富山地方鉄道が再構築へ向けて動き出しそうです。沿線自治体の首長が県に支援を求める要望書を提出します。
鉄道事業再構築へ
富山地方鉄道は、富山県内に本線、立山線、不二越・上滝線の3路線と、富山市内に軌道線を有する地方私鉄です。近年は利用者減少や経費増による赤字に苦しみ、2024年3月期決算では鉄道事業が9億9000万円の赤字となりました。赤字は5期連続で、富山地鉄は自治体に対して支援を要請しました。
この問題を話し合う沿線首長会議が2024年9月24日に開催されました。沿線の富山市、魚津市、滑川市、黒部市など7自治体の首長が集まり、富山地鉄への支援策を協議。国の鉄道事業再構築事業の活用を検討していくことを確認しました。
鉄道事業再構築事業は、2023年10月に施行された改正地域公共交通活性化再生法で充実が図られ、再構築計画が認定されれば、事業費の一部が国から助成されます。
「みなし上下分離」を検討
これまでの議論では、「みなし上下分離」方式への移行を検討しています。みなし上下分離とは、自治体が鉄道施設の維持管理費などを負担し、既存の鉄道会社が引き続き運営する形です。隣県の北陸鉄道が導入を決め、2025年春から移行する予定です。
北陸鉄道は総延長約20kmで、再構築事業の規模は132億円。一方、富山地方鉄道の鉄道線は約93kmもあります。そのため富山県では、富山地鉄で再構築事業がおこなわれた場合、北陸鉄道と同水準の内容と仮定すると、約600億円の費用がかかると試算しています。
この場合、国が300億円、県が150億円を負担し、沿線7自治体が残りの150億円を分担します。単純計算で1自治体あたり20億円あまりです。実際には富山市の負担割合が大きくなるでしょうが、小さな自治体でも数億円の負担は避けられません。
そのため、新田八朗・富山県知事は9月19日の県議会一般質問で、「相当の覚悟が必要で、財政負担を含め十分丁寧な議論が必要」と釘を刺しています。
輸送密度2,000人未満
富山地方鉄道の鉄道路線は、地域により役割が異なります。富山市近郊は通勤・通学路線の色合いが強いいっぽう、宇奈月や立山付近は観光輸送が主です。滑川市から魚津市にかけては、あいの風とやま鉄道とぴったり並行していて、存在感が低下している印象もあります。
通勤・通学輸送が主な北陸鉄道とは趣が異なり、「再構築」をどのような形にして、どう費用を分担するかは不透明といえます。そのため、自治体間の調整も簡単ではなさそうです。
輸送密度(2021年度)をみると、本線が1,884、立山線が510、不二越線が1,109、上滝線が1,388となっています。富山市近郊でも輸送密度が2,000に満たない区間が多い様子で、鉄道を営利事業として維持していくのは難しい利用者数です。
比較として北陸鉄道石川線が1,391ですので、利用者数の水準としては同程度といえるかもしれません。
利用者には使いやすく
「みなし上下分離」を軸に協議をしているということは、運営体制の速やかな変更を目指している可能性が高いといえます。そのため、今後、富山県の協力を得て再構築事業の協議が始まった場合、早ければ富山地鉄は2026年春から「みなし上下分離」に移行する可能性があります。
「みなし上下分離」の場合、利用者から見た変更点はあまりありません。あい鉄並行区間の扱いについては気になりますが、いまのところ路線の存廃議論もなさそうで、これまで通り富山地方鉄道が存続すると受けとめていいでしょう。
新車両の導入など、利用者サイドからみれば使いやすくなる側面もありそうです。(鎌倉淳)
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