「奥日光ロープウェイ」は実現するか。細尾~明智平間、栃木県が調査費計上へ

華厳滝まで伸ばす?

栃木県が、日光市の中心部と奥日光地域を結ぶ、新たな交通機関の整備を検討します。新たなロープウェイを、明智平まで架設する案が軸になるようです。実現可能性と課題を考えてみましょう。

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新年度に調査予算

栃木県の福田富一知事は、2025年1月7日の記者会見で、奥日光地域へ新たな公共交通機関を整備するための調査費を、新年度予算に計上する方針を明らかにしました。

栃木県、日光市、東武鉄道の3者による検討会を24年度内に設置し、公共交通機関の整備方針について検討します。2025年度予算で調査費用を計上し、「新たなモビリティの導入に向けた基礎調査」を開始します。

明智平ロープウェイ

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渋滞への対応策

現在、日光市中心部から奥日光地域にかけての公共交通は、路線バスしかありません。第二いろは坂(上り)の途中に明智平ロープウェイがありますが、あくまでも観光地で、公共交通ネットワークを構成しているわけではありません。

いろは坂では、とくに紅葉時に深刻な渋滞が発生しており、新たなモビリティは、その対応策となります。

細尾地区に駐車場

福田知事は、2024年11月の知事選挙で「新モビリティによる奥日光地域へのアクセス強化」を公約に掲げていました。政策集の発表会見では、「馬返ではない場所から明智平、中禅寺湖を結ぶロープウェイあるいはケーブルカーが考えられる」と説明しています。

当選後の定例会見で、発着地の具体的な場所について問われた際に、「モータープール(駐車場)をつくることを考えれば、いろは坂の入口の手前でそんな場所が設けられるところといえば細尾しかないわけだから、細尾地区にモータープール、そこからロープウェイで上げる」と説明しました。

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なぜロープウェイか

ケーブルカーではなく、ロープウェイを推進する理由については、「ケーブルカーも選択肢としてあるかもしれないが、日光の美しさは、鳥になったつもりで鳥瞰してもらう方が観光振興には大きく役立つ。華厳の滝も中禅寺湖も日光の山並みも、鳥の目で見てもらえるような仕掛けがあったら、さらに国際観光地としての地位が高まっていくのではないか」としており、観光面でロープウェイの優位性が高いことを挙げています。

そのうえで、「モータープールができる場所、そしてそこから明智平につなぐルートということを前提に、今後協議をしていく」と説明しており、細尾地区から明智平へのロープウェイを建設する方針を明確にしています。

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メガソーラーが候補地か

知事がロープウェイ発着地の候補とした細尾地区には、大規模な太陽光発電所があります。

古河電気工業の社宅跡地を活用したメガソーラーで、面積は4万7000平方メートル。山麓部に位置し、駐車場とロープウェイ駅施設を作るには絶好の場所です。おそらく、知事がイメージしている「そんな場所は細尾しかない」というのは、このメガソーラーを指しているのでしょう。

メガソーラー開設時の発表によれば、事業者は土地を古河電気工業から賃借しているそうなので、県が要請すれば、ロープウェイ施設への転用はそう難しくなさそうです。


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明智平ロープウェイもリニューアル

新ロープウェイの運営は、東武グループを想定しています。知事によれば、新たな交通機関の構想は、栃木県と東武グループの間で、コロナ前から議論されていたとのことです。

その東武グループは2024~27年度の中期経営計画で、「明智平ロープウェーのリニューアルによる輸送力強化」を掲げています。つまり、東武グループでも、新ロープウェイ構想を念頭に、明智平ロープウェイのリニューアル計画を進めているわけです。

つまり、栃木県と東武グループの間で「話はできている」ことがうかがえます。両者で長い間交わされてきた議論を、いよいよ実行に移す段階になった、ということでしょう。となると、新ロープウェイの実現可能性は高いとみてよさそうです。

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利用者上下不均衡の懸念

細尾から明智平までは、直線距離で約2.3kmです。そこから展望台までの約0.3kmに、既存の明智平ロープウェイが架設されています。

新たなロープウェイを細尾~明智平間に架設するのならば、細尾から乗車した観光客は、明智平で乗り換えて、展望台に向かうことになります。

しかし、そうすると、新ロープウェイは上りばかりが利用され、下りは閑古鳥が鳴いてしまうという問題が生じます。

既存の明智平駅は、第2いろは坂の途中にありますが、第2いろは坂は、2019年に全面的に上り一方通行化され、下りに立ち寄ることができないからです。

「細尾→(新ロープウェイ)→明智平→(明智平ロープウェイ)→展望台→(明智平ロープウェイ)→明智平→(バス)→華厳滝」と回ることはできますが、逆コースは利用できないのです。そのため、新ロープウェイの利用者が上下で不均衡になってしまいます。

奥日光ロープウェイ
画像:GoogleMap

 
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展望台直行ロープウェイ案

この問題を解決する一つの案は、新ロープウェイの終着地を明智平駅ではなく、展望台にすることでしょう。細尾から展望台まで約2.6kmを一気につなぎ、既存の明智平ロープウェイを廃止するという考え方です。

そうすると、細尾から乗車した客は、展望台を楽しんだあと、細尾に降りることになります。新ロープウェイの上下不均衡問題は解決します。

しかし、観光客は明智平の展望台で折り返してしまい、中禅寺湖や華厳滝を訪れる観光客が減ってしまうかもしれません。そもそも、新ロープウェイで中禅寺湖へ抜けられないのであれば、「奥日光地域へのアクセス強化」という目的も果たせません。

つまり、細尾から展望台まで直行するだけでは意味がないのです。

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華厳滝延伸案

そこで、第2の解決策として考えられるのが、新ロープウェイを、細尾から展望台を経て、中禅寺湖畔の華厳滝付近まで伸ばすことです。

展望台から華厳滝までは、直線で1km程度なので、距離としては長くありません。中禅寺湖周辺での用地確保が課題ですが、現在の観光用の駐車場を転用すれば、不可能ではないでしょう。

ただ、細尾~展望台~華厳滝の総距離は3.6km程度に達し、国内有数の長さのロープウェイになります。事業費が膨れあがり、採算性の問題が生じかねません。

また、国立公園内のロープウェイ新設ですので、環境への配慮も必要になります。明智平からの眺望にロープウェイが入り込んできますので、景観の問題が指摘されるかもしれません。

奥日光ロープウェイルート案
画像:GoogleMap

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日光市内のアクセス

新ロープウェイを整備したとしても、日光駅から奥日光方面へは、乗り換えのないバスが便利なままです。となると、新ロープウェイは、紅葉期の渋滞対策にはなりそうですが、新たな観光ルートとしては、あまり機能しないかもしれません。

できることなら、日光駅から中禅寺湖まで、自動車交通に頼らないネットワークを構築することでしょう。たとえば、日光駅から細尾までの路面電車を復活させて、細尾から展望台を経て華厳滝までのロープウェイを作れば、魅力的な観光ルートになります。とはいえ、路面電車の復活が、そう簡単な話でないのは、いうまでもありません。

知事は、「どこからどこまで新たなモビリティを導入するかという区間の問題、あるいは、導入すべきモビリティの種類によって工事費も変わる。もっとも日光にふさわしく、経済性も高いものがあると念じながら議論の行方を見守っていきたい」と述べています。

つまり、検討会では、新ロープウェイそのものだけでなく、その接続も含めて、奥日光のアクセス全体が議論されます。どういう方向性の結論になるのか、大いに楽しみです。(鎌倉淳)

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