埼玉高速鉄道の岩槻延伸計画について、最短18年で累積黒字化が可能という試算が出ました。ただし、「沿線開発で人口が増加し、快速電車が運行された場合」という条件付き。この試算で延伸は実現できるのでしょうか。
浦和美園から蓮田への延伸計画
埼玉高速鉄道は、赤羽岩淵~浦和美園間を運行する第三セクター鉄道です。岩槻を経て蓮田までの延伸計画があり、2016年の交通審議会答申では「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」とされました。
ただ、答申では「事業性に課題がある」とし、「需要の創出に繋がる沿線開発や交流人口の増加」に向けた取り組みと「事業計画」について十分な検討が求められています。
答申で指摘された課題の解決に向け、さいたま市では「地下鉄7号線(埼玉高速鉄道線)延伸協議会」を設置。延伸の事業性と沿線のまちづくりについて協議しています。これまでの協議で、延伸構想の概要が示されていますので、見てみましょう。
岩槻まで先行整備
まず、路線計画ですが、現在検討されているのは「先行整備区間」とされる浦和美園~岩槻間7.2km。途中に埼玉スタジアム駅と、中間駅の2駅を設け、終点岩槻駅を含めた3駅を新設する構想です。埼玉スタジアム駅は、サッカー開催時などのみ営業の臨時駅という位置づけです。
延伸区間は主に高架構造で、岩槻駅付近のみ地下となります。埼玉スタジアム駅は折り返し可能な2面3線。中間駅は2面2線、岩槻駅は1面2線です。
快速列車の運転計画
設計最高速度は地上部110km/h、地下部90km/h。延伸区間の開業後の所要時間は7分で、赤羽岩淵~岩槻間の所要時間は28分です。
協議会では、快速運転が検討されました。赤羽岩淵、鳩ケ谷、東川口、浦和美園、岩槻の順に停車します。快速の所要時間は、赤羽岩淵~岩槻間が21分です。
想定では、ピーク時、オフピーク時ともに快速を毎時3本運行します。快速運転は埼玉高速鉄道線内のみで、直通する東京メトロ南北線は各駅停車です。現行の運行本数は変更せず、各駅停車3本を快速に変更するとしています。
各駅停車は、ピーク時に赤羽岩淵~鳩ケ谷間が13本、鳩ケ谷~浦和美園間が11本、浦和美園~岩槻間が5本。オフピーク時は、赤羽岩淵~鳩ケ谷間が7本、鳩ケ谷~岩槻間が4本となっています。
なお、快速運転については、鉄道会社と合意した内容ではなく、協議会独自の想定です。
5つの予測ケース
こうした路線計画での延伸について、協議会では、5つの需要予測ケースについて検討を行いました。
1「すう勢ケース」…運行は各駅停車のみ、開発にともなう人口増加を見込まない。ただし、浦和美園地区は、開発にともない人口増加が著しいという現状があるので、確実視できるものは考慮する。
2「沿線開発ケース」…運行は各駅停車のみ、沿線3地区の開発の進捗にともなう人口増加を推計し考慮する。
3「沿線開発+埼玉スタジアム駅常設化ケース」…2に加え、埼玉スタジアム駅を常設化した場合を考慮する。
4「沿線開発+快速運転ケース」…2に加え、快速運転を実施する。
5「沿線開発+埼玉スタジアム駅常設化+快速運転ケース」…2に加え、埼玉スタジアム駅を常設化し、快速運転を実施する。ただし、埼玉スタジアム駅に快速列車は停車しない。
沿線開発して快速運転
埼玉高速鉄道の延伸は、整備費用の3分の1が国から出る補助制度を利用する計画です。その場合、補助を受けるには開業から30年以内に累積黒字に転換し、費用便益比(費用対効果)が1.0を超えなければなりません。
上記5ケースのうち、国の補助基準を超えたのは、4と5の二つでした。
4の「沿線開発+快速運転ケース」の場合、黒字化まで18年、開業30年後の費用便益比は1.07。5の「沿線開発+埼玉スタジアム駅常設化+快速運転ケース」の場合、黒字化まで20年、費用対効果は1.07となりました。
一方、ベーシックな試算といえる1の「すう勢ケース」では、黒字化に46年で、費用対効果は0.81となっています。2の「沿線開発ケース」は38年の0.87、3の「沿線開発+スタジアム駅常設化ケース」は55年の0.88で、いずれも国の補助基準を満たしませんでした。
そんなに人口が増えるのか
カギとなるのは沿線開発で、想定通りなら人口が増え多くの利用者を確保できます。また、快速運転を実施すれば、東武野田線沿線からの利用者がより多く見込めます。そのため、4の「沿線開発+快速運転」で最も良好な試算結果となったのでしょう。
ただ、気になる点もあります。
協議会資料を細かく見てみると、将来人口予測は、国立社会保障・人口問題研究所の数値を使っていません。さいたま市が「独自に将来人口を推計し、考慮する」とあり、社人研数値より、将来推計人口が多くなっています。
それによると、浦和美園駅周辺の「確実視される人口増」は2017年8月に比して、2030年には3,170人増えると仮定しています。「沿線開発による人口増」は、たとえば浦和美園駅周辺が2015年の10,300人が2030年に約34,000人に、岩槻駅周辺は約11,400人が18,500人になるとしています。
鉄道新線が開業すれば、沿線開発が進み、人口が大幅に増えるのはたしかでしょう。とはいえ、人口減少・都心回帰の時代に、このエリアで人口が急増するという仮定は、やや楽観的にも感じられます。
想定利用者が増えた理由
想定輸送密度については、協議会予測の「すう勢ケース」で1日あたり19,500人キロ、「開発+快速運転ケース」で23,400人キロとなっています。これに対し、2016年の交通政策審議会答申では、2030年に 14,900~15,300人キロと予測していました。
想定利用者が増えた理由として、協議会資料では、交政審と比較してさいたま市の将来人口設定が3.9%多いこと、岩槻駅の乗換時間を3.7分から2.8分に変更したこと、大規模商業施設やスタジアムの旅客数を考慮に入れたこと、などをあげています。
快速運転ができるのか
快速運転に関しては、現時点では埼玉高速鉄道に待避駅はありません。協議会資料でも「各駅停車の追越しはなし」という設定となっています。
かつて鳩ヶ谷駅に待避線を設ける議論もありましたが、費用がかかりすぎることなどから実現していません。そのため、今回の想定でも「待避無しの快速運転」という設定になったのでしょう。
とはいえ、途中追い越しがなく、5駅(埼玉スタジアム駅を含めれば6駅)しか通過しない快速列車を本当に運転するのか、という疑問も残ります。現在の各駅停車の一部を快速にするという構想のため、途中駅は列車本数が減るわけで、かえって利用者が減らないか心配になります。
無理のない計画を
実際、読売新聞2018年2月23日付によると、協議会の委員から「快速運転の効果など、引き続き、需要予測の精査が必要だ」「鉄道会社間での議論など課題が多い」などの意見が上がったそうです。
延伸工事の建設費は概算で860億円。これまで開業した第三セクター鉄道のなかには、沿線開発を見込んで鉄道を敷いたものの、想定ほど人口が増えずに経営が行き詰まった会社もあります。
埼玉高速鉄道も、2014年に事業再生ADRにより経営再建をしています。延伸をするのならば、今度こそ無理のない計画を願いたいところです。(鎌倉淳)