JR東日本が新たなフリーきっぷとして「東日本のんびり旅パス」を発売します。JR東日本全線が、平日も含めて乗り放題になるというきっぷです。内容の詳細を紹介しつつ、いまなぜ、こうしたきっぷが発売されるのか、背景を考えてみましょう。
JR東日本全線が乗り放題
「東日本のんびり旅パス」は、JR東日本全線(気仙沼線・大船渡線BRTを含む)で、普通・快速列車の普通車自由席が連続3日間乗り放題となるきっぷです。
グリーン券を別途購入すれば、普通・快速列車のグリーン車自由席も利用できます。一方、新幹線や特急列車は、特急券を別途購入しても利用できません。
価格は9,000円。大人・子どもは同額です。同社のインターネット予約サイト「えきねっと」のみで発売し、駅窓口では取り扱いません。
発売期間は6月18日から12月24日まで。利用期間は7月1日から12月26日までで、平日も利用できます。ただし、8月10日から19日までは利用期間外です。
「東日本のんびり旅パス」の概要
「東日本のんびり旅パス」の概要は以下の通りです。
●利用期間
2025年7月1日(火)~12月26日(金)
※8月10日(日)~19日(火)を除く
●発売期間
2025年6月18日(水)5:00~12月24日(水)23:50
※利用開始日の1ヶ月前から当日まで発売
●有効期間
購入時に指定した利用開始日から連続する3日間
●発売額
9,000 円(おとな・こども同額)
●発売方法
「えきねっと」限定発売。購入後、指定席券売機で発券が必要。
●効力
JR 東日本のフリーエリア内の普通・快速列車の普通車自由席及びBRTが乗り降り自由。新幹線・特急列車、普通・快速列車のグリーン車指定席は利用不可。普通・快速列車のグリーン車自由席は、グリーン券を追加購入すれば利用可。
●特例
・青い森鉄道線(青森~八戸間)については、当日中にJR線を乗り継ぐ場合に限り利用可。青森駅・野辺地駅・八戸駅に限り途中下車可。
・奥羽本線の「新青森~青森」間相互発着の場合、特急列車の普通車自由席が利用可。
・有効期間の最終日は、最終列車まで利用可。終夜運転等を行う場合は、通常ダイヤにおける最終列車まで有効。
「青春18きっぷ」と同ルール
「東日本のんびり旅パス」の基本ルールは、「青春18きっぷ」と同じと考えていいでしょう。言い換えれば、「青春18きっぷ」3日間用の、東日本限定版が「東日本のんびり旅パス」といえます。
「青春18きっぷ」との違いは、利用エリアがJR東日本管内に限られることのほか、価格が少し安い、学休期以外の平日も利用できる、お盆期間は利用できない、といったことでしょうか。
とくに、9月や10月の平日に利用できる点は、「青春18きっぷ」にはないメリットです。通常期の平日に低価格で旅行できるので、シニアのリタイア組に向いている乗り放題きっぷといえるでしょう。
値頃感に乏しく
いっぽう、9,000円という価格は、「青春18きっぷ」3日間用の10,000円に比べれば安いものの、1割引にとどまります。エリアの違いを考えれば、割高と捉えることもできるでしょう。
同社の「北海道&東日本パス」の7日間11,530円と比べても、値頃感は乏しいといえます。価格差の小ささと有効期間と違いの大きさを考えれば、「北海道&東日本パス」の利用期間に「東日本のんびり旅パス」を積極的に選ぶ理由は見当たらない気もします。
簡単にいえば、既存の「青春18きっぷ」や「北海道&東日本パス」に比べると、お得感は小さいものの、通常期の平日に使えるというのが、「東日本のんびり旅パス」の位置づけといえるでしょうか。
なぜ発売されるのか
では、なぜ、こうした位置づけのきっぷが発売されたのでしょうか。発表当初は、6月末で販売が終了する「週末パス」の後継という受けとめ方もあったようですが、「東日本のんびり旅パス」は、「週末パス」と性格がだいぶ異なります。
なによりも、「東日本のんびり旅パス」の最大の特徴は、学休期以外の平日にも利用できる、という点です。
本来、こうした乗り放題きっぷは、休日に余剰になる輸送力の有効活用という側面があります。通勤・通学客が少ない休日に、空いている列車を利用してもらおうという目的で設定されるわけです。
ところが、「東日本のんびり旅パス」は、通常期の平日にも利用できます。これは何を意味しているのかというと、最近のJR東日本では、学休期以外の平日でも輸送力が余剰になりつつある、ということでしょう。
通学客が減りすぎて
平日の輸送力が余剰になっている背景には、人口減少による、高校生の通学輸送の減少があるとみられます。首都圏はともかく、最近の地方圏では、以前に比べて通学客が大幅に減っています。
平日の通学利用者が減りすぎて、乗り放題パスを設定しても問題ないくらいになってしまった、ということです。
いっぽうで、高齢化により、平日に時間のあるリタイア組が増えています。こうしたシニアを旅行に誘い出し、地方圏の普通列車を使ってもらおうという試みが、「東日本のんびり旅パス」なのでしょう。
大都市圏だけでは元が取れない
ただし、東京など大都市圏では、依然としてラッシュの混雑は深刻です。乗り放題の旅行者が、大挙して朝ラッシュ時に乗ってきたら迷惑でしょう。
しかし、「3日9,000円」という単価なら、大都市圏内だけで元を取るのは困難です。
すなわち、3日間連続使用で9,000円という設定にすることで、利用者に大都市圏外へ旅立ってもらい、大都市圏での利用ばかりにならないようにしたのではないでしょうか。
高齢化と人口減少を反映
そう考えると、「東日本のんびり旅パス」は、日本の人口の高齢化と、地方での人口減少を反映したきっぷに感じられます。通学客の減少をシニア旅行者の増加で補う狙い、というわけです。
別の見方をすれば、「青春18きっぷ」は若者をメインターゲットにしたきっぷでしたが、「東日本のんびり旅パス」は、シニアをメインターゲットにしたきっぷといえそうです。
JR東日本の危機感
最近の出生率の低下は目を覆うばかりです。
2000年の全国出生者数が119万人、2010年の出生者が107万人だったのに対し、2024年の出生者は68万人にとどまりました。すなわち、15年後の高校1年生は、全国で70万人に満たないことが、ほぼ決まっています。
25年前の出生数から4割以上、15年前から3割以上減ってしまうわけです。
これは全国の話で、地方に目を移すと、さらに深刻です。とくに、東北地方での出生数減少は激しく、たとえば秋田県は、2000年に9,000人産まれていたところ、2024年は3,200人にまで減っています。
東北の中心地である宮城県でも、2000年に22,000人産まれたところ、2024年は11,000人にまで落ち込んでいます。
JR東日本は、こうした人口減少への危機感を募らせているようで、東北への旅行需要喚起に力を入れています。そう考えると「東日本のんびり旅パス」は、JR東日本の危機感が表れたきっぷの一つ、と受けとめることができるのではないでしょうか。(鎌倉淳)