JR東日本の「オフピーク定期券」の購入率が伸び悩んでいます。2024年10月の値下げ後、購入率はやや上向きましたが、2025年3月末では8.9%にとどまり、目標としている17%に遠く及びません。
2023年3月に導入
JR東日本のオフピーク定期券は、平日朝のピーク時を除く時間帯に有効な定期券で、通常の通勤定期運賃より価格を低く設定しています。平日朝ラッシュ時の混雑緩和を目的として、2023年3月に首都圏で導入されました。
オフピーク定期券の導入にあわせて、通常の通勤定期運賃を1.4%を値上げ。いっぽう、オフピーク定期券は10%値下げしました。
JR東日本は、オフピークの定期券の利用率を約17%と予想したうえで、「定期運賃収入全体としては増収とならない」と想定して値上げ幅と値下げ幅を決めたと説明してきました。
割引率15%でも伸び悩み
しかし、実際のオフピーク定期券の購入率は伸び悩みました。
導入後、期末ごとにJR東日本が発表している決算資料によれば、オフピーク定期券の購入率は以下のとおりです。
2023年9月末 8%
2024年3月末 8%
2024年6月末 8.5%
2024年9月末 7.7%
2024年12月末 9.4%
2025年3月末 8.9%
2023年3月に導入し、2024年3月の購入率は8%。想定の17%に遠く及ばないことから、同年3月25日からオフピーク定期券の購入金額に対してJRE POINTを5%還元する取り組みを開始しました。
それでも上向かず、同年9月には購入率が7.7%にまで低下。これを受け、2024年10月1日には、オフピーク定期券の価格を、通常の定期券より約15%割安となるよう値下げしました。購入時のJRE POINT還元と合わせると約20%も安くなる設定にしたわけです。
その結果、2024年12月末時点で9.4%まで購入率が上向きました。しかし、3月末は8.9%に低下しています。ポイント還元と値下げの効果は「1%程度」にとどまることが示されたことになります。
たび重なるてこ入れ策にもかかわらず、オフピーク定期券の購入率は伸び悩んでいるといえそうです。
減収は約100億円?
ここで問題になるのは、JR東日本がオフピーク定期券の購入率を17%と想定して「定期運賃収入全体としては増収とならない」形で、通常定期運賃を値上げしたことです。
当時の資料を見ると、通勤定期運賃収入を7386億円と仮定し、そのうち1205億円分(16.3%)がオフピーク定期に移行し、10%割引で120億円の減収になるとしていました。

(オフピーク定期券の導入について)」2022年、国交省資料
しかし、現実の購入率(9%)を当てはめると、移行したのは約660億円分で、15%割引として約100億円の減収にとどまっている計算になります。
増収は約112億円?
一方、6181億円分(83.6%)が通常の定期券を継続し、1.4%値上げにより85億円の増収を見込みました。しかし、現実の購入率を当てはめると、約6650億円分が継続し、1.4%値上げにより93億円程度の増収になっている計算です。
また、オフピーク定期券利用者が、ピーク時間帯に利用することによる定期外増収分は、想定が35億円でした。実際の購入率を当てはめると19億円程度になりそうです。これを含めると、増収分は112億円程度になるでしょう。
「全体として増収にならない」範囲か?
となると、おおざっぱには、オフピーク定期導入により、100億円の減収と、112億円の増収が発生している計算になります。
もちろん、これは筆者による適当な計算なので、実際の数字とは違いがあるでしょう。その前提ですが、「定期運賃収入全体としては増収とならない」範囲に収まっているかどうかは、何とも言えません。
実質目標は10%?
JR東日本としては、「増収とならない」約束で国土交通省から運賃値上げの認可を得ているので、仮に増収になったとしても、「誤差の範囲」程度に収める必要があります。現在の「購入率9%」が、それを満たすかは微妙なところです。
ただ、割引率を15%にした時点で、増収と減収の均衡点が下がっているのは間違いないので、JR東日本として「購入率17%」を、いまさら本気で求めていないでしょう。
現実的には、「割引率15%、購入率10%」であればおおむね均衡するようなので、事実上の購入率目標も10%程度に引き下げているのではないでしょうか。
導入企業も限られて
オフピーク定期券が利用できない時間帯は、東京都心部で7時30分頃から9時頃です。JR東日本によれば、月3~4回程度、ピーク時に利用する程度なら、オフピーク定期券のほうが割安になるそうです。
JR東日本では、「通勤手当を抑制し、会社の経費節減につながる」とPRしています。しかし、オンピーク利用の出勤時に精算の手間が生じることもあり、導入企業は広がりを欠いているようです。
個人として購入するにしても
個人としてサラリーマンが購入するケースでも、オフピーク定期券が発売されたからといって、通勤時間をずらせる人は限られています。割引率を高めても、そういう人が増えるわけではありません。
だとすれば、割引率を高めて「オフピーク定期券の利用者を増やすこと」はできても、本来の目的である「ピーク時の利用者を減らす」という効果は、これ以上期待できないでしょう。
そもそも、いまオフピーク定期券を使っている人の多くは、「もとからオフピークに利用していた人」の可能性があります。オフピーク定期券の導入により、どれだけピーク時の利用者が減少したか、はっきりした数字は示されていません。
まとめると、オフピーク定期券の導入は、興味深い試みでしたが、想定ほどはうまくいかなかったように見受けられます。(鎌倉淳)