1月にニセコグラン・ヒラフスキー場を訪れました。ニセコアンヌプリは昨年訪れましたが、ヒラフは10年ぶりくらいです。「ニセコひらふ」とひらがな表記されていた時以来の訪問となりました。
伝え聞いていた通り外国人リゾート客が激増していて、10年前とは全く別の町になっています。道道343号より下のエリアが開発され、真新しいペンションやコンドミニアムが建ち並んでいることには驚かされました。
ホテル閉館ラッシュの理由
それはいいのですが、不思議なのは、道道343号より上のエリア。つまりゲレンデに近い場所で、空き地が目立ったことです。
かつて、このエリアには多数のホテルがありました。しかし、現在その多くが閉館しています。ホテルスノーユニバース、山田温泉ホテル、ホテルニセコスコット、ホテルJ-FIRST、銀嶺荘、そして昨年は、高原エリアの中心ホテルだったニセコ高原ホテルまでもが姿を消しました。いまやグラン・ヒラフスキー場近くで営業している昔ながらのホテルは、ホテルニセコアルペン、ひらふ亭、ニセコパークホテルくらいです。景気が良いはずのニセコで、なぜこのようなホテル閉館ラッシュが起きているのでしょうか。
実は、これら消えてしまったホテルの多くは外資に買収されています。それはいいのですが、困ったことに、跡地の多くに新しいホテルが建たないのです。その結果、ニセコヒラフエリアのゲレンデに近い一等地が空き地だらけ、という不思議な状況になってしまっているのです。
なぜこのような状況になっているのだろう、と不思議に思って調べてみると、倶知安町議会議員の田中よしひとさんのブログに、経緯が簡単に掲載されていました。
http://ameblo.jp/niseko-yoshi/entry-11281038858.html
コンドミニアムを建設できない?
同ブログの内容をおおざっぱに要約すると、以下のようになります。
外資が求めているのは日本的な「宿泊施設としてのホテル」ではなく、分譲型の「コンドミニアム・ホテル」なのですが、ニセコヒラフのゲレンデ近くは国定公園になっていて、分譲型の宿泊施設を作ることには制限があります。その制限について環境省が2011年に建設条件を明示しました。それを機にホテルの売買が一気に進み、既存ホテルの閉館が相次ぎました。ところが、いざ分譲型ホテルを建設しようとすると、国定公園を管理する北海道がなかなか許可を出しません。そのため、建物が取り壊され更地のままになっているのです。
要約はここまでですが、少し解説しますと、分譲型の「コンドミニアム・ホテル」、というのは、日本ではあまりなじみがありませんが、世界のリゾート地ではよくある施設です。キッチンなど生活施設がついている、いわばマンションタイプのホテルで、欧米ではこうしたコンドミニアム・ホテルが部屋ごとに分譲されているケースが多いのです。部屋の管理などは管理会社が行い、オーナーは管理会社を通じて旅行者に貸し出し、宿泊料収入を管理会社とオーナーが分け合う、という仕組みが一般的です。
ですから、分譲型のコンドミニアム・ホテルでも一般旅行者は宿泊可能です。ただ、オーナーは自分の好きなときに泊まることができるなどの特典があります。オーナーなのですから当たり前なのですが、一方で、国定公園に作る大型宿泊施設は、「誰もが平等に泊まれるものでなければならない」という制約があるようなのです。とはいえ、それでは外資が建設を希望している「オーナー特典のある分譲型コンドミニアム・ホテル」は建設できません。それをどう扱うか、ということなどが問題になっていたようです。
特例として許可されたが
結局、2012年7月26日に、北海道が「ニセコ積丹小樽海岸国定公園の特別地域内における行為の許可基準の特例について」という告示を公示し(北海道告示第10728号)、特例として主に既存ホテルの跡地においてのみ、こうしたコンドミニアム・ホテルを建設することが許可されることになりました。
具体的な許可地については、北海道庁のホームページにあります。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/kouen/niseko_kuikizu.pdf
わかりにくい地図ですが、銀嶺荘跡地や山田温泉跡地が含まれていることはわかります。営業中のホテルの土地も許可地に含まれているようです。
この告示によって、コンドミニアム・ホテルの建設が相次ぐのかは今のところなんともいえません。ただ、現状のニセコヒラフエリアを見るにつれ、この更地に早く宿泊施設を作ってほしい、と願っているスキー客は少なくないでしょう。
歩道の除雪もされなくなった
というのも、現在のニセコヒラフエリアには、スキー客が泊まれるゲレンデサイドの宿が激減してしまっているからです。筆者が訪れたときも、主要なホテルはほとんど満室。かろうじてキャンセルの出たホテルに泊まることができましたが、ゲレンデサイドに空き地がいっぱいあるのに宿泊施設は不足、という状況は理解に苦しみます。先の田中氏のブログによれば、ピーク時の2009年に比べ、8件のホテルが閉館しただけで約1500ベッドも減少しているというのです。
また、ひらふ坂の沿道に空き地が続くことは、別な危険を招いているようにもみえます。というのも、空き地の前はあまり除雪されていないため、歩行者が歩道を歩けないのです。結果的に、除雪のされている車道を雪道に慣れない観光客が滑りながら歩くことになります。ひらふ坂には大型バスが頻繁に走っており、その車道を観光客がヨタヨタ歩いているのはとても危険です。
もちろん、歩道の除雪を行政がきちんと行えばそれに越したことはないのですが、空き地に宿泊施設が建てば、事業者の手においても除雪がしっかりされることでしょう。それは、歩行者の安全にもつながると思うのです。
ニセコヒラフは、日本でも希有な外国人向けリゾート地に成長しています。ただ、たとえばスイスのスキーリゾート地に比べればまだまだ町作りは道半ばですし、改善の余地はたくさんあるようにみえます。ぜひ、外資と地元がうまく折り合って、素晴らしいリゾート地に成長させてほしいものです。