東武鉄道は、2017年度をメドに蒸気機関車(SL)を復活させると発表しました。JR北海道からC11を借り受けて運行します。運行区間は鬼怒川線の下今市~鬼怒川温泉駅の12.4kmです。
大手私鉄では約30年ぶり
東武鉄道のプレスリリースによりますと、このSLを沿線の主力観光地である日光・鬼怒川エリアで運行することで、観光客誘致の目玉にします。大手私鉄のSL運行は1984年に運行終了した西武山口線以来、約30年ぶりです。
運行する機関車は、JR北海道から「C11形207号機」とよばれる車両をレンタルします。客車について発表はありません。
C11形207号機は1941年12月26日に日立製作所笠戸工場にて製造され、現役期間は北海道で使用されてきました。1974年に廃車となり、北海道日高郡静内町(現:新ひだか町)で静態保存されていましたが、2000年からJR北海道が動態保存機として使用を開始。「SLニセコ号」「SL冬の湿原号」「SL函館大沼号」などとして使用されてきました。
写真:JR北海道
JR北海道はSL運行を休止中
JR北海道は、SL整備を担当する社員を、定期列車の安全対策や北海道新幹線の開業準備に振り分けています。また、2016年6月より、高速線区または高密度線区では蒸気機関車にも新型ATSを装備することが義務づけられますが、現時点でC11形207号機は対応していません。それらの理由で、JR北海道は「SLニセコ号」と「SL函館大沼号」の運行を休止しています。
その休止中の車両を東武が借りて、鬼怒川線で運行するというわけです。JR北海道は、釧網線の「SL冬の湿原号」も運転していて、これについては技術保持のため存続させるとしています。JR北海道はC11を2両所有していますので、「SL冬の湿原号」は残り1両で運行されるのでしょうか。あるいは、東武鉄道に貸し出したC11形207号が、冬季はJR北海道に「返却」されるのかもしれません。
給炭設備や転車台はどうするのか?
さて、C11形は東武鉄道での運転実績もあり、C11形2号機は1963年まで東武線内で運行されてきました。とはいえ、なにしろ約50年のブランクです。SLを復活させるには、ハードルもあるでしょう。
まず東武鉄道にはSLの運転士や整備士がいません。これらのスタッフを養成するには、SLの運転実績のある鉄道会社に東武が社員を派遣して訓練を受けなければなりません。どの会社が受け入れるのかはわかりませんが、車両を貸し出すJR北海道か、あるいはJR東日本あたりが協力するのでしょう。
また、SL運行には給炭設備や給水設備が必要ですし、転車台もあったほうが望ましいでしょう。クレーンで給炭することはできるでしょうし、転車台もなければないで運行はできますが、観光の目玉とするならば、ある程度の設備投資は必要です。
発想の貧困な筆者は、首都圏の大手私鉄がSLの復活運転をするなど、考えたこともありませんでした。ところが、東武鉄道は、自社沿線の観光の目玉としてSLを北海道からレンタルで調達し、しかるべき人的投資と設備投資を行って、大手私鉄として30年ぶりのSL復活を狙うわけです。
こうした発想と努力には、率直に敬意を表したいところ。機関車は今回はレンタルですが、将来的には自前での復活も考えているのかもしれません。