年の再選後、12月の定例市議会で「新世代路面電車の敷設」を政策目標の一つとして掲げました。 この新世代路面電車がLRTで、那覇市はこの頃から市内にLRTの敷設の調査を開始したようです。同定例会で、翁長市長は、象徴的な例として新都心から国際通りへの路線をあげています。 その後、那覇市では、2003年度に中心市街地まちづくり交通計画調査、2005年度に那覇市における新たな公共交通に関する基礎調査などを行い、そのなかで新型路面電車を含めた公共交通システム調査をおこないました。 この調査では、国際通りと新都心や真和志地域などを結ぶルートのケーススタディを行い、事業費や走行空間の条件といった課題整理をしています。このケーススタディは、14kmのLRTを導入した場合、概算事業費として約320億円、1kmあたりに約23億円がかかると試算しました。 2009年には那覇市交通基本計画を策定。那覇市・沖縄市間を南北に、那覇市・与那原町間を東西に、それぞれ結ぶルートを広域的な公共交通の基幹軸として位置づけました。さらに、モノレールと結節し、真和志地域と中心市街地、中心市街地と新都心を結ぶルートを市域内の公共交通の基幹軸として位置づけました。 この東西の基幹軸として想定されていたのがLRTです。つまり、この時点では、LRTは、国際通りではなく、那覇中心部~真和志~与那原を結ぶ交通機関という位置づけになっていたわけです。 2012年の市議会定例会では、当時の都市計画部長から、「那覇~与那原間のLRT導入につきましては、市町村をまたぐ広域的な交通計画であり、現在、国において軌道系導入に向けた可能性調査を実施中」という答弁がありました。 2014年には、翁長氏の後を継いで、城間幹子氏が那覇市長に当選。城間市長もLRT建設を公約に掲げていたため、LRTの調査を継続します。 2018年3月には、「初期段階のLRT導入可能性調査」がまとまり、3つのルート素案が公表されました。旭橋付近から東西に延びるルートを基本とし、3つの素案を設定しました。 素案1は、東西軸をもう一本作る案(約5.1km)、素案2は副都心へ伸びる案(約4.8km)、素案3は、那覇北部を周回する案(約6.6km)です。 概算事業費は素案1が約322億円、素案2が約323億円、素案3が約529億円です。1日あたりの予想利用者数は、素案1が約9,600人、素案2が約11,300人、素案3が13,700人となりました。 収支採算性では、単年度収支が素案1が 1,600万円の黒字、素案2が1億900万円の黒字、素案3が7,800万円の黒字と予想しています。 その後、2019年度に、導入調査報告書を基にした那覇市地域公共交通網形成計画(網形成計画)の骨子案が公表されました。そのなかにLRT計画も盛り込まれ、ルートは素案2が採用されています。旭橋~真和志(寄宮)~県立南部医療センターを結ぶ東西路線と、上之屋~おもろまち~真和志(寄宮)~真玉橋に至る南北路線です。   網形成計画では「真和志地区と中心市街地、新都心地域を結ぶわかりやすいルート設定」を掲げ、真和志を中心としたエリアにLRTを整備する方針を明記しました。このLRTが、真和志地区の交通改善を主目的にした路線であることがはっきり示されたわけです。 その後、2024年3月28日に、那覇LRT整備計画素案が発表されました。網形成計画に沿ったルート案を具体化した内容です。知念覚市長は、開業は早くても2030年代半ばになるとの見通しを示しました。   那覇LRTのデータ 那覇LRTデータ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 那覇市 路線名 東西ルート、南北ルート 区間・駅 県庁北口~県立南部医療センター付近(東西ルート本線) 県庁北口~若狭海浜公園付近(東西ルート支線) 真玉橋付近~新都心地区(南北ルート) 距離 約11km(東西ルート本線5km、同支線1km、南北ルート5km) 想定利用者数 21,900人/日(全線開通時) 総事業費 約480億円(全線) 費用便益比 1.15 単年度収支黒字化 1年 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 未定 単線・複線 複線(支線は単線) 開業予定時期 2040年頃 備考 街路事業、都市・地域交通戦略推進事業 ※データは主に『那覇市LRT整備計画素案』(2024年3月)より。 那覇LRTの今後の見通し 那覇市LRTは、当初は国際通りと新都心を結ぶ象徴的な新交通機関として語られてきました。その後、那覇~与那原を結ぶ基軸交通という位置づけになり、そのうちの那覇市内が切り取られ、市中心部と真和志、県立南部医療センターを結ぶ生活路線という形に収束しました。 おおざっぱにいえば、那覇東部への公共交通が貧弱なので、その解決策として選挙公約だったLRT事業が当てはめられたという観があります。 実際のところ、想定経路に軌道を敷設するのは簡単ではなさそうです。導入予定の道路には片側1車線の区間もあり、LRTの専用軌道を導入するには不十分です。2車線道路区間にしても、1車線を専用軌道に供して問題ないのか、という不安もあるでしょう。実際に導入する場合、マイカー利用者から強い反対が起こる可能性が高そうです。 しかも、真和志方面は勾配が多く、一部区間で道路の勾配が40パーミル~60パーミルを超えたり、停留所の多数が縦断勾配10パーミル以上になるという問題もあります。こうした路線に鉄軌道が適しているのか、という疑問もあります。 那覇市東部に軌道系交通機関を導入するという大きな政策目標に異論は少ないとみられますが、具体論に入ると課題は山積しています。 那覇市では、事業化に向けた調査を2024年3月に取りまとめ、事業化へ向けた調整に入りました。関係機関と協議し、市民からのパブリックコメントを反映したうえで、整備計画をとりまとめます。さらに、都市計画決定、会社設立、軌道法特許取得などを経て着工となります。 那覇市では、2026年度末までの整備計画策定、2040年度の東西ルート先行開業を目指していますが、現状で道路幅員が十分確保できていない部分もあるため、開業見通しが明確になっているとはいえません。 全線開業すれば、計11kmのLRT路線が那覇市に出現します。ほぼ全線が併用軌道とみられ、路面電車として全国的にも中規模の路線網になりそうです。 ただ、建設までのハードルは低いとはいえず、現時点では予定通り実現できるか、不透明な印象もあります。 【参考資料アーカイブ】 『那覇市LRT整備計画素案(2024)』[PDF]

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