JR西日本が、「新快速」に有料座席車の連結を検討しています。詳細は明らかではありませんが、2022年度までの実現を目指すとか。仮にグリーン車とすれば、1980年に東海道・山陽線快速で廃止されて以来、約40年ぶりの復活となりますが、課題も多そうです。
中期経営計画に記載
JR西日本が、在来線普通・快速列車での有料座席車の検討を示唆したのは、2018年4月に発表された中期経営計画でのこと。「設備投資計画」の項目で、「多様なニーズに応える駅・車両の展開」として、「気軽に鉄道の旅を楽しんでいただける新たな長距離列車や、着席ニーズにお応えする車両をさらに導入します」と記載しました。
中期経営計画に記載されるということは、JR西日本社内で導入計画の検討がある程度進んでいることを意味します。実際、併記された「新たな長距離列車」は、その概要がすでに明らかにされました。しかし、「着席ニーズにお応えする車両」については、これまで発表はありません。
グリーン車、指定席、通勤ライナー
これについて、日刊工業新聞2018年6月5日付は「JR西日本は在来線『新快速』運転区間を念頭に、有料座席車導入の検討を始めた。運行形態や車両などを詰め、2022年度までの実現を目指す」と報道。「新快速への有料座席車連結または着席型列車の設定を軸に検討を進める」としています。
この報道によると、選択肢は二つ。「有料座席車」か「着席型列車」です。前者は「グリーン車」または座席はそのままでの「普通車指定席」、後者は「通勤ライナー」といった形が考えられます。
運行区間は「新快速の運転区間を念頭」という微妙な表現ですが、JR京都・神戸線が軸で間違いなさそうです。
要するに、新快速に有料座席車を連結すると決まったわけではなく、JR京都・神戸線で新たな着席サービスを検討している、ということのようです。
以下では、仮にJR京都・神戸線に有料着席サービスを導入するとして、どういう課題があるかを整理してみましょう。
グリーン車の課題
まず、グリーン車を増結する場合、連結車両数を純増とするか、車両数は変えずに普通車1両をグリーン車に変更するのか、が議論になります。現在の新快速は最大12両編成ですが、純増とするなら13両編成になります。この場合、停車駅でのホーム長の問題が生じます。
普通車1両をグリーン車に変更する場合、編成全体で定員減となります。列車本数が変わらなければ、ラッシュ時に輸送力が落ち、普通車の混雑率が上がる理屈ですから、「着席を求めない乗客」から苦情が出るでしょう。
運用の問題もあります。新快速の車両は快速に使われることもあるので、新快速全列車にグリーン車を連結するなら、一部快速にもグリーン車が連結されることになります。新快速に比べ、混雑率が低く乗車時間も短い快速では、グリーン車の利用率は低くなりそうです。
グリーン車を増結する場合、基本編成8両部分か、付属編成4両部分のどちらに入れるかも問題になります。
普通に考えれば基本編成に組み込むことになりそうですが、敦賀など北陸線方面へ足を伸ばすのは付属編成なので、長距離客対応で付属編成に組み込むという考え方もあるでしょう。
価値が相対的に低い
関西圏では、通勤電車にもクロスシートが普及していて、座ってしまえばグリーン車でなくても快適に移動できます。ロングシート主体の首都圏に比べると、グリーン車の価値は相対的に低いといわざるを得ません。
そのため、利用者としては、グリーン車の座席そのものに高い価値を見いだしにくい、という事情もあります。
グリーン車を導入するには大きな初期コストがかかりますので、JRとしてはある程度高額の料金を設定せざるを得ないでしょう。しかし、果たして関西人はそんなお金を払ってまでグリーン車に乗るだろうか? という疑念があるわけです。
導入したら引き返せないほどの投資額になるでしょうから、この点は大きな検討を要します。
普通車を指定席にすると?
グリーン車を設けないで、現有車両の座席の一部を指定席にする場合はどうでしょうか。新快速車両はクロスシート車なので、指定席として運用してもおかしくはありません。
この方法なら、車両も新造しないで済みますし、快速列車で運行する場合には、これまで通り全車普通車自由席にできるという柔軟性もあります。初期投資額が低いので、導入のハードルが低いのもメリットです。
しかし、自由席を指定席にして立ち席を認めなければ、乗車定員減になります。また、特別感のない普通車指定席では、グリーン車に比べて集客効果は劣るでしょう。となると料金設定も低くせざるを得ませんから、鉄道会社としてはあまり増収になりません。検札のためアテンダントを乗務させるなら、その人件費と釣り合わない収入にとどまる恐れすらあります。
また、見た目に他の車両と違いがないので、自由席と勘違いして乗車してくる旅客が絶えないと想定できます。その対応に、アテンダントが追われそうです。
ライナー列車の場合
次に、着席型列車=ライナー列車について考えてみましょう。ライナー列車は、現在の新快速用車両をそのまま全席指定席にして運行するか、特急用車両を通勤時間帯にライナーとして投入する形が考えられます。
一般車両のクロスシート車を、通勤時間帯にライナー列車として使うのは、京急が行っていて、混乱もないようです。一両丸ごと通勤ライナーにするなら、乗り間違いも生じにくいでしょうし、初期投資額が少なく済みますので、導入のハードルも低いと言えます。
現在、JRの京阪神間には、こうした形の通勤ライナーは走っていませんが、ラッシュ時限定で225系などを使ったライナー列車を導入すれば、それなりの利用率になりそうです。
683系を転用?
導入目標の2022年度といえば、北陸新幹線の敦賀開業の年であり、「サンダーバード」「しらさぎ」に使われている特急用車両681系・683系に余剰が見込まれます。
681系は車齢的に微妙ですが、683系はまだ使用に耐えうるでしょうから、これを使ったライナー列車を京阪神エリアに広く投入して、着席サービスを展開するのも一案でしょう。
特急用車両を使ったライナー列車は、すでに「びわこエクスプレス」がありますが、その運行区間を拡大し、列車本数も増やすという案です。混雑時間帯に運転すれば、京阪神エリアでそれなりの利用者を獲得できそうです。
通勤時間帯に限らず、土日に観光客向けに、大阪~京都間などで運行をすることも考えられるでしょう。
余剰車両の転用なら初期投資が少なく済みますし、特急用車両なら、それなりの料金を設定しやすく、増収効果も高く見込めます。683系の転用先は未定のようですし、方法としてはこの案が一番適当な気がします。
阪急の動向は?
人口減少時代に入り、近い将来の鉄道利用者減少は避けらません。そのため、鉄道各社は新たな収益源として有料着席サービスに注目しています。
関西地方では、以前から近鉄や南海が有料特急を走らせていて、2017年には京阪電鉄が有料着席サービスとして「プレミアムカー」を新たに導入しました。仮に、JRが京阪神エリアで有料着席サービスを導入すれば、京阪間では阪急だけが取り残されることになります。
日刊工業新聞では、阪急について「乗車時間が短く、ニーズが高くない」という杉山健博社長のコメントを用い「導入に否定的な考え」と記しています。阪急京都線は、ターミナルである梅田駅、河原町駅で並べば座れるので、有料着席サービスの需要は、たしかに少ないのかもしれません。
選択肢が増えるのはいい
利用者の視点に立てば、選択肢が増えるのはいいことです。新快速は混雑していることが多いですし、お金を払ってでも座りたいときはあるでしょう。そんなときに、有料の着席サービスがあれば、利用者にとってメリットがあります。
一方で、列車定員数が減って、普通車がより混雑するようなことになれば、日常で通勤・通学利用している乗客には迷惑な話です。
現在のサービス水準を維持しながら、着席の需要に応える、素敵な有料サービスが誕生することを期待したいところです。(鎌倉淳)