「青春18きっぷ」35年を新聞記事で振り返る(3)。JR西日本はなぜ販売数首位に立ったのか

青春18きっぷが誕生して35周年を迎えるのを機に、新聞各紙の35年間の「青春18きっぷ」に関する記事を拾いながら、歴史をたどってみます。

綴り販売の廃止を乗り越え、青春18きっぷは過去最高の年間100万枚販売を達成しました。

>>「青春18きっぷ」35年を新聞記事で振り返る(2)の続きです。

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JR西日本が販売数首位に

2006年度に、青春18きっぷは、年間売り上げが初めて100万枚を突破しました。これには理由があります。2007年春に、JR発足20周年を記念して、春季分を8,000円で販売したためです。これにより、JR各社とも春季分に関しては前年比倍増を達成しました。

産経新聞2007年6月3日付は、このときの販売数を、以下のように報じています。

『最も多く売り上げたのはJR西日本で、約24万枚と前年同期の約2.8倍にのぼった。次いでJR東日本が約16万7000枚で約2.6倍。JR東海が約8万3000枚で約2.4倍。このほかJR北海道、四国、九州も約2.3~2.5倍になった。』

この記事で筆者が気になったのは、販売数首位がJR西日本であることです。それも僅差ではなく、JR西日本の売り上げがJR東日本よりも1.5倍も多くなっています。

前年同期の比率を見ても、JR西日本の2006年度の売り上げが特異的に良かったわけではありません。つまり、この時期には、「販売数首位・JR西日本」が定着していたようです。

大和路快速

在来線三セク化が転機か

民営化直後は違いました。たとえば1987年は、JR東日本14万枚に対し、JR西日本8万枚と報じられています。

1994年度にJR東日本が31万枚、1995年度にJR西日本が26万枚という報道もありましたので、1990年代半ばまでは、JR東日本のほうが販売数が多かったようです。

転機となったのいつでしょうか。推測するに、整備新幹線の開業かもしれません。JR東日本エリアでは、1997年に長野新幹線が開業すると、横川-軽井沢間の信越本線が廃止され、軽井沢-篠ノ井間がしなの鉄道に移管されました。

2002年には東北新幹線八戸開業により、東北本線盛岡-八戸間も第三セクターに移管されました。信越本線や東北本線といった幹線の一部で青春18きっぷが使えなくなったため、JR東日本エリアで青春18きっぷの利用者離れが起きた可能性があります。

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「北海道&東日本パス」に流れた?

盛岡-八戸間で青春18きっぷが使用できなくなったのを受けて、JR東日本とJR北海道では、「北海道&東日本パス」の販売を2002年に開始します。JR東日本エリアとJR北海道エリアで普通列車に乗り放題のきっぷで、盛岡以北の第三セクターにも乗車できるのが大きな特徴です。

東日本・北海道エリアを連続して旅をするなら、青春18きっぷより北海道&東日本パスのほうが便利で安いので、一定の利用者が青春18きっぷから利用者が流れた可能性が高そうです。

と書きましたが、実は、JR東日本管内で、2002年を境に青春18きっぷの売り上げが落ち込んだ形跡はありません。JR東日本管内の販売数は、2001年度が25万1000枚で、2003年度は26万1000枚。盛岡-八戸間が利用不可になった影響はみられないのです。

青い森鉄道

JR西日本の販売が伸びた

となると、JR西日本の売り上げがJR東日本を上回るようになったのは、JR東日本の販売が落ち込んだからではなく、JR西日本の販売が伸びたから、と考える方が自然でしょう。

中国新聞2005年10月23日付では、JR西日本の売り上げについて、「87年度、JR西日本での売り上げは約8万枚だったが、2004年度は約30万枚に増えた」としています。17年間で約3.7倍にも増えたのです。

同じ期間のJR東日本の数字を拾うと、16万枚が25万枚に増えただけでした。約1.5倍に過ぎません。結果として、販売数で東西逆転が起きたのです。

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なぜJR西日本でよく売れるのか?

JR西日本での青春18きっぷの販売数が、なぜそんなに伸びたのか。はっきりとした理由はわかりません。

明確な事実としてあげられるのは、JR西日本エリアでは、2015年の北陸新幹線開業まで整備新幹線開業による在来線の第三セクター移管がなかったこと、くらいです。そのため、青春18きっぷの販売数を抑える要素が少なかったのでしょう。

ただ、それだけではないとも思います。筆者の主観ですが、青春18きっぷの販売強化、という面で、JR西日本は努力していたのではないか、と思います。

目に見える形として、前記事で書いたように、JR西日本は、1990年代に、関西エリアから山陽や山陰、四国方面に向け「ムーンライト」という快速列車を多客期に広く走らせていました。「ムーンライト」を使うと、青春18きっぷで訪問できる範囲が大きく広がります。これは、青春18きっぷ利用者増に貢献したことでしょう。

また、新快速を筆頭に、在来線の快速列車がJR西日本で豊富なこともポイントです。関西では、俊足の快速列車を上手に使えば、青春18きっぷでの行動範囲が広くなり、そのぶん「お得さ」も増します。関西地区の快速列車はクロスシートが多く、料金不要なのに快適ですから、その点でも「お得」です。

関西地方では、国鉄民営化後、「アーバンネットワーク」の整備が進み、快速列車の運転範囲が拡充しました。こうした施策が、JR西日本エリアでの青春18きっぷの販売の後押しになっていたのかもしれません。

新快速

JR東海「健闘」の理由

もう一つ、2006年度の数字をみると、JR東海の販売数が、JR東日本の半分程度、というのも興味深いです。会社規模を考えれば、JR東海は青春18きっぷの販売で健闘しているといえます。

なぜかと考えてみると、JR東海でも、JR西日本同様、在来線が便利であることがあげられそうです。主力路線である東海道線で、快速・普通列車が利用しやすいのです。中京エリアでは快速列車が充実していますし、静岡エリアからは、東京へ1度の乗り換えで到達できます。

つまり、東海道線沿線では、格安で出かけるアイテムとして、青春18きっぷが便利で手頃なのです。こうした「使いやすさ」が、JR東海における青春18きっぷ販売の「意外な健闘」につながっているのではないか、と推測します。

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JR北海道は6600枚程度

三島会社の販売数の報道は多くありません。

JR四国については、1987年度に1079冊の発売だったのが、1990年度には2387冊になったという報道があります(1992/01/21交通)。

JR九州は1992年度に1万6000枚(1993/03/15朝日西部)、JR北海道は2010年に6600枚程度(2012/07/23道新)、という数字も見つかりました。

これらの数字から推定すると、おおざっぱにいって、JR九州が全体の2-3%、JR北海道が1%程度、JR四国が1%未満の販売数とみられます。

JR北海道では、青春18きっぷの年間売り上げが1億円未満、ということになります。運行距離の長さを考えると物足りないですが、北海道内の普通列車の利用しにくさを考えると、やむをえないでしょう。

JR北海道721系

「1000円高速」という危機

順風満帆だった青春18きっぷに危機が訪れたのが、2009年3月に開始となった、いわゆる「1000円高速」です。

各地の行楽地はマイカーで賑わいましたが、青春18きっぷの売り上げは激減します。朝日新聞西部版2014年7月26日付夕刊は、JR全社の青春18きっぷの販売数が、2009年度に74万枚、2010年度は62万枚にまで落ち込んだと報じています。「青春18きっぷ廃止説」が増えたのもこの頃ではないでしょうか。

2011年度には、東日本大震災の影響も受けました。それでも、1000円高速の廃止により、2011年度には63万枚で踏みとどまります(朝日2012/06/24)。

その後は微増が続き、2015年度には71万枚と、6年ぶりに70万枚台を回復しました(朝日2016/08/11)。2015年3月に北陸新幹線開業、2016年3月には北海道新幹線開業と、青春18きっぷのエリアは狭くなるばかりですが、それでも販売状況は底堅く推移してきたようです。

乗っているのは青春18利用者ばかり

ただ、今後の状況は予断を許しません。2022年度に北陸新幹線が敦賀開業を迎えると、北陸本線の敦賀以北で青春18きっぷが使えなくなります。敦賀-津幡間に特例が設けられる可能性はありますが、先行きは見通せません。

また、JR北海道のローカル線廃止問題や、普通列車削減の動きも気になります。北海道内での販売数は少ないですが、本州からの旅行者が減少すれば、全体の販売数に影響するかもしれません。

最近では、客が少ない地方のローカル線に乗っているのは、青春18きっぷ利用者ばかり、という指摘も出てきました。

日経2016年3月31日付では、廃止が決まっている三江線を取り上げ、以下のように報じています。

『(3月)29日乗客の約8割が中高年。そのほとんどが春季限定でJR各社の普通列車などが格安で乗り放題になる『青春18きっぷ』を使っていた。』

逆に考えると、赤字ローカル線の存在が、青春18きっぷの売り上げを支えている面もあるようです。そうしたローカル線が、少しずつ消えていくと、青春18きっぷの販売数に影響を及ぼすときがくるかもしれません。

これからも大事に活用を

2017年4月1日、国鉄分割民営化から30年を迎えました。日本の鉄道の状況は、30年で大きく変わりましたし、国鉄時代の企画きっぷも多くは廃止されました。そのなかで、青春18きっぷが、発売開始以来35年を経て生き続けているのは、奇跡的なことかもしれません。

生き残ることができた理由を一言で表現すれば、幅広い利用者層に愛されてきたから、だと思います。販売数が多いから、廃止を免れてきたわけです。

JR全線を自由に乗れる「夢のきっぷ」は、国鉄が残した大切な「遺産」といえます。これからも大事に活用していきたいものです。(鎌倉淳)

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