都営バスが、2025年10月1日のダイヤ改正で減便を実施します。理由として「運行を受託しているはとバスの乗務員不足」を挙げていて、委託先の乗務員不足が深刻化していることが明らかになりました。運転士不足の解消が見通せないなか、公営路線バスの委託制度は続けられるのでしょうか。
19路線で「運行回数の変更」
都営バスは、2025年10月1日にダイヤ改正を実施します。対象となるのは21路線で、このうち19路線で「運行回数の変更」をおこないます。要するに19路線で減便されるということです。
このうち、1路線(田92、品川駅港南口~田町駅東口)では土曜日運行を休止します。同路線は日曜日運休なので、10月1日以降は平日のみ運行の路線となります。
はとバスの運転士不足
東京都は、ダイヤ改正の理由について、「路線の一部の運行を受託している株式会社はとバスの乗務員不足」を挙げています。はとバスが運転士不足に陥り、都バスの求める便数を維持する余力がなくなり、減便に追い込まれてしまう、ということです。
都営バスは、年数回のダイヤ改正をおこなっていて、減便傾向であることは、いまに始まったことではありません。実際、2022年度に228便、2023年度に306便、2024年度に217便を減便しています。
ただ、ダイヤ改正時に、理由として「乗務員不足」を掲げたことはありませんでした。今回は、委託先の乗務員不足によるものですが、天下の都バスも乗務員不足か、と驚かれた方も多いでしょう。
2003年に委託開始
はとバスへの委託は2003年に開始されました。現在では、杉並支所、臨海支所、青戸支所、港南支所、新宿支所の計5支所の管理・運行を委託しています。
そのはとバスの路線バス運転士採用サイトをみると、雇用形態は契約社員で、「最短10か月で正社員登用の途あり」となっています。
給与は月額固定給251,150~305,150円で、その他手当があります。研修明け賃金(単身者・扶養家族なし)は月額平均33万円とのことです。年収はざっくり400万円台というところでしょうか。
都バスも採用強化
一方、都営バスも運転士確保に力を入れていて、2025年度後期には100人程度の募集枠を設けています。地方公務員の待遇で、募集要項に記されている月額給与は24歳で約239,500円。そのほかに、期末・勤勉手当(賞与)が年2回あり、2024年度実績では年4.85か月です。
単純に計算すれば、給与と賞与で、24歳の年収が約400万円。他にも手当があるようなので、実際の額面はもう少し高そうです。
はとバスと都営バスの待遇を見ると、額面給与は、はとバスのほうが高いようにもみえます。ただ、都営バスには公務員という身分の安定がありますので、運転士からの人気を集めやすいのは都営バスかもしれません。
いずれにしろ、委託元の都営バスと委託先のはとバスが、それぞれに人材獲得にしのぎを削っているわけです。
教習所卒業者数は440人
運輸免許統計によれば、2024年度に大型二種を取得した人数は、全国で約1万人です。
その7割程度が指定自動車教習所を卒業しています。東京都(警視庁)指定自動車教習所を卒業して、2024年度に大型二種を取得した人は、440人です。教習所を卒業しないで取得した人を含めても、東京都の大型二種新規取得者数は600人程度とみられます。
この数字を見ると、都バスの採用枠が、2025年度後期だけで100人というのは、かなりの規模であることがわかるでしょう。都バスがそれだけの人数を採用すれば、民間企業の採用は厳しくなります。それは「委託先の人員不足」にもつながります。
委託制度を続けられるか
今回の都バス減便は、委託先の事情によるものと見ることもできますが、人手不足の深刻さを考えれば、委託制度自体に無理が出てきていると考えることもできるでしょう。
「公営バスの民間委託」は、東京都に限らず、各地でコスト削減策として実施されてきました。しかし、委託先と委託元が運転士確保で競合するなか、今後も続けられるのか。曲がり角にさしかかっているように思えます。(鎌倉淳)