六本木ヒルズで開催されている「特別展 天空ノ鉄道物語」に行ってみました。鉄道ファンをターゲットにした展示内容で、とくに国鉄時代や民営化初期を知る「おとなの鉄道ファン」には刺さりそうです。
六本木ヒルズ52階
「特別展 天空ノ鉄道物語」は、JR、私鉄各社の協力を得て開催されている、鉄道をテーマとした企画展です。開催場所は六本木ヒルズ森タワー52階の森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリー。眺望抜群のスペースで、鉄道にまつわるさまざまな展示が行われています。
構成は1964年から2019年の鉄道について、テーマと年代を整理しつつ展示する、というもの。入場券代わりの硬券に、自ら日付を打ち込んで入場すると、1964年の上野駅を再現した改札から展示が始まります。
ヘッドマークが目を引く
1964年と言えば、東海道新幹線開業。最初の展示も、やっぱり0系新幹線です。下の写真の前頭部の丸いカバーは実物です。
国鉄時代の展示としては、東海道新幹線に関するもののほか、1970~80年代に活躍した名列車のヘッドマークが目を引きます。
続いて国鉄分割民営化の時代に移ります。民営化が実施された際の、JR各社の発足時のヘッドマークが一堂に会しています。
民営化ヘッドマークは各地の鉄道博物館でも見られますが、JR7社の民営化ヘッドマークが揃っている展示はなかなかレアな印象です。
一本列島
続いて「一本列島」のキャッチフレーズが生まれた、1988年の青函トンネル、瀬戸大橋開通の展示。
有終の美を飾る青函連絡船のポスターにも惹かれます(このポスターは外周展示)。
1964年と2019年の路線図比較もあります。1964年は、地方ローカル線がまだ機能していた時代です。その後半世紀を経て、数多くのローカル線が廃止になり、地図上から姿を消しています。
一方、新幹線網は発達し、首都圏や近畿圏で新路線がいくつも誕生したことがわかります。
寝台特急の変遷
「寝台特急の変遷」では、歴代寝台特急の運転期間が表になっています。
運転期間が短かったのは「安芸」「いなば」で、わずか3年の命でした。最も長かったのは「はやぶさ」で、1960年から2009年まで49年間運転されていました。
表を見ていると、日本の寝台特急が最も多く走っていたのが1970年代後半であることがわかります。「安芸」「いなば」「紀伊」「北星」といった、短命に終わった寝台特急が花を咲かせていた頃です。寝台特急は1980年代に入ると衰退が始まり、全盛期は短かったことが読み取れます。
その全盛期に少年時代を過ごしたのが「ブルトレ世代」、いまのアラフィフとなるのでしょうか。
マルス券、周遊券も
「旅客サービスの進化」のエリアには、「N型」「M型」「L型」のマルス券や、「北海道周遊券」や「四国周遊券」といった、ワイド・ミニ周遊券、オレンジカードなどが展示されています。いまとなっては見られないきっぷ類が、懐かしく感じられます。
こうしたきっぷで旅をした方には、思い出が蘇りそうです。
時刻表展示は圧巻
「特別展 天空ノ鉄道物語」で圧巻だったのは、時刻表展示。1964年から2019年までの大判時刻表の表紙を全て展示しています。国鉄時代は日本交通公社(現JTB)の時刻表を展示し、民営化以降はJTB時刻表とJR時刻表を並列展示しています。
一冊だけ、JNR編集の「JR時刻表」もありました。1987年4月号です。これはレアものになる、と当時から言われていた記憶があります。
時刻表を抱えて旅してきた人にとって、表紙は旅の思い出の一部です。展示された表紙を見るだけで、記憶が呼び覚まされ、懐かしさを感じる方もいるでしょう。
時代の移り変わりも感じます。交通公社の時刻表の表紙が一面写真になったのは、1978年10月号から。この号をはじめ、1980年代前半までは、乗客やホームの客を入れ込んだ写真が数多く使われています。
しかし、1980年代後半になると、「人物入り」の表紙は少なくなります。かわりに、車両を主役とした写真が増えていきます。
長崎新幹線はリレー方式
未来の鉄道に関する展示では、リニアと整備新幹線が取り上げられています。整備方法で議論が続く長崎新幹線は、リレー方式で地図が描かれていました。FGT方式とも見ることができますが……。
こちらは話題になった、JR各社の制服展示。ライトアップが特徴的です。
天空のSL
展示は建物中央の「内周エリア」と、建物外側の「外周エリア」に分かれます。ここまで紹介してきた展示は主に内周エリアですが、外周エリアには52階の眺望を活かした「天空駅」が開設されていて、段ボール素材を使った島英雄氏制作の原寸大「一号機関車」が展示されています。SLが空に浮かぶよう停まっている姿は異世界の趣です。
ローカル線のさよならヘッドマークもいくつか展示されていました。岩内線や倉吉線といった国鉄末期に廃止された路線から、最近廃止された夕張支線のヘッドマークもあります。
一方で、開業ヘッドマークもあり、最新のゆいレール浦添延伸のものも掲げられています。過去を振り返りながら、未来への展望を意識した展示となっていました。
おとなの鉄道ファン向け
鉄道会社が協力していることもあって、展示の構成はしっかりしており、貴重な展示物も数多くありました。
各地の「鉄道博物館」と違うのは、趣味的な分野に重点が置かれた展示になっている、ということでしょうか。ヘッドマークが豊富に展示されている一方で、たとえば技術的な展示はあまりありません。
展示をとくに楽しめるのは、国鉄時代や民営化初期の記憶がある中高年の鉄道ファンでしょう。ブルトレ全盛期の思い出があり、青函連絡船もトワイライトエクスプレスも体験したアラフィフ、アラカンにはぐっとくるかもしれません。
それより若い方も、鉄道に興味があれば楽しめる内容です。この記事では詳しく書きませんでしたが、平成期の展示も数多くありました。
一方、子ども向けの展示は多くありません。プラレールやアンパンマン列車の展示もありますが、割合としては僅かです。プラレール展示は立体的すぎて、子どもの目線ではあまり楽しめないでしょう。
六本木ヒルズという場所柄もあるのか、全体に「おとなの鉄道ファン向け」と感じられました。
「特別展 天空ノ鉄道物語」の会期は12月3日から2020年3月22日の約3カ月半です。チケットは当日券で一般2,500円、高校生・大学生1,500円、中学生以下1,000円、4歳未満は無料です。
ご興味のある方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。(鎌倉淳)