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京成「新型有料特急」都営・京急直通は実現するか。新社長が意欲

西馬込?羽田空港?

京成電鉄の天野貴夫新社長が、2028年度に運行開始予定の新型有料特急について、都営浅草線への直通に意欲をみせました。その先の京急線も含めて、直通運転は実現するのでしょうか。

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「押上から先に入っていけるといい」

京成電鉄の天野新社長は、2025年6月に就任しました。報道各社のインタビューに順番に応じていて、押上~成田空港間を結ぶ新型有料特急(以下、「押上ライナー」)についてもコメントしています。

各社インタビュー記事のなかで、「押上ライナー」について、もっともわかりやすくまとめていたのが、朝日新聞電子版2025年9月3日付です。

記事によれば、天野社長は、「地下鉄に入ることを見据えた車両になると思う。東京都交通局と調整を十分にしないとできないが、将来的に押上から先に入っていけるとよりいい」と述べ、都営浅草線直通を目指すこと明らかにしました。

また、「押上ライナー」の成田空港から都内への所要時間については「スカイライナーに近いスピード感を実現したい」と述べ、押上~空港第2ビル間を30分台で目指すことを示唆しました。

京成新型有料特急
画像:京成電鉄中期経営計画 D2プランより

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西馬込まで乗り入れ?

「押上ライナー」の運転開始は2028年度が予定されています。当初は押上発着でスタートするようですが、インタビューによれば、その後、都営浅草線にも乗り入れる構想を立てているわけです。

都営浅草線に乗り入れる場合、有料特急の折り返しができそうな駅は、途中にありません。したがって、京急線に入らないなら、西馬込駅まで乗り入れることになるでしょう。

西馬込駅まで運転する必要はないと判断するなら、たとえば営業運転は五反田駅までにして、五反田~西馬込間は回送とし、回送中に車内清掃などをおこなう、といった形が考えられます。

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京急線には乗り入れられるか

「押上ライナー」が都営線内に入るのであれば、泉岳寺駅から京急線への乗り入れも期待したくなります。

京急では、品川駅の2面4線化や、羽田空港駅での引き上げ線の整備をおこなっています。完成すれば、羽田空港発着の列車を毎時3本増発できる見通しで、有料特急の受け入れ余力が生まれます。

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真の狙いは品川・羽田空港駅発着?

成田空港と羽田空港とを、着席サービスのある鉄道で直結することには意味があります。

また、新幹線と連絡し、周辺にホテルも多い品川駅に発着することにも、大きな価値があるでしょう。

となると、京成側が都営直通を望むのであれば、その真の狙いは、西馬込駅ではなく品川駅・羽田空港駅乗り入れと思われます。

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京急にもメリット

押上ライナーが羽田空港に乗り入れれば、京急としても、品川~羽田空港間で有料着席サービスをおこなえます。

羽田空港アクセスをめぐっては、JRが東京駅と羽田空港を直結する新線を建設しています。JRの羽田空港アクセス線が開業すれば、京急利用者は減少が予想されますので、差別化として、京急が有料着席サービスを導入することは、検討に値することでしょう。

羽田空港は国際線の発着便数が増えてきましたので、大きな荷物をもった外国人客に、有料着席サービスは求められています。その点からも、有料特急導入の価値はありそうです。

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車両はどうするか

ただ、「押上ライナー」が都営線や京急線に乗り入れるのであれば、列車の運行時間が長くなるので、車両の手当が必要になります。

京成の「押上ライナー」への総投資額は400億円を予定しています。京成は「スカイライナー」の車両更新も見据えていて、その費用を700億円と見積もっていますので、「押上ライナー」への投資額は、その6割程度です。

したがって、「押上ライナー」の編成数は、「スカイライナー」の半分程度となる模様です。押上~成田空港間を「スカイライナー」の半分程度の運行本数で運転するだけなら、この編成数で間に合います。

しかし、都営線に乗り入れるとなると、押上~西馬込間で35分程度ですので、押上~成田空港間と同じくらいの時間がかかります。したがって、必要になる車両は倍になるでしょう。押上~羽田空港間なら50分ですので、さらに増備が必要になります。

京成の現時点の計画を見る限り、乗り入れを見据えた車両調達をする予定はなさそうです。したがって、新型有料特急が本当に直通運転をするなら、車両を都営や京急が調達しなければなりません。

その場合、そろそろ予算や、経営計画に盛り込む必要がありそうですが、現時点では、都や京急で、そうした動きは確認されていません。

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時間軸を確認すると

各プロジェクトの時間軸を確認してみると、京成「押上ライナー」の運行開始が2028年度、品川駅2面4線化の完成予定が2029年度、羽田空港引き上げ線の完成予定が2030年頃、JR羽田空港アクセス線の開業予定が2031年度とされています。

「押上ライナー」は成田空港拡張にあわせて運行を開始するので、空港拡張計画が変わらないなら、2028年度運行開始は動かないでしょう。となると、運行開始時点では、押上発着になるのは間違いなさそうです。

その後、線路設備上は、2030年頃には、都営・京急線に乗り入れて、羽田空港発着にできそうです。JR羽田空港アクセス線の開業前に先手を打つのであれば、2031年春ごろには、「押上ライナー」を「羽田ライナー」に進化させたいところでしょう。いまの段階でその動きは見通せませんが、期待したいところです。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。