成田空港の鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会が、京成スカイライナーの200km/h運転などを提言しました。JR、京成の単線区間の複線化などの検討も求めました。
50万回発着を視野
交通・運輸に関する調査・研究を行っている運輸総合研究所の「成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会」が、『日本の空の玄関・成田空港の鉄道アクセス改善に向けて』と題する提言を発表しました。
成田空港では、C滑走路の新設やB滑走路の延伸により、年間発着回数を現在の1.7倍の50万回に増やす計画を立てています。実現すれば利用者の大幅な増加が見込まれるため、有識者検討会が鉄道アクセスの改善案を提言したものです。
輸送力、速達性の向上求める
提言では、成田空港の鉄道アクセスについて「増大する航空需要に対応した輸送力の向上」を求め、「世界に誇りうる利便性、安定性、快適性、先進性を目指していくべき」としました。
成田空港には、現在、JR成田線と、京成成田空港線(スカイアクセス線)、京成本線、京成東成田線、芝山鉄道線が乗り入れています。成田空港駅、空港第2ビル駅、東成田駅の3駅があります。
下表は、成田空港の発着回数が50万回に達した2045年の鉄道アクセスの混雑率予測です。現状の運行規模のままでは、JR「成田エクスプレス」や京成「スカイライナー」で100%を超える時間帯があり、一部では200%を超えるとしています。
こうした予測を踏まえ、提言では、輸送力の向上、速達性の向上、安全・安定性の向上、航空・新幹線などとの連携強化、先進的な駅空間の整備などを求めています。
なかでも注目点は、速達性の向上と輸送力の向上です。順に見ていきましょう。
都心まで20分台
まず、速達性の向上に関する提言です。都心主要駅までの所要時間について、現状で最短36分(日暮里~空港第二2ビル間)かかっているところ、20分台の実現を目指すことを提言しました。具体的には、京成スカイアクセス線ルートの高速化について検討を求めています。
現在、スカイライナーは、スカイアクセス線内で最高速度160km/hで運行しています。しかし、160km/h区間はわずかなことから、提言では、現行130km/hで運行している区間を160km/hにすることを求めました。さらに、長期的な視点として、最高速度200km/h化について検討を開始することが望まれる、としました。
課題として、曲線改良、優等列車の退避設備整備、ホームドア設置、車両性能の向上などを挙げました。実現のため、千葉ニュータウン内の交通施設帯の利用などの検討を求めました。
また、成田空港アクセスが「実態以上に遠いイメージが定着している」としたうえで、所要時間や乗換利便性等の正確な情報提供により、「成田は遠い」というイメージ解消を図ることも提言しました。
長編成化と増便を検討
次に、輸送力向上については、長編成化と運行本数の増加を選択肢として挙げました。
下図は、成田空港駅周辺の1時間あたりの運行本数を示したものですが、これをどう増やすかが課題です。
このうち成田エクスプレスについては、現行の12両編成から15両編成にした場合、1.25倍の輸送力が提供できます。ただし、現行の車両留置施設では対応できなくなるなどの課題を挙げました。
成田エクスプレスは、現行で毎時2本ですが、3本に増便する案も示しました。ただし、成田~成田空港間に単線区間があるという課題のほか、都心方のダイヤ調整が必要です。
京成スカイライナーについては、京成上野駅や日暮里駅のホーム長が9両編成対応であることから、現行の8両編成を9両編成化した場合、1.1倍の輸送力が提供されます。
運行本数については、スカイライナーは現行で毎時3本運行しているので、さらなる増便をすると、単線区間における非優等列車の退避時間増による速達性の低下などが生じます。
京成アクセス特急については、ルート上にある各駅のホーム長が8両編成対応となっているため、長編成化は困難です。
京成本線特急についても、各駅のホーム長が8両編成対応となっているため、長編成化は困難です。現行毎時3本の運行本数の増加については、空港第2ビル~成田空港間が単線であることと、スカイアクセス線との平面交差があることから、ダイヤ上の制約が大きいという課題があります。
複線化の検討
JR、京成のいずれに関しても、運行本数増の課題として挙げられたのが、空港周辺の単線区間です。JRは成田~成田空港間、京成は成田湯川~成田空港間が単線ですが、増便するには、これを複線化し、線路容量を拡大する必要があります。
単線区間の複線化については、北側線増と南側線増について、それぞれ単線増(3線化)と複線増(4線化)が考えられるとしました。計4案の整備概要は下表の通りです。
4案について、いずれも、技術的な実現可能性はあるとしました。事業費については、JR、京成のいずれも複線化する場合、事業費は900億円から1400億円と見積もっています。
工期については、設計、用地買収を含む各種手続き完了後、5年以上を見込んでいます。
押上線の活用も
単線区間を複線化した場合、当該区間については運行本数の増加が可能となりますが、都心側や空港内鉄道施設においても輸送力向上が必要となります。
しかし、都心側では現行設備では増発余地が少ないため、たとえば京成では、押上線を活用する方策を検討するのが望ましいとしました。
空港施設の複線化対応
空港内鉄道施設については、完成後に拡張することは困難であることから、現行のターミナル施設配置における対応は難しいとしました。
ただ、今後、新たなターミナルを作る場合については、将来の複線化を考慮した施設を整備するなど拡張性が確保されるべきとしました。
とくに、京成成田空港駅と空港第2ビル駅は、乗車ホームについて、スカイアクセス線と本線で縦列停車となっています。本線利用者は改札を2回通過する場合があるなど複雑で、旅客利便性の低下を招いていることから、スカイアクセス線と本線のホームを分けることが望ましいとしました。
提言では、このほか、航空と新幹線の連携強化のため、東京駅や品川駅との接続性の向上を求めたほか、北関東主要駅から成田空港への直通列車の新設の検討などを求めました。
京成新幹線?
以上が、提言のうち、速達性向上と輸送力強化に関わる部分の概要です。
よく知られている通り、全国新幹線鉄道整備法では、「その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」を新幹線鉄道と定義しています。
つまり、定義のうえでは、主たる区間を200km/hで走行する列車は「新幹線」と表現できるわけです。スカイライナーが京成スカイアクセス線の主たる区間で200km/h運転すれば、「京成新幹線」が爆誕することになります。幻の「成田新幹線」が京成によって実現する、と言い換えることもできるでしょう。
とはいえ、実現のための線形改良などの施設整備には莫大な費用がかかると見込まれます。費用対効果の面で疑問がありますので、率直なところ、夢物語でしょう。160km/h運転区間の拡大ですら、容易ではないと思われます。
複線化には現実味
それに比べると、単線区間の複線化は現実味がありそうです。単線区間は、JR、京成とも輸送上のネックとなっていますので、成田空港の利用者増が見込まれるなら、真剣に検討されそうです。
課題は費用面です。1000億円規模の事業費が見込まれていますので、鉄道単独で見た場合に、費用便益比などの基準をクリアするのは簡単ではなさそうです。提言が成田空港の機能強化と絡めて出されていますので、空港整備特別会計による負担などが検討されるのかもしれません。
提言をまとめた運輸総合研究所は、国土交通省とつながりのある一般財団法人です。したがって、民間団体との提言とは違い、一定の影響力はあるとみられます。ただ、国交省が設けた検討会のとりまとめではありませんので、これを基にすぐに何かが動き出すこともないでしょう。(鎌倉淳)