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成田空港「直行バス」本数半減。18年比、鉄道は維持、白タク利用が急増

運転士不足で回復できず

成田空港へのアクセスを担う直行バスの運行本数が、2018年と比べて半減していることがわかりました。とくに多摩、神奈川、埼玉といった中距離路線での減少が激しくなっています。空港旅客は、運行規模が維持されている鉄道のほか、白タク利用にも流れているようです。

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793本から341本に

成田空港会社は、2024年度の成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書を公表しました。それによりますと、成田空港への直行バスが、前回調査の2018年度に比べ、大幅に減少していることがわかりました。

2018年度の前回調査(2018年7月)では、成田空港への直行バスは1日793本(片道あたり、以下同)ありました。しかし、2024年の今回調査(2024年7月)では、1日341本となっており、452本の大幅な減少です。

割合でいえば約57%減で、新型コロナ前に比べ、半分にも満たない運行規模となっているわけです。

リムジンバス

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都内路線も半減

地域別では、東京都発着は全体で241本。前回の512本より271本減少しています。

このうち、かつては成田空港への玄関口だったTCAT発着は、52本が19本となり約63%の大幅減。東京駅周辺は、日本橋、八重洲、鍛冶橋を含めて152本だったところ、今回調査では75本となっていて、約51%の減少です。

ただ、東京駅周辺を発着するエアポートバス東京・成田は、2024年8月に増便をおこなっていて、現在は103本となっています。それでも2018年比で約32%の減少です。

東京都内から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

 

都内でも減少が激しいのが多摩地区です。前回は立川、八王子、吉祥寺、調布、多摩センター発着の便がありましたが、今回、生き残っているのは調布発着の2本だけです。

一方、減少率が小さいのが新宿発着で、前回の48本が今回は46本となりましたが、運行規模をほぼ維持しています。竹芝・臨海副都心発着は9本が14本に増えています。

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神奈川発着は7割減

神奈川県発着は、都内よりさらに減少しています。前回104本が、今回32本となっていて、約69%の減少です。

横浜市内の空港玄関口ともいえるYCAT発着が50本から15本に激減。たまプラーザ・新百合ヶ丘発着も18本が4本に激減しています。

神奈川県西部からは、相模大野・町田発着が13本から5本に減少したほか、本厚木駅・平塚と、茅ヶ崎駅・辻堂駅・藤沢駅路線が運休となっています。

神奈川県内から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

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埼玉県は壊滅

埼玉県発着では、成田空港直行バスがほぼ壊滅しました。2018年度に県全体で47本ありましたが、2024年度は3本にまで減少しています。

大宮駅や所沢駅発着は運休となり、残っているのは川越駅・坂戸駅発着の路線のみです。

埼玉県から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

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北関東エリアも減少

北関東エリアでは、茨城県が21本から8本に、栃木県が18本から6本に、群馬県が17本から4本に、それぞれ減少しています。

いずれも各県1~2路線程度にまで絞られました。栃木県では、宇都宮駅発着路線を鹿沼や佐野、真岡、境古河まで立ち寄らせていますが、それでも前回の12本が、今回は6本にまで減少しています。

茨城・栃木県から成田空港へのバス本数

群馬県から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

インバウンドで人気の富士山を抱える山梨県への路線も低調で、前回8本が今回は3本になっています。甲府が2本、富士山・河口湖が1本のみです。

山梨県から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

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千葉では運行規模を維持

地元の千葉県では、全体で58本が40本になりました。減少であることに違いありませんが、他県に比較すれば、比較的運行規模は維持されています。

TDR発着が17本から15本に、千葉市発着が27本から22本になっているほか、新浦安発着が激減したり、木更津発着が運休したりしていますが、最近のバスの状況をみれば健闘しているほうでしょう。

千葉県内から成田空港へのバス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

 

選択と集中進む

成田空港アクセスに関わるバス路線全体をみると、中長距離路線の縮小が激しいほか、拠点ターミナルに発着する路線への集約が進み、路線バリエーションが乏しくなっています。

いっぽう、東京23区東部より東の路線では比較的運行規模が維持されています。バス会社による「選択と集中」が進んでいると言えます。

空港直行バスの減少の理由は、新型コロナ禍でバスの大幅減便があり、その後も運転士不足により回復できていない、ということでしょう。円安により日本人の海外旅行客が減ってしまい、日本人の割合が高い郊外路線の需要低迷に繋がっていることも背景にありそうです。

絶対的な運転士不足を背景に、郊外路線の不振が、ターミナル路線への「選択と集中」をもたらしているというわけです。

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成田エクスプレスも路線集約

成田空港直行バス減少の受け皿となっているのが鉄道です。その運行規模はどうなっているのでしょうか。

まず、JRですが、成田空港発着の列車本数はこの10年間、ほとんど変化がありません。2024年度の発着本数は、成田エクスプレスが27本、普通列車が54本で、2018年度と同じです。したがって、JRの成田空港アクセス輸送は、運行規模を維持しているといえます。

ただし、成田エクスプレスの発着地は、新宿と大船に集約され、池袋、大宮、高尾方面からの列車はなくなりました。空港側で減便されていないものの、都心側では路線の取捨選択が進んでいることになります。

JR成田空港アクセス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

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京成はスカイライナーを強化

京成については、2018年の運行本数が115本、2024年が119本と微増です。内訳として、スカイライナーが29本から41本へと大幅に増えていて、空港輸送を強化していることがうかがえます。

いっぽう、イブニングライナーが6本から3本に減少し、モーニングライナーは2本が0本となりました(2025年現在は1本が復活)。

アクセス特急は27本が25本に微減。大きく減っているのは京成本線の特急系統で、快速特急と特急、通勤特急をあわせて41本が21本になっています。

かわりに、快速・普通が10本から29本に増えています。本線系統全体としては、51本が50本となっていて、ほぼ横ばいといえます。

京成成田空港アクセス本数
画像:2024年度 成田国際空港アクセス交通等実態調査報告書(参考資料編)

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バスから鉄道へ

空港バスの減便は、バス利用者の減少に繋がっています。調査によれば、空港出発旅客のバス利用者は、前回に比べ11%減少しました。かわりに、鉄道利用者は10%も増えています。

空港直行バスが減少の受け皿が、鉄道であることが明確になっているわけです。ただ、鉄道で顕著な増便をおこなったのは京成スカイライナーくらいで、全体としての輸送力が大幅に増えているとはいえません。

成田空港アクセス
画像:2024年度アクセス交通等実態調査の結果について(概要)[

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「白タク」も増えている?

間隙を縫っているのが、自家用車です。調査によると、自家用車によるアクセスは、前回の13%が今回は17%となっていて、4%増です。といっても、いわゆる「マイカー」が増えているのではなく、「タクシー・ハイヤー」が増えています。

とくに、外国人旅客の統計を見ると、タクシー・ハイヤー利用は、4%から10%に激増しています。外国人出発旅客の1割がタクシー・ハイヤーを利用しているわけです。成田エクスプレスが16%なので、その6割に相当します。

成田空港アクセス
画像:2024年度アクセス交通等実態調査の結果について(概要)[

 

さすがに10%もタクシーを使うのは多すぎではないかと、英語の質問票を見てみると、「タクシー・ハイヤー」は「Taxi,limousine,etc.」と訳されています。中国語では「出租车・包租车等」となっています。

この質問票を見る限り、「タクシー・ハイヤー」というものの、実際には運転手付きレンタカー、いわゆる白タク類が多く含まれているとみられます。つまり、「空港バスから白タクへ」の流れもあるのでしょう。

前述の通り、成田空港直行バスでは、都心側の発着地のバリエーションが乏しくなっています。東京駅と新宿駅への路線集約が進み、赤坂や六本木、恵比寿などのエリアにはアクセスしづらくなってきました。

要は、ターミナル駅周辺以外のエリアから空港へアクセスしづらくなっていて、これも、「白タク」の横行と無縁ではないかもしれません。

鉄道増強に期待

なんであれ、運転士不足の解決にメドが立たない以上、空港バスの減便と路線集約の波は止まらないでしょう。成田空港は拡張を予定しており、今後も利用者増が見込まれています。空港旅客をスムーズに都内に運ぶには、鉄道の増強を図るほかなさそうです。

国交省の「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」では、鉄道アクセス強化を提言しており、成田空港駅の移転・拡張や、成田空港付近の複線化も視野に入ってきました。

いくら空港を整備してもアクセスが不十分では機能しないので、早めの整備を期待したいところです。(鎌倉淳)

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