羽越新幹線

富山~新潟~秋田~山形

羽越新幹線は、富山市から新潟市、秋田市を経て青森市に至る新幹線です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。

北陸新幹線と共用する富山~上越妙高間と、上越新幹線と共用する長岡~新潟間が開業済みです。それ以外の区間の着工予定はいまのところなく、開業予定時期も未定です。

羽越新幹線の概要

羽越新幹線は、富山~青森間を日本海側に沿って結ぶ新幹線の基本計画路線です。在来線では、北陸線、羽越線、奥羽線に沿う形です。

1973年に「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に盛り込まれました。上越新幹線と共用する長岡~新潟間と、北陸新幹線と共用する富山~上越妙高間が開業済みです。それ以外には、建設予定はありません。ただ、最近になり、とくに山形・秋田県で、建設に向けた運動が始まっています。

上越新幹線の長岡駅の新幹線ホームは、現在11・12番線の相対式2面2線になっていますが、それぞれのホームを島式に改造し、2線を増やして2面2線にできるスペースが確保されています。北陸新幹線の上越妙高駅も、羽越新幹線接続を考慮して2面4線の構造になっています。

建設する場合、北陸新幹線上越妙高駅から分岐して柏崎市を経て、上越新幹線長岡駅に至り、同新潟駅から延伸して、新発田市、村上市、鶴岡市、酒田市、にかほ市、由利本荘市、秋田市、能代市、北秋田市、大館市、弘前市を経由して東北新幹線新青森駅に至ると思われます。

以下では、2020年3月にまとめられた『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務報告書』を基に、羽越新幹線の概要を見て行きます。

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より

 

所要時間と運転本数

報告書によりますと、羽越新幹線の総延長は656.3kmを想定します。

所要時間は、320km/h運転の場合、富山~新青森間が3時間10分、上越新幹線と直通した場合の東京~鶴岡間が2時間24分、東京~秋田間が2時間56分、東京~弘前間が3時間32分などとなっています。

1日あたりの運転本数は、羽越・奥羽両新幹線が開業した場合、新大阪~新潟、新大阪~新青森、東京~新青森(新潟経由)、東京~新青森(山形経由)、東京~秋田(同)の5系統が、各16往復と試算しています。各系統が毎時1本程度、複数系統が走る区間は毎時2本程度です。

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より


 

概算工事費

概算工事費は、全線を複線フル規格で、これまでの新幹線と同等のものを建設する場合、羽越新幹線が3兆5250億円です。羽越・奥羽新幹線を同時開業で工事した場合、5兆4833億円と試算しました。

単線化、駅舎の簡略化、高架ではなく地平・盛土構造での建設などにより費用を圧縮した場合、羽越新幹線で2兆5942億円、同時開業で4兆393億円となります。

ただし、単線整備の場合は列車交換による表定速度の低下や運行本数の制限が生じます。地平構造の場合は、交差道路との立体交差対応や、排水・排雪設備の整備が必要になります。

輸送密度は、320km/h運転の場合で、新潟~新青森間が11,000~16,700、上越妙高~長岡が14,000~18,000と試算されました。

費用便益比(B/C)は、320km/h運転の羽越新幹線単独整備が0.70、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.62となっています(下記の表の上)。一方、単線化など建設費圧縮を全体の33.9%にわたって実施した場合、羽越新幹線単独整備が0.96、羽越・奥羽新幹線同時整備が0.86となります(下記の表の下)。いずれも、基準となる「1」を上回ることはできません。

ただし、社会的割引率を3%と仮定した場合、羽越新幹線単独整備が1.21、同時整備が1.08となり、いずれも基準の「1」をクリアします。2%と仮定した場合は、それぞれ1.55、1.38となり、より高い数字となります。

「社会的割引率」とは、便益・費用の当該年度発生額を現在価値に割り戻すときの割合で、国の指針では過去の国債利回りを基に4%を使用することになっていますが、調査では、近年の国債利回りが低いことを理由に、参考値として3%、2%の割引率の場合も計算しています。

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より


 

羽越新幹線の沿革

1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に羽越新幹線の基本計画が決定しました。

しかし、上越・北陸新幹線の共用部分を除き、2000年代まで具体的な建設の動きはほとんどありません。2010年代になり、整備新幹線の完成が視野に入ってきてから、山形県を中心に建設運動が始まっています。

2016年5月22日には、山形県が、地元自治体や経済界で構成する「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟」を発足させました。

2017年8月9日には、奥羽、羽越両新幹線のフル規格での整備を目指し、山形県を事務局として沿線6県(青森、秋田、山形、福島、新潟、富山)の担当課長などで構成される「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム(羽越・奥羽新幹線PT)が発足。日本海側の県で連携して建設運動に取り組む方針が示されました。

羽越・奥羽新幹線PTは沿線エリアの地域ビジョンや費用対効果、整備手法の3項目について調査・検討を進め、2020年3月付で最終報告書を公表しました。実際に一般公表されたのは2021年6月です。

羽越新幹線調査
画像:「羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書」より


 

羽越新幹線のデータ

羽越新幹線データ
営業構想事業者 JR東日本
整備構想事業者 鉄道・運輸機構
路線名 羽越新幹線
区間・駅 富山~新潟~秋田~青森
距離 656.3km
想定輸送密度 11,000~16,700人(新潟~新青森)
総事業費 2兆5942億~3兆5250億円
費用便益比 0.53~0.96
累積資金収支黒字転換年
種別 第一種鉄道事業
種類 新幹線鉄道
軌間 1,435mm
電化方式 交流25,000V
単線・複線 未定
開業予定時期 未定
備考 全国新幹線整備法

※データはおもに『羽越・奥羽新幹線の早期実現に向けた費用対効果算出等業務調査報告書』(2022年)に基づく。

羽越新幹線の今後の見通し

羽越新幹線の総延長は約560kmに及び、新幹線の基本計画路線のなかでも最長です。関連する県は富山、新潟、山形、秋田、青森の5県で、これも最大規模です。

ただ、沿線自治体でも建設に向けた温度差があります。富山県内は実質的に完成しており、今後の路線建設とは直接的に無関係です。

青森県はすでに東北新幹線が開業しており、羽越新幹線の開業で恩恵を受けるのは弘前市だけです。

一方、羽越新幹線開業に大きな期待をかけるのが、フル規格新幹線の通っていない山形、秋田の両県です。そのため、建設運動の旗振り役も両県で、同様に両県を貫く奥羽新幹線とあわせて、建設運動が展開されています。

新潟県は、すでに上越、北陸両新幹線が主要部を通っていますが、羽越新幹線が完成すれば県内を縦貫する意味が見込めます。そのため、上越妙高~長岡間について「鉄道高速化」という観点でミニ新幹線などの調査を独自におこなっています。ただし、直接的に羽越新幹線の建設は遠いとみていて、秋田・山形両県とは立ち位置が異なります。

いずれにせよ、羽越新幹線は総延長が長いわりに沿線に大都市が少なく、同じ基本計画路線の四国新幹線や東九州新幹線などに比べると、費用対効果が小さいという難点があります。また、並行在来線の普通列車の利用者が少ない一方、貨物列車の運行本数は多いため、移管後の路線維持に課題があります。

奥羽新幹線と比べても、山形、秋田両県庁所在地を結ぶ奥羽新幹線のほうが、優先順位は高くなりそうです。そのため、フル規格での羽越新幹線を全線建設するということは、正直なところ非現実的に思えます。