奥羽線の「非電化化」は大曲まで拡大するか。新庄~院内間を架線レス復旧へ

焦点は変電所

豪雨被害で運休中の奥羽線新庄~院内間が、「非電化」により復旧することが明らかになりました。電化区間の「非電化化」は、磐越西線会津若松~喜多方間につづいて2例目です。

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2025年GW前に復旧

奥羽線新庄~院内間は、2024年7月の豪雨で被災して運休中です。JR東日本は、10月18日に復旧見通しを公表し、2025年ゴールデンウィーク前の運転再開を目指すことを明らかにしました。

ただし、運転再開時は電気式気動車GV-E400系を導入し、架線からの集電はしません。同区間は電化されていますが、復旧後に架線をはじめとした電化設備を順次取り外すことを明らかにしました。

奥羽線

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2015年頃から検討

JR東日本は、電化設備の撤去を「架線レス化」と呼んでいます。2015年に刊行された『JR EAST Technical Review-No.51』には、「蓄電池車両を活用し、架線レス化(変電設備・架線の廃止)の実現に向けた検討を進めます」と記されており、この頃から検討を始めていたことがわかります。

2021年3月期の決算説明会資料では、構造改革の一つとして「設備のスリム化」を掲げ、「電車をハイブリッド車等に置き換え、架線や変電設備等を撤去」する方針を明記。実際に、2022年3月ダイヤ改正で磐越西線会津若松~喜多方間に電気式気動車を導入し、電化設備を撤去しています。

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輸送密度291

奥羽線新庄~大曲間は、磐越西線に続く「架線レス化」区間の候補と目されてきました。同区間は、山形・秋田両ミニ新幹線の狭間で、現在も将来的にも特急列車の運行が想定されず、事実上ローカル線となっていたためです。

とくに、新庄~湯沢間は山形・秋田の県境区間でもあり、利用者は多くありません。2023年度の輸送密度は291にとどまっています。そのため、被災がなくても、架線レス化の対象になっていた可能性があります。

その点で、今回、JR東日本が新庄~院内間を「架線レス復旧」することに驚きはありません。JR東日本は、「サステナブルで災害を受けてもより早期復旧が可能となる鉄道」と表現していますが、災害の多い山間部でローカル線を維持していくために、地上設備を簡略化するのは当然の話です。

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拡大されるか

気になるのは、将来的に架線レス区間が拡大されるのか、という点でしょう。列車の運行形態をみれば、新庄~院内のみならず、新庄~大曲間が架線レス化されても不思議ではありません。そのほうがダイヤも組みやすく、車両運用もしやすくなるからです。

また、院内には変電所がありますが、新庄~院内間を非電化にするならば、院内は電化区間の末端となります。しかし、電化区間の末端部に変電所を残すのは非効率的です。

前述のように、JR東日本は構造改革として「架線や変電設備等を撤去」するとしており、架線だけでなく変電設備の撤去も重視しています。院内変電所は設備が大きいこともあり、効率性を追求するなら廃止したいところでしょう。そのためには供給先の院内~大曲間の電化設備も撤去する必要がありそうです。

ただし、院内変電所は設備が大きいだけに、廃止するのであれば、近隣の変電設備の増強も不可欠です。

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新型車両の導入にあわせて

また、架線レス化を環境面で正当化するためには、環境性能に優れた新型車両の導入が必要になります。

今回は電気式気動車GV-E400系を導入しますが、数が足りないようで、従来の気動車(キハ110系)も併用します。つまり、新型車両の導入が間に合っていません。となると、すぐに非電化区間を拡大するわけにもいかないでしょう。

こうしたことから、院内~大曲間の架線レス化は、近隣の変電設備の更新や、車両の更新計画とあわせて進められるのではないでしょうか。(鎌倉淳)

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