秋田新幹線は、盛岡駅から大曲駅を経由して秋田駅を結ぶミニ新幹線です。厳密な分類では在来線で、田沢湖線と奥羽線の一部区間の愛称です。
秋田新幹線では、岩手・秋田県境の仙岩峠に新トンネルを掘削して、高速化を図る構想があります。
秋田新幹線新仙岩トンネルの概要
秋田新幹線は、盛岡~秋田127kmを結ぶミニ新幹線です。在来線の田沢湖線と奥羽線大曲~秋田間を標準軌にして東北新幹線と直通運転可能にした路線です。
秋田新幹線の最高速度は130km/hですが、仙岩トンネルを含む赤渕~田沢湖間は急曲線が多く、60-80km/h程度に抑えられています。さらに、この区間は雪、雨、強風などの自然災害の影響を受けやすく、遅延、運休が生じやすくなっています。
また、赤渕~田沢湖間には、築50年の橋梁が集中しており、架け替えの必要にも迫られています。しかし、この区間は急曲線が連続するため、架替時に仮線を作るなどの配線変更が困難です。したがって更新施工時には秋田新幹線の長期運休や、莫大な工事費、工期が必要になると見込まれています。
こうした課題を一気に解決するのが、赤渕~田沢湖間に長大トンネルを掘削する構想です。仙岩峠を貫く新トンネルのため、「新仙岩トンネル」と呼ばれています。
2009年には、JR東日本東北工事事務所が、「秋田新幹線の線区改善に関する一考察」という論文を土木学会に発表しました。それによりますと、新仙岩トンネルルートとして3案が比較され、このうち最長の12.4kmのトンネルとなる案を選定しています。
同案では、単線トンネルのほぼ中央に交換設備を設置します。
トンネル開通により、東京~秋田間の上下線の平均所要時間を7分短縮できるとしています。約7分の短縮により、東京~秋田間の鉄道シェアが約2.4%増加すると試算。年間9.4億円の増収効果を見込みます。
この案は「考察」に過ぎませんが、2017年には、JR東日本は赤渕~田沢湖間の18.1kmで約15kmの長大トンネルを含む新ルートを建設する計画を秋田県に伝達。2021年7月には、JR東日本と秋田県が覚書を交わし、実現に向け動き出しました。
新ルートでは、トンネルを用いた直線化により、最高速度を160km/hに引き上げます。覚書によると、概算事業費は700億円、工期は工事着手より11年程度です。完成すれば、東京~秋田間が7分短縮され3時間30分程度になる見通しです。詳細なルートなどは公表されていません。
秋田新幹線新仙岩トンネルの沿革
秋田新幹線の構想は、1984年に行われた田沢湖線高速化の調査にはじまります。その後、秋田県の建設運動がみのり、1992年3月に着工、1997年3月に開業しました。
秋田新幹線開業に際し、奥羽線・田沢湖線の高速化が図られ、最高速度130km/hでの運転が可能になりました。しかし、この速度で走れるのは秋田新幹線全体の約23%にすぎません。
なかでもネックとなっていたのが赤渕~田沢湖間の仙岩トンネルを含む区間でした。この区間は、冬季にたびたび輸送障害も生じており、2005年の豪雪では列車が運行中で立ち往生し、乗客が車内に缶詰め状態になるという事件も生じています。
こうした状況を背景に、2009年にJR東日本の東北工事事務所から、上述の「秋田新幹線の線区改善に関する一考察」という論文が土木学会東北支部で発表されました。仙岩峠に新しいトンネル掘るという構想です。
これはたんなる論文にすぎませんでしたが、その後、JR東日本は仙岩峠区間の新ルートに関し本格的な調査を開始します。2015年5月には、ボーリングなどの現地調査に着手。2017年11月に、秋田県に結果を説明しました。その内容は上述したとおりです。
2018年7月18日には、岩手、秋田両県の沿線7市町などで構成する「防災対策トンネル整備促進期成同盟会」が結成。老松博行・大仙市長が会長に就きました。
2019年1月の年頭記者会見で、佐竹敬久秋田県知事は東京~秋田間の新幹線での所要時間を3時間まで短縮できるとの考えを、JR側から示されたと明かしました。これは東北新幹線の360km/h運転を前提に、新トンネルを建設した場合の試算です。大曲駅のスイッチバック解消も踏まえた数字のようで、同知事はその解消にも意欲を見せました。
2021年7月26日には、秋田県とJR東日本が、「秋田新幹線新仙岩トンネル整備計画に関する覚書」を締結。相互に連携、協力しながら整備計画を進めることが決まりました。このとき、JR東日本は総事業費が約700億円、工期11年であることを正式に公表しています。
JR東日本は事業費の6割を負担する意向を示しています。残りの事業費は、国や地元自治体が負担することになりますが、その割合は決まっていません。
その後、秋田県とJR東日本が折半して調査を開始。調査は2023年度までおこなわれました。
2024年3月には、JR東日本と秋田県などが、「秋田新幹線と沿線地域の持続的発展プロジェクト」に関する連携協定を締結。新仙岩トンネルの実現に向け連携した取り組みをおこなうことが盛り込まれました。
秋田新幹線新仙岩トンネルのデータ
営業構想事業者 | JR東日本 |
---|---|
整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 秋田新幹線 |
区間・駅 | 赤渕~田沢湖 |
距離 | 約15km(現在は約18.1km) |
想定利用者数 | –日 |
総事業費 | 約700億円 |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 交流20,000V |
単線・複線 | 単線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
秋田新幹線新仙岩トンネルの今後の見通し
秋田新幹線新仙岩トンネルの建設を推進しているのは、事業者であるJR東日本です。仙岩峠区間は自然災害の影響を受けやすく、遅延が生じれば東北新幹線までダイヤ乱れが波及します。
また、橋梁を含む鉄道施設の老朽化は進んでおり、近い将来の設備更新は避けられません。現橋梁の架け替えには約120億円の費用がかかると見積もられていて、JRとしては、山間部の橋梁を架け替えるくらいなら、トンネルを掘って保守費用を減らした方がいい、という判断になっているのでしょう。
もちろん、秋田県もトンネル建設推進に前向きです。ただし、新トンネル区間となる赤渕~田沢湖間は、岩手・秋田両県の県境にあり、新トンネルの建設には岩手県の協力も不可欠です。
その岩手県は費用負担を警戒して、現時点では積極的な姿勢を見せていません。岩手県も後ろ向きではなさそうですが、いまのところ建設運動はJR東日本が中心で、秋田県が後押ししている印象です。
秋田県とJR東日本が前向きで、岩手県も反対しない計画ですので、新トンネルはいずれできるでしょう。ただ、700億円という事業費は巨額で、昨今のインフレを踏まえるともっと高騰する可能性もあります。JR東日本が6割の負担をしたとしても、残りの4割を国や県がどう分担するのかの議論は残ります。
国土交通省の補助金の枠組みとしては「幹線鉄道等活性化事業費補助」があり、これを活用すれば、国と地方自治体がそれぞれ2割ずつを負担することになります。ただ、実現には施設を整備・保有する第三セクターの設立が必要など、枠組み作りから始めなければなりません。岩手県が、どの程度の負担に応じるかも焦点になります。
こうした枠組みを整えたうえで、事業化から完成まで10年以上かかります。そのため、開業まで相当の時間がかかるのは間違いなく、早くても2040年ごろになりそうです。
なお、秋田新幹線の線形改良については、大曲駅のスイッチバックを解消する構想もあります。これについては、秋田新幹線計画時にも検討されました。しかし、短絡線を作る場合、大曲駅の移転を伴うため、地元の反対が強く、実現に至りませんでした。
いまも構想は残りますが、具体的な計画はありません。ただ、東京~秋田間の所要時間を3時間にするためには、大曲の改良は不可欠です。それもあってか、2019年に佐竹敬久・秋田県知事が前向きな姿勢を見せており、今後進展があるかもしれません。