小笠原空港計画に暗雲。導入予定のATR42-600Sが開発中止へ

AW609で検討か

小笠原空港計画に暗雲が漂っています。導入を想定していた新型機材ATR42-600S型機の開発が中止されることになったからです。

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1,000m滑走路の建設計画

小笠原諸島は東京から約1,000km離れた位置にあります。空港はなく、本土との交通機関は週1便程度運航されるフェリー「おがさわら丸」に頼っています。

空港計画は古くからあり、現在は、州崎地区に1,000m規模の滑走路を建設する計画を軸に検討が進められています。

1,000mの滑走路で離着陸できる機材は少なく、小笠原空港計画では、フランスの航空会社ATRが開発中のATR42-600S型機の活用を想定していました。

ATR42-600S
画像:ATR社ウェブサイトより

 
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ATR42-600Sとは

ATR42-600Sは、同社のターボプロップ機であるATR42-600のSTOL(短距離離着陸)型で、800mの滑走路で離着陸できる性能が特徴です。

最大座席数は48席。40人クラスの座席があれば、小笠原への航空需要をある程度満たせます。

800mでの離着陸性能があれば、滑走路を短くして環境面の影響を抑えられることから、小笠原空港計画の想定機種として、白羽の矢が立てられていました。

小笠原空港1,000m滑走路案
画像:小笠原航空路協議会資料

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開発中止を正式発表

ATR42-600Sは、2017年に開発が発表され、当初計画では2022年の初就航を目指していました。しかし、開発は予定通りに進まなかったようです。

2024年11月13日には、仏ATR社がATR42-600Sの開発中止を発表。「将来の予測を総合的に検討した結果、当初の予測と比較して、この機種の対象市場が縮小していること」を中止の理由にあげました。

40人定員クラスの旅客機で、1,000m滑走路で離着陸できる機材は他に見当たりません。そのため、ATR42-600Sの開発が頓挫したことで、小笠原空港計画も再検討を迫られます。

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もうひとつの候補機種

小笠原空港計画を検討している小笠原航空路協議会では、ATR42-600Sのほかに、もう一つ機材の候補を挙げています。イタリアの航空機メーカー・レオナルド社が開発中のAW609型機です。

AW609は、就航すれば世界初となる、民間型ティルトローター機です。

ティルトローター機とは、外見はプロペラ機に似ていますが、ローターの角度を変えることでヘリコプターのように垂直に上昇できます。

上昇後はローター軸を前方に向けて、ターボプロップ機(プロペラ機)として飛行します。垂直着陸も可能です。

AW609型機
画像:レオナルド社ウェブサイトより

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垂直離着陸できる飛行機

つまり、垂直離着陸性能と固定翼飛行機のスピード、飛行高度を兼ね備えた航空機です。したがって、気象条件などがあえば、ヘリポートでも離着陸ができます。滑走しての離着陸であっても、400m程度の長さの滑走路があれば可能です。

巡航速度は509km/hとされていますので、ふつうのターボプロップ機と同様の所要時間で、東京と小笠原を結べます。

AW609を活用すれば、小笠原空港の滑走路長は400mにまで抑えられます。環境への影響が少なく、建設期間も短くなります。

小笠原空港400m滑走路案
画像:小笠原航空路協議会資料

 
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定員が少なすぎ

ただ、AW609の最大定員は9人に過ぎません。規模としてはヘリコプター級です。つまり、ヘリコプターが飛行機並みの速度で飛べる、という話と捉えたほうがよさそうです。

したがって、小笠原への旅行者の需要を満たすほどの運搬能力はありません。

ただ、小笠原空港の建設目的で大きなウェイトを占めるのが急患など緊急時の搬送で、次いで島民の用務での本土訪問です。そうした目的だけならAW609でも果たせますし、導入する意味もあるでしょう。

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採算面では厳しく

AW609は、現在開発中で、米国の型式証明取得の最終段階に入っています。欧州での報道によれば、2025年にも就航できる可能性があるようです。

小笠原航空路協議会では、同機の就航の見通しが立ってから、小笠原空港建設計画について詰めることになるのでしょう。

しかし、定員9人の飛行機で定期航空路を開設しても、一般的な航空運賃で採算を取るのは難しいことが予想されます。路線の持続可能性についても、綿密に検討する必要がありそうです。(鎌倉淳)

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