北海道新幹線の並行在来線のうち、函館線の函館~長万部間について、新幹線開業後に旅客鉄道が廃止されても、貨物鉄道を維持する方針が正式に決まりました。ただ、経営主体や費用負担などは未定で、どのような形で存続するのかは不透明です。
「中間とりまとめ」公表
国土交通省と北海道は、北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議の「中間とりまとめ」を公表しました。
北海道新幹線の札幌延伸開業後、JR函館線の函館~小樽間については、JR北海道から経営分離されることが決まっています。このうち、新函館北斗~小樽間については、沿線自治体が旅客鉄道の維持費用を負担できないとして、廃止を受け入れる姿勢を示しています。
ただ、このうち函館~長万部間(海線)は北海道と本州を結ぶ鉄道貨物輸送の唯一のルートを形成しています。そのため、検討会議では、この区間の貨物鉄道機能を維持するかどうか、維持する場合や廃止する場合に、どのような課題が生じるかなどが話し合われてきました。
「貨物鉄道の機能を確保」
公表されたとりまとめでは、「海線の維持により貨物鉄道の機能を確保することが必要」と明記され、北海道新幹線札幌延伸開業時点で、海線を貨物鉄道として維持する方針が決まりました。
ただ、保有主体や、維持費用の負担、要員の確保などについて、今後の対応が必要とされました。
貨物会社の旅客輸送は否定
保有主体については、「新設や既存の第3セクターの活用など」が考えられるとし、既存の第三セクター鉄道である道南いさりび鉄道の活用が、候補の一つであることが示唆されました。
なお、旅客輸送を実施せずに貨物鉄道を維持することが決まった後に、旅客輸送を維持する意向が沿線自治体から示された場合については、「旅客輸送を担う主体が鉄道施設を維持した上で貨物鉄道の運行が行われる」とし、他の並行在来線区間と同様に、旅客鉄道会社が主体となって鉄路を維持する形になることも示されました。
貨物会社による旅客輸送は、否定された形です。「貨物鉄道が、ついでに旅客も運ぶ」といった形態は、認められないことを確認したといえます。
課題は先送り
北海道新幹線の札幌延伸は2038年度末ごろにずれ込む見通しとなっています。延伸の遅れに伴い、並行在来線の経営分離の時期も遅れます。
これについて、中間とりまとめでは、「検討に当たっての時間軸を整理」しながら、「課題解決に向けた議論を継続していく」と記されました。保有主体や費用負担の議論を急ぐ必要はないということを、婉曲に示した表現といえます。
要するに、貨物鉄道維持にまつわる課題の解決について先送りをしたわけです。
議論継続の理由
新幹線開業によりJRから分離された並行在来線の貨物輸送については、貨物調整金制度により、国から実質的な補助がおこなわれています。この制度は2031年度以降に改定が予定されていますが、その内容は決まっていません。
また、並行在来線区間以外でも、JR旅客鉄道会社とJR貨物との間で定められている鉄道線路の使用料について、見直しも検討されています。
とりまとめが、「議論を継続」と記したのは、こうした問題が決着しないと、海線の維持方法についても見通せないという背景があるためでしょう。
決まっていないことが多すぎて
新幹線がいつできるか、貨物調整金がどうなるか、JR旅客6社とJR貨物の費用負担ルールがどうなるか、何も決まっていないわけです。決まっていないことが多すぎるので、今、新たな貨物鉄道の経営主体や費用負担を議論してもしかたない、という話です。
いずれにせよ、海線区間の貨物鉄道が、維持されることは確実になりました。ただ、北海道新幹線の札幌延伸開業時期が見通せない状況で、貨物鉄道がどういう形で維持されるのかは、現段階では不透明です。(鎌倉淳)