障がい者の無人駅利用をどう円滑にするか。国交省での議論を読み解く

誰でも自由に利用できるように

障がい者の無人駅利用を円滑にするための議論が、国交省で行われています。鉄道会社での省力化が進むなかで、誰でも自由に鉄道を利用できるようにするにはどうしたらいいのでしょうか。

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ガイドライン作成に向け

国交省で行われているのは、「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会」。鉄道事業者と障がい者団体が、鉄道の無人駅利用に関して意見交換をするものです。2020年11月に第1回の会合が開かれ、2021年3月までに3回が開かれています。

この意見交換会は、その名の通り、鉄道駅の無人化が行われた場合に、障がい者が安全、円滑に鉄道を利用するための方策を話し合うためのものです。

背景として、2020年5月に成立した改正バリアフリー法の附帯決議があります。この附帯決議では、駅の無人化に際し鉄道事業者が取り組むべき事項をガイドラインとして定めることを求めています。

さらに、2020年9月に、駅無人化をめぐり、障がい者がJR九州を提訴するという事態も起きたことから、国交省がガイドライン化に向けて、鉄道事業者と障がい者団体から意見を聞いているわけです。

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事前連絡

意見交換の内容は多岐にわたりますが、ここまでの議論で、とくに障がい者側からの改善点として強かったのが、駅利用に関する事前連絡、乗務員による介助、障がい者への情報提供、の3点です。

なかでも、もっとも大きな問題といえそうなのが、駅利用に関する事前連絡についてです。車椅子のように、介助を必要とする障がい者が駅を利用する場合、鉄道各社は事前連絡の協力を求めています。その連絡期限を国交省が各社に尋ねたところ、各社とも「期限は設けていない」と回答しました。事前連絡がなくても対応すると答えたわけです。

一方で「スムーズに利用してもらうために、事前連絡への協力をお願いしている」としたうえで、事前連絡がない場合に、「要員手配やバリアフリー設備の状況により、お待たせしたり、乗車列車や乗降駅の変更をお願いする場合がある」としています。

この回答に関して、障がい者側は違和感を覚えたようで、車椅子利用者にアンケートを実施。以下のような声が寄せられました。

・「遅くとも1週間前に連絡をもらわないと困る」と言われた。
・利用日の3日前までに担当者に連絡を入れてから、利用予約をすることと毎回言われている。
・それまでは電話で予約ができていた。5~6年前から予約の電話をすると、電話に出てくれなくなった。駅員はいるはずの時間帯にもかかわらず出ない。仕方がないので、FAX で予約をするか、または直接駅の窓口に行き、予約をするようになった。
・◯◯駅から⚫⚫駅までを利用しようと言うと、「⚫⚫駅は無人駅だから利用できませんよ」と言われ追い返された。
・「無人駅でホームが反対側だから無理。家族に迎えに来てもらえ」と言われた。

このほか、参加者から次のような経験談もありました。

「新宿から中央線で小淵沢に行き、小海線に乗り換えるというケースの場合、降りる予定の清里駅への到着時刻が無人になっている時間帯だったので、(あずさ号の)チケットの予約の時点で、座席はとれるが、無人なので対応できないため発券できないということで3時間待った」

結局、鉄道各社は事前連絡がなくても対応する、無人駅でも利用制限はしていないという原則を掲げているものの、現実においては、事前連絡を強く求めています。その期限は駅や担当者により異なり、統一されていません。そして、連絡をしたがために、人繰りが付かないという理由で乗車を断られるという事態も起きているようです。

こうした建前と現実の乖離が、障がい者側の大きな不満点になっていることがうかがえました。

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乗務員による介助

次に議論となったのが、乗務員による介助です。無人駅であっても、駅施設のバリアフリー化が実現している場合、車椅子利用者は列車乗降時にスロープと介助さえあれば利用できます。

障がい者側からは、「駅員がいない路線・駅でも、ホームの段差と隙間がなければ車椅子は一人で乗り降りできるので、それが一番いいと思う。ただそれが、現実的に費用がたくさんかかるというのであれば、現実的な解決方法として乗務員がスロープを扱うのが一番効率的ではないか」との意見が出ています。

バリアフリー化が完了している無人駅の場合、乗降時に駅係員でなく、乗務員が介助をすることを現実策として提案しているわけです。しかし、運転手や車掌といった乗務員による介助について、ほとんどの鉄道事業者は認めていません。

その理由について、南海電鉄は「乗務員は担当する列車の安全運行と定時運転の確保を担っており、乗務員室を離れることで、勾配のある駅などでは列車が不意に動いてしまったりする可能性がある。また、不審者など第三者の乗務員室への侵入など保安上の問題もある。介助に要する時間が列車の定時運行に与える影響もある」といった事情を説明しています。

JR西日本は、「車種により車両の転動のリスクや運転台などのセキュリティの確保という問題がある」と保安上の問題点を挙げた上で、乗務員の介助による遅延が生じた場合、「接続列車と不接続になってしまうケース、他駅で着発ののりばが変更になるケース、後続の列車にも影響があるケースも想定される」と、ダイヤ乱れへの懸念を説明しました。

乗務員が介助を実施している鉄道会社もあります。京福電鉄や水間鉄道、伊予鉄道などでは車内にスロープを常備して、必要に応じて乗務員が障がい者の乗降の介助をおこなっています。京都市営地下鉄の烏丸線は車両とホームの両方にスロープが置いてあり、もし駅員への連絡がうまくいかなかった場合は、乗務員がスロープで介助しているそうです。

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駅構造の問題

車椅子利用者の乗降に関しては、駅構造の問題もあります。乗降について介助ができたとしても、エレベーターがなかったり、反対側のホームに行くまでのルートが確保されていなかったり、通常の改札口が通れなかったりというような、さまざまな駅の構造上の問題で介助が必要になるケースがあります。

こうした無人駅のバリアフリー状況に関しては、JR東日本が「改札口からホームまで円滑に、スムーズに移動できる駅は、無人駅のうち4割程度と認識している」と回答しました。

JR西日本は、「段差解消については、1日の乗降が3,000人以上の駅を中心に対応をしてきた。無人駅においては、未整備の駅が相当あるとの認識」と説明したうえで、「限られた経営資源をどのように配分していくのか、ジレンマを抱えながら対応しているところ」と悩みを明かしています。

国土交通省では、1日3,000人以上の利用者のある駅について、バリアフリー化を実施するよう求めてきました。この達成率(段差解消率)は約92%に達していて、利用者の多い駅ではエレベーターやスロープなどが整備されています。しかし、無人駅は利用者が基準数に満たないことが多いため、未整備の駅が多数残されています。

ちなみに、国土交通省の資料によると、2019年度末における無人駅の数は4,564駅。総駅数に占める無人駅の割合は48.2%です。このうち3,000人以上の利用者があるのは25%で、残り75%の無人駅は3,000人未満の利用者数です。利用者3,000人未満の駅の段差解消率は22.2%(2018年度末)にすぎません。

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情報提供

情報提供についても、障がい者から改善の要望が多く寄せられた点です。

たとえば、無人駅ではインターホンで係員と連絡が取れるようになっていますが、聴覚障がい者の場合、音声によるコミュニケーションがとれません。自動券売機でトラブルが生じたときも、スタッフに連絡する方法が音声だけでは、役に立たないわけです。

さらに、緊急時や輸送障害が起きた場合、説明は音声によるアナウンスのみということが多く、無人駅では字幕表示による案内がおこなわれないことが多いようです。そのため、聴覚障害者にだけ情報が伝わらず、たとえば代行タクシーから取り残されてしまうことも実際にあったそうです。

車椅子の場合は、インターホンにそもそも手が届かないこともありますし、視覚障がいの場合、どこにあるかわからないこともあるそうです。

無人駅であっても、係員が巡回している場合もありますが、その駐在時間がわからないという声もありました。また、先ほど少し触れましたが、利用前の事前連絡について、駅に電話をしてもつながらないので、連絡自体ができない、ということも起きているようです。

こうした事例は、障がい者が、係員の巡回時刻に合わせたり、事前連絡をしたりなど、鉄道会社の事情に配慮して列車を利用しようとしているものの、情報面でバリアがあって利用できない状況が生じていることを示しています。

また、ウェブサイトでの情報提供については「駅の出入口やホーム、乗車口の状況がわかる写真があると、介助なしでも乗降できるかどうか等が判断できる」という声もありました。鉄道各社のウェブサイトでは駅の構内図でエレベーターの有無などがわかりますが、単独で乗降可能か判断をするためには、もう少し情報が必要なことがあるようです。

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コールセンター

事前連絡の方法については、障がい者側は、直接駅に連絡する方法を望む人が多いようです。おそらくは、そのほうが話が早いのでしょう。しかし、駅ではなく、コールセンターへの連絡を求める鉄道会社もあります。

JR東日本は「電話をしても駅の社員がなかなか出ないということが過去にあったことから、コールセンターを活用し、そこから必ず駅に連絡をするというルートを構築した」と説明しました。ただ、JR東日本は障がい者向けの専用コールセンターはなく、一般のお問い合わせセンターの電話で受けているようです。

JR西日本は、「過去、駅の状況によって速やかに電話による案内ができないため、かえって待たせる事象があった。このため、すぐに電話のつながるところとして、お身体の不自由な方々への専用ダイヤルを設け対応している。専用ダイヤルのスタッフは当社の進めているバリアフリー設備等の基本的な諸元も把握しており、発駅から着駅までできる限りスムーズに移動できるようにコールセンターを中心にコミュニケーションを取っている」と説明しました。

利用者の立場からすると、コールセンターというのはじれったいものですが、こうした仕組みによって、多くの障がい者の要請に対応する体制を整えているわけです。意見交換会では、ともすれば問題点ばかりが浮き彫りになりがちですが、実際はうまくいっていることも多いと思われます。

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対策は進んでいるが

言うまでもありませんが、鉄道事業者も、障がい者が利用しやすいようにさまざまな配慮をしています。駅のバリアフリー化はこの数十年で格段に進みましたし、ホームドアも利用者の多い駅を中心に設置が進み、安全性が高まりました。点字ブロックは広く敷かれていますし、インターホンも増えています。少なくとも都会の有人駅においては、障がい者が鉄道を利用しやすい環境が整えられつつあると見受けられます。

意見交換会の資料によると、たとえば東武鉄道は無人駅で係員の滞在時間を掲示していますし、阪急電鉄は聴覚障がい者が使いやすい呼び出しインターホンを設けています。近鉄は大和西大寺駅で、白杖を持った方や車椅子を使用している方を、カメラを通じてAIが認識し駅務員へ通知するシステムの実証実験をしています。

JR東海は集中旅客サービスシステムを導入し、導入駅では遠隔できっぷを確認したり、モニター付きインターホンでオペレーターと会話したりできます。その他の会社も、障がい者の鉄道利用について、さまざまな施策を行っていることでしょう。

ただ、鉄道会社としても人員や予算に限りがあり、全ての要望に応え切れていないのが実態ともいえます。障がい者の介助をするのに十分な人員を配置していないため、現場が対応に苦慮している様子もうかがえます。現場の駅員さんも困っているのではないか、ということです。

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多くの課題

それにしても、この意見交換会の議事録を読むと、私たちの多くが何気なく利用している電車に乗るために、障がい者がたいへんな苦労をしていることが察せられます。

議題は「無人駅の利用の円滑化」ですが、それだけでない広い範囲で、障がい者の鉄道利用に関して課題があることがわかります。

近所の駅からいつもの電車に乗るのに、数日前に予約しなければならず、電話をかけてもなかなか通じなかったりしたら、面倒なことこのうえありません。

鉄道会社の人繰りの都合で乗車拒否されることがあるのならば、車いす利用者は電車通勤すらできません。親が危篤になったとき、電車に乗れないが故に間に合わなかった、ということもあり得るでしょう。障がい者にだけ、そうした状況を甘受せよという理屈に、合理性を見出すことはできません。

交通機関を使っていつでも自由に移動できるということは、誰にとっても大事なことです。

夏にもガイドライン

国交省は、意見交換会の議論を基に、2021年夏に、駅の無人化に関わるガイドラインをまとめる方針です。それを受け、2022年以降、鉄道各社で対応策が具体化していくでしょう。

今回の論点の一つとなった乗務員の介助については、意見交換会での議論を経て、すでに各社で検討が始まっているようです。たとえばJR北海道は、バリアフリー化が行われている無人駅において、車掌による介助の実施に向けた検討をするとしています。

ただ、議論にもあったように、保安上の問題や遅延の発生をどう解決するかといった課題も多く、運行密度の高い路線やワンマン運転の列車で乗務員介助を実施することは難しそうです。そもそも、バリアフリー化が完了していない駅では、乗務員の介助だけでは乗降できない障がい者が取り残されてしまいます。

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社会全体で負担を

4月1日の改正バリアフリー法施行にともない、生活関連施設に位置づけられた2,000人以上の利用者数の駅について、原則として全てバリアフリー化することが求められるようになりました。これまでの3,000人基準が、2,000人に引き下げられたわけです。

それでも、バリアフリー化されない、利用者数の少ない無人駅は残ります。そうした駅での障がい者の乗降には、人力による支援が必要であり続けます。

一方で、地方の鉄道会社の経営状況は厳しく、効率化は不可欠です。無人駅の増加は今後避けられませんし、ワンマン運転も増えるでしょう。現場の人手は減るばかりで、介助要員を確保するのは簡単ではなさそうです。

鉄道会社だけで人員を確保できないのであれば、政府や自治体の関与が必要になるでしょう。たとえば自治体と鉄道会社が協力して、無人駅の近隣から人材を派遣する仕組みを整える必要があるかもしれません。

誰もが利用しやすい公共交通機関を維持していくことは、社会的に重要です。そう考えると、鉄道会社だけに責任を押しつけるのではなく、行政や利用者も含めた社会全体で費用負担をして、誰もが利用しやすい環境を整えていく必要があるのではないでしょうか。

公共交通機関の中核である鉄道は、全ての人が自由に利用できる存在であってほしいものです。(鎌倉淳)

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