ピーチの異常降下事件のよくわからない点。「機長と機材は次のフライトで関空へ」は、さすがに誰もが驚いた。

ピーチ航空機が海面に異常接近した事件。最初は、「機長の勘違い」程度の話かと思っていたのですが、どうもよくわからない話になってきました。

この事件が起きたのは、2014年4月28日。石垣発那覇行きのピーチ・アビエーションA320-200型機が、那覇空港の北約7kmで高度約75mまで降下、海面に異常接近したものです。地上接近警報装置(GPWS)が作動し、機長は機首を上に向け「墜落」を回避。その後、着陸をやり直し、那覇空港に着陸しました。乗員乗客計59人は無事で、機体にも損傷がありませんでした。

広告

重大インシデントと判断

これについて、国土交通省は、事故につながりかねないトラブル「重大インシデント」だったと判断。運輸安全委員会が、航空事故調査官を派遣する事態になりました。

重大インシデントは文字通り「重大」ですが、過去にはJALもANAも発生させており、きわめて珍しいというほどではありません。今回の事件においても、安全装置がきちんと作動したという側面は評価できますので、最初は、「危なかったな、きちんと原因を調べて再発防止しよう」という程度の話ではないかと思われました。

ピーチ・機体

が、事件の詳細が明らかになってくると、どうもそう単純では済まされない風向きになってきています。

何より驚いたのが、着陸した機長と副操縦士が、同じ機体で次便に乗務したことです。着陸後約1時間20分で那覇空港を離れ、関西空港まで操縦してしまいました。「墜落未遂」を起こしたクルーがそのまま機体と一緒に次のフライトを運航というのには、さすがに誰もが驚いたことでしょう。

こんなことをしたら、安全面でも懸念がありますし、事故調査にも支障が出ます。実際、関空まで飛行したおかげで、2時間しか録音時間のないボイスレコーダのデータが上書きされ、消失してしまったようなのです。これはあってはならない失態です。

ピーチでは、警報が作動した場合は運航を取りやめる社内規定になっていたということですが、誰も気づきませんでした。警報装置が作動しても気づかない社内体制がピーチの現状であることが判明したわけです。これも恐ろしいことです。

海面異常接近の原因も、よくわかりません。機長は「管制官から降下の指示が出たと勘違いした」と説明しているそうですが、パイロット経験者は、「管制からの指示は復唱が原則であり、勘違いするなんてありえない」と口を揃えています。また、当時、那覇空港の管制官は、旅客機の高度が通常より手前で下がっていることを認識しており、複数回にわたって通信で注意を呼びかけていたそうです。これが事実なら、機長は管制の呼びかけが耳に入ってなかったことになりますが、そんなことがあるのでしょうか。

機長はアルゼンチン人ですが、操縦の経験は長く(機長なのだから当たり前ですが)、ピーチの前には別の日系航空会社で8年間も乗務していたそうです。そのため、那覇空港にも慣れていたはずで、日本の管制とのやりとりで不都合があったとも考えにくいです。また、管制との直接の交信は日本人の女性副操縦士が行っていましたが、交信を副操縦士が行うことは自体はごく普通のことです。

ピーチによると、機長の月間フライト時間は一般に70~80時間程度で、他社に比べて格別多いわけではないようです。この機長についても、勤務時間などは規定内で、過度の疲労があったとは考えていない、とのこと。そもそもLCCのパイロットは、外部の人間がイメージするほど過酷なわけでもなく、「時差のない国内線しか飛ばないし、同じ区間の運航ばかりだから、フライト時間が他社と同じならラクなはず」と指摘する関係者もいるほどです。

複雑な事故ではないだけに、「原因の究明」はそう難しくはないと思われます。しかし、最終的に「外国人機長のミス」で済ませられてしまいそうな気配が早くも漂います。直接的な原因がヒューマンエラーであったとしても、ピーチの社内体制がきちんと検証されなければならないのはいうまでもありません。

ピーチは「機長不足」で最大約2000便の欠航を発表したばかりです。今回の件と「機長不足」は直接関係していないとしていますが、それを信じる人がどれだけいるのでしょうか。

一番避けなければならないのは、「だからLCCは…」という議論に向かってしまうことです。ピーチには、これを機会にしっかりと社内体制を見直してほしいですし、原因についてもしっかりとした説明を望みたいところです。

広告
前の記事JAL羽田~イタリア直行便はいつまで運航できるか? アメリカ「内紛」で転がり込んだ羽田昼間枠の行方
次の記事北海道新幹線の延伸開業前倒しを検討へ。でも札幌到達は早くて2030年。もっと早く造れないの?