小田急が、2022年春から子どもの運賃を全区間で一律50円にすると発表しました。子育て支援の施策ですが、効果はあるのでしょうか。
小学生は全区間50円に
小田急電鉄は、現在は大人運賃の半額としている小児運賃(子どもの運賃)を、2022年春から全区間一律で50円にすると発表しました。PASMOなど小児用ICカード乗車券を持っている小学生(6~12歳)が対象です。
夏休みなどに「子ども50円」の施策を導入しているバス会社はすでにありますが、鉄道会社が小児運賃を半額以下の一律運賃にするのは初めてです。
定期券、フリーパスの値下げも
小田急の小児運賃は現在、ICカード使用時の初乗りが63円で、最も高い新宿~小田原間が445円。一律50円とすることで、最大395円、率にして約89%の大幅値下げとなります。運賃だけでなく、小学生の通学定期やフリーパスの値下げも検討します。
手始めに2021年11月27日、28日、12月4日、5日の週末4日間を「小田急こども100円乗り放題デー」とし、「期間限定1日全線フリー乗車券」を通常1,000円のところ100円で発売します。
小児運賃の値下げにより、小田急は年間2億5000万円程度の減収を見込みます。ただ、同社の運輸収入は810億円(2021年3月期)、コロナ前は1,230億円(2019年3月期)にも達しますので、小児半額の減収額は割合として僅かです。
値下げにより沿線に子育て世帯を呼び込み、外出の機会を促してグループの商業施設の売り上げを伸ばすことを狙います。
子育て応援ポリシー
小田急の小児運賃の大幅値下げは、同社の「子育て応援ポリシー」の策定にあわせたものです。
子育て応援ポリシーでは、「小田急はこどもの笑顔をつくる子育てパートナーであることを宣言」したうえで、「子育てしやすい沿線」をつくることを目標に据えています。
小児運賃の値下げは、その具体策の一つというわけです。それだけでなく、子どもが楽しめるイベントや、駅への子ども専用トイレ・ファミリートイレの設置、車内への車いす・ベビーカースペースの拡充などの施策を進めています。
「子育て応援トレイン」常設化も
5月に試行した「子育て応援トレイン」の常設化も検討します。一部車両の10号車(新宿寄り)を「子育て見守り車両」に指定し、乗客に「泣き出してしまった子どもは温かく見守って」と呼びかけるというもの。
「子どもが突然泣き出してしまうかもしれない」という不安は、電車利用を躊躇させる大きな要因となりうる、と考えたうえでの施策です。
そのほか、駅にはベビーカーのシェアリングサービスを本格導入する予定もあるそうです。要は、「少子高齢化という社会課題」に「鉄道会社ならではのアプローチ」を行い、子育てしやすい沿線を目指すことで、将来の利用者を育てていくという戦略です。
利用促進効果はあるか
では、こうした施策には、どのくらい利用促進の効果があるのでしょうか。
小田急の運賃水準はもともと低く、小児運賃はその半額ですので、一律50円になったとしても値下げの絶対額は大きくありません。近隣の移動なら100円程度の値下げにとどまりますので、それがどこまで需要を掘り起こすかは未知数です。
とはいえ、沿線ファミリーにとって運賃値下げが歓迎すべきことなのは確かで、気軽に利用しやすい路線という印象を抱くでしょう。「50円で電車に乗れるのは助かる!」と歓喜するパパママが多いことは察せられます。
要するに、小田急としては、「利用促進」もさることながら、ファミリー層に住みやすい沿線イメージをつくり「将来の利用者の確保する」ことに重きを置いているように見受けられます。
子育て見守り車両に期待
小田急のような大手私鉄は混雑していることが多く、子ども連れで利用するのは気が重いものです。座れなければ大変ですし、おとなしくしてくれなければ周囲の冷たい視線も気になります。子ども連れに優しい乗り物とはいえません。
その点は小田急も気付いていて、だからこそ「子育て応援ポリシー」を掲げて多彩な支援策を打ち出しているのでしょう。そうした視点でみると、注目は運賃値下げよりも「子育て見守り車両」の常設化かもしれません。
「子育て見守り車両」の常設化をどのような形で実現させるのかわかりませんが、たとえば、ラッシュ時の「女性専用車両」を、日中や週末は「子育て見守り車両」にすれば、ファミリーは利用しやすくなり、新たな需要の掘り起こしにつながるかもしれません。
「子ども50円」がインパクトのある施策であることに違いありませんし、値下げが子育て支援につながるのは確かでしょう。ただ、それだけで終わらずに、より多くの施策を組み合わせて、子ども連れが利用しやすい鉄道環境の実現を期待したいところです。(鎌倉淳)