都心部・臨海地域地下鉄は、東京駅から銀座を経て臨海部の有明を結ぶ地下鉄構想です。2022年11月に東京都が事業計画を発表して2年近くが経ちますが、計画はどこまで進んでいるのでしょうか。
都心部・臨海地域地下鉄の概要
都心部・臨海地域地下鉄(臨海地下鉄)は、東京臨海部と銀座・東京駅を結ぶ地下鉄計画です。2022年11月25日に東京都が事業計画を発表。2040年頃の完成を目指すことになりました。
東京駅(八重洲口)から有明・東京ビッグサイトまでの約6.5kmを結ぶ計画です。途中に新銀座、新築地、勝どき、晴海、豊洲市場の5駅を設けます(駅名はいずれも仮称)。
ルートは東京駅から銀座付近までが外堀通りで、みゆき通りから築地市場跡を経て、晴海通りの西側の道路を南下し、環状2号線に移って有明に至る形が想定されています。東京~有明の所要時間は約10分です。
整備主体は鉄道・運輸機構、営業主体は東京臨海高速鉄道を想定します。
臨海地下鉄の駅位置
中央区が公表した『令和5年度地下鉄新線検討調査 報告書』によれば、同区内の駅位置はおおむね確定しているようです。
まず、東京駅の位置は八重洲口の呉服橋交差点付近になるようです。八重洲地下街や半蔵門線三越前駅と接続します。
新銀座駅は銀座西2丁目交差点付近に設置し、丸ノ内線銀座駅や有楽町線銀座一丁目駅と接続します。
新築地駅は築地市場跡の再開発に対応する形で設置します。大江戸線築地市場駅とも接続します。勝どき駅でも大江戸線と接続します。
晴海駅は晴海三丁目交差点のほか、晴海五丁目方面への出口も検討されています。
豊洲市場と有明・東京ビッグサイト駅は江東区にあるので、中央区の報告書には記載がありませんが、豊洲市場駅は市場前の交差点付近に設置されるとみられます。
つくばエクスプレスとの接続
臨海地下鉄は、つくばエクスプレス(TX)とJR羽田空港アクセス線臨海部ルートとの接続も検討しています。
TXとは東京駅で接続します。TXが秋葉原~東京間を建設し、そこに臨海地下鉄が乗り入れます。ただし、TXの東京駅延伸は決定事項になっていません。
東京都議会の2024年3月13日予算特別委員会では、都の都市整備局長がTXの東京延伸について、「関係者間でルートや導入空間の確保、事業費等の課題を踏まえつつ、事業計画の十分な検討が必要」「運営会社の車両長編成化事業や経営状況等を踏まえ、国も含めた関係者間で連携を図りながら適切に対応する」としたうえで、「まずは臨海地下鉄の東京から有明までの区間について検討を行う」と答弁しています。
この答弁から察するに、TXの東京延伸は、ルートや事業費、経営状況に課題があるようです。TXは関係自治体が多いこともあり、事業化に向けた合意形成も難しそうです。そのため、都としては臨海地下鉄単独で事業を進める構えに転じているように感じられます。
羽田空港アクセス線への接続
JR羽田空港アクセス線臨海部ルート(以下、臨海部ルート)への接続については、臨海地下鉄の有明・東京ビッグサイト駅から、りんかい線に乗り入れる連絡線を作り、りんかい線経由で臨海部ルートに直通する形が検討されているようです。
東京都の都心部・臨海地域地下鉄構想事業計画検討会の議事録では「臨海部ルートとの接続については、臨海地下鉄の有明・東京ビッグサイト駅(仮称)において接続を見据えた検討を進めるなど、関係者と協議・調整を行う必要がある」となっています。
有明・東京ビッグサイト駅からりんかい線に、列車が乗り入れられるような駅構造を検討していることがうかがえます。
事業主体と車庫位置の問題
臨海地下鉄をTXと切り離して先行整備する場合、問題となるのは車両基地(車庫)です。臨海地下鉄沿線に車庫を設置できそうな広い敷地は見当たりません。
一方、有明付近で臨海地下鉄とりんかい線をつなげるのであれば、品川区八潮にあるりんかい線の車両基地を使えます。臨海地下鉄の運営は、りんかい線を運営する東京臨海高速鉄道がおこなうことが2024年2月に決定していますが、これも単独整備を見据えた措置に感じられます。
りんかい線の車庫を使うためには、両線の線路をつなげる必要があり、そのために事業主体を同一にしたほうが都合がいいからです。
臨海部ルートは臨海地下鉄に直通?
一方、JR東日本は、臨海部ルートを、2031年度に開業させる方針のようです。これにより、臨海地下鉄がりんかい線・臨海部ルート経由で羽田空港へ乗り入れることも可能になります。
臨海部ルートは、羽田空港~新木場間が想定されています。千葉方面への直通も構想されていますが、りんかい線の運賃収受の問題があり、それが解決できなければ、千葉方面の直通列車は運転できません。
新木場折り返しにするなら、臨海地下鉄に乗り入れた方が、多くの利用者を獲得できるかもしれません。JR東日本がそう判断すれば、臨海部ルートは、臨海地下鉄に乗り入れる可能性もありそうです。その場合、東京駅~臨海部(晴海・有明・台場)~羽田空港という系統が誕生することになります。
総事業費と費用対効果
交通政策審議会が2021年7月にまとめた答申第371号『東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について』の参考資料によると、都心部・臨海地域地下鉄を新銀座~国際展示場間で作った場合、総事業費は2,600億円、輸送密度は4万6400人~4万7200人、費用便益比(B/C)は0.7となり、累積資金収支は36~38年で黒字化します。
まだ、TXと直通し、秋葉原~東京~新銀座~国際展示場間で作った場合、総事業費は6,500億円、輸送密度は9万8900人~10万2100人、B/Cは1.5~1.6となり、累積資金収支は18~19年で黒字化します。
一方、2022年に都が発表した『事業計画案』によれば、東京~国際展示場間の総事業費は約4,200~5,100億円、B/Cは1以上、累積資金収支は30年以内に黒字になるとされました。地下高速鉄道整備事業費補助または都市鉄道利便増進事業費補助を活用する想定です。
2040年にできるのか?
臨海地下鉄は、TXの東京駅延伸とセットでの建設が検討されてきました。しかし、TXの東京駅延伸へ目立った動きはみられません。そうしたなか、東京都は、臨海地下鉄の先行着手に舵を切り始めている様子がうかがえます。
沿線では、日本橋付近の首都高速の大規模改良や、首都高速晴海線の建設計画もあります。臨海地下鉄と首都高速の改良・建設区間は一部で重なっており、同時施工をすれば事業費を圧縮できるかもしれませんし、工事による沿線地域への影響を小さくできます。
そのため、臨海地下鉄と首都高速の工事はセットでおこなわれるのではないか、と筆者は考えています。ならば、TXの延伸合意を待つよりも、首都高との同時施工を優先し、さっさと作ってしまおう、と判断するのは不思議ではありません。そもそも、臨海地域の交通問題は喫緊の課題です。
ただ、事業着手したとしても、臨海部の深い位置での大規模な工事となるので、目標年度の2040年に開業できるかは、なんともいえません。(鎌倉淳)