新千歳空港~旭川間に直通列車を走らせる構想が浮上しました。室蘭東線経由する新列車ですが、実現までには課題もありそうです。
2016年ダイヤ改正で廃止
新千歳空港~旭川間には、かつて特急「スーパーカムイ」が札幌経由で運行していました。新千歳空港~札幌間を快速「エアポート」として走り、札幌市内の新千歳空港アクセスも兼ねた列車でしたが、インバウンドの隆盛により快速「エアポート」の利用者が増えると特急用車両では運びきれなくなり、2016年のダイヤ改正で新千歳空港乗り入れが廃止になった経緯があります。
これにより旭川と新千歳空港を結ぶ直通列車がなくなってしまいました。かわりに2018年に高速バス「たいせつライナー」が旭川~新千歳空港間で運行を開始。好評を博し、それまで鉄道が主役だった輸送路で、高速バスがシェアを伸ばしつつあります。
北海道新聞が報じる
こうした状況で、新千歳空港~旭川間に新たな直通列車を走らせる構想が浮上しました。報じたのは北海道新聞2020年1月4日付。同紙によると、新たな直通列車は、新千歳空港~南千歳~追分~岩見沢~旭川というルートで走る特急です。所要時間は1時間30分程度で、現行より50分短縮されるとのこと。以前の「スーパーカムイ」の札幌経由よりも30分早くなります。
現在は検討段階ですが、JRと道内の7空港の運営を担う北海道エアポート(HAP)の幹部が「水面下で新ルート実現の可否を含めた検討に着手しているもよう」(道新)とのことです。
課題は?
経由路線となる室蘭東線(沼ノ端~岩見沢)は、JR北海道が「単独では維持困難」と表明している路線です。その路線に特急列車を走らせて新たな収益源にできるのであれば、JR北海道にとっても悪い話ではありません。HAPの要請の受けての検討のようですから、投資額のいくらかはHAPが負担する可能性もあります。
とはいえ、課題もあります。何よりも、新千歳空港駅の容量が気になります。新千歳空港駅は1面2線で、新千歳空港~南千歳間は単線です。2020年3月のダイヤ改正で快速「エアポート」を毎時5本に増強したこともあり、さらに新たな特急を走らせるには、ダイヤの工夫が必要になりそうです。
車両についてはどうでしょうか。室蘭東線は非電化なので、走らせるならディーゼル特急です。新千歳空港駅は地下駅ですが、過去、「ニセコエクスプレス」が発着していたことがありますので、ディーゼル特急が新千歳空港駅に入ることじたいは問題なさそうです。ただ、定期列車で入るとなると、排煙対策の強化が必要になるかもしれません。
利用者がどれほどいるのかも気がかりです。かつての「スーパーカムイ」は、旭川方面~札幌と、旭川方面~新千歳空港、札幌~新千歳空港の利用者をまとめることで成り立っていた側面があります。これに対し、新特急は旭川方面~新千歳空港の利用者しか乗せられません。
1時間30分で走れるのか
1時間30分という想定所要時間はどうでしょうか。現在、特急「カムイ」は、札幌~旭川間を約1時間25分で結んでいます。それとほぼ同じ所要時間で、新千歳空港~旭川間に非電化特急を走らせることができるのか、疑問に思う方も多そうです。
南千歳駅の方向転換もありますし、石勝線・室蘭東線には単線区間があるので、行き違いも考慮しなければなりません。
ちなみに、札幌~旭川間は136.8kmで、1時間25分で走る「カムイ」の表定速度は96.6kmです。追分経由の新千歳空港~旭川間は156.6kmなので、1割ほど遠いです。1時間30分で走るなら表定速度104kmとなり、難しそうです。
速度向上のために、新型車両の投入も視野に入りそうです。道新記事にはありませんが、電気式気動車の新型車両を想定している可能性もあります。従来の気動車よりも黒煙が出にくいので、地下駅にも乗り入れやすいメリットがあります。
本当に1時間30分で走れるのかは疑問ですが、少なくともかつての「スーパーカムイ」よりは短い時間で、旭川~新千歳空港間を結ぶことは可能でしょう。
新千歳空港駅スルー化とも連動
新千歳空港駅の容量問題一つとっても、現状の施設で、この計画がそのまま実現するのは難しいと思います。
可能性があるとすれば、新千歳空港駅スルー化構想との連動でしょうか。新千歳空港駅に千歳線の本線を複線で引き込み、2面4線以上の大規模なターミナル駅に改修しようという計画です。この計画が実現すれば、新千歳空港駅の容量問題は解決しますし、南千歳駅のスイッチバックも解消します。つまり、新千歳空港~旭川直通特急実現のハードルは大きく下がります。
言い方を変えれば、「旭川直通特急」は、新千歳空港駅スルー化を前提とした構想かもしれません。
しかし、新千歳空港駅スルー化のための調査費は、2021年度予算で計上されませんでした。その理由はわかりませんが、1,000億円規模とも言われる投資に、財務省が否定的な姿勢を示しているのかもしれません。
であるならば、この「旭川直通特急」は、スルー化の意義を高めるための打ち上げ花火、とも解釈できます。そうだとしても、夢のある話題で、楽しみにしたいところです。