「ローカル路線バスの旅Z 第15弾 高野口→潮岬」の正解ルートを考える。成否を分けたショートカット

もっと歩いてもいいくらいだ

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速玉大社前ショートカット

4日目、一行は熊野市駅を6時58分に早発し、ラストスパートを狙います。新宮駅には7時50分頃に到着。しかし、湯の峰温泉へ向かうバスは7時46分に出たばかりでした。時刻表上は、新宮駅7時45分着なので、ギリギリ間に合ったはずですが、バスに遅延はつきものですから、仕方ありません。

ただ、新宮市内で、熊野市発のバスと湯の峰方面行きのバスは、経路が重なります。そのため、渋滞しやすい市街地区間をショートカットして、駅の手前で乗り継ぐこともできました。

その場合の乗り継ぎは、以下のようになります。

▽4日目
熊野市駅前06:58→07:41速玉大社前07:50→08:56湯の峰温泉→徒歩2.1km→渡瀬温泉09:30→10:30新宮駅11:30→12:18紀伊勝浦駅13:09→13:23下里出張所13:25→13:44瀬田→徒歩2.7km→上の宮14:25→14:57串本駅16:40→16:57潮岬観光タワー

このように、速玉大社前でのショートカットに気づいていれば、一本早いバスで湯の峰温泉に到達できました。すると、その後の乗り継ぎが格段にラクになり、おそらくゴールできたでしょう。そう考えると、速玉大社乗り継ぎに気づかなかったのは、残念な点だったといえそうです。

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渡瀬温泉ショートカット

実際ルートに戻ります。一行は、新宮駅で聞き込みをし、湯の峰温泉到達後の串本へのアプローチとして、新宮に戻り勝浦から南下するルート(勝浦ルート)と、白浜を経由するルート(白浜ルート)を検討します。

その結果、自治体数が少ない「勝浦ルート」が堅実と考えました。その場合、湯の峰温泉到着後に新宮にとんぼ返りすることになります。しかし、湯の峰温泉に11時09分に到着したら、折り返しのバスはしばらくありません。

一方で、約5km離れた本宮大社前からは、11時50分と12時15分のバスがあります。12時15分のバスなら本宮大社前まで歩いても間に合いそうですが、一行はさらに早い11時50分を狙います。

そのための戦略として、本宮大社前まで歩くのではなく、川を挟んだ先にある渡瀬温泉へのショートカットに挑戦。本宮大社前11時50分のバスは、渡瀬温泉を11時43分に出発しますが、湯の峰温泉から渡瀬温泉までは約2.1km。急げば間に合うと計算しました。

一行は、吊り橋のショートカットを探し出し、豪雨のなか滝のような道を這い上がり、間一髪、目的のバスに乗ることができました。

白浜ルート

ショートカットが功を奏したわけですが、そもそも、湯の峰温泉から串本へ、もっといいアプローチはなかったのでしょうか。そのために、白浜ルートを検討してみましょう。

▽4日目
渡瀬温泉12:22→14:14とれとれ市場前14:31→14:36白浜駅14:50→15:24大橋→徒歩5.9km→周参見駅17:14→17:43里野海水浴場→徒歩1.7km→雨島18:00→18:38串本駅18:55→19:12潮岬

このように、渡瀬温泉を12時22分発のバスに乗れば、ゴール可能です。ここでもポイントはショートカットで、渡瀬温泉からのバスを白浜バスターミナルまで乗らずに、市街地の入口にあるとれとれ市場前で降りて、白浜駅方面へのバスに乗り継がなければなりません。新宮駅での議論で出ていた南紀白浜空港や、白浜バスターミナルまで行ってしまうと乗り継げません。

当然、白浜バスターミナルに着く前に、串本方面への乗り継ぎの概略をつかんでおく必要があります。そのためには、新宮駅の時点で「白浜ルート」の見通しを確認しておかなければなりません。とはいえ、白浜ルートの可能性を判断するには、すさみ町のコミュニティバスの情報が必要で、それを新宮駅で得るのは、実際には難しかったでしょう。

一行がこのルートを選択する可能性があったとすれば、渡瀬温泉で新宮行きのバスを乗り逃した場合に、「えいや」で白浜方面へのバスに賭ける、といった展開くらいでしょうか。とれとれ市場での乗り換えに気づき、串本まで到達できれば、奇跡のゴールとして盛り上がったことでしょう。

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上の宮のバスに間に合ったら

実際ルートに戻ります。一行は紀伊勝浦駅に13時37分に到着。そこからほとんどの区間を歩いて、約15km先の上の宮に18時07分に到着しました。しかし、串本方面のバスは17時50分に出発しており、万事休す。ここでギブアップとなりました。

仮にこのバスに乗れていたらどうなっていたでしょうか。

▽4日目
上の宮17:50→18:22串本駅18:55→19:12潮岬観光タワー

このように、上の宮17時50分発のバスに乗れていれば、その先潮岬までゴール可能でした。つまり、わずか17分差で敗退したことになり、一行は無念だったでしょう。

道の駅たいじでの乗り逃し

ここで気になるのは、途中、道の駅たいじでの乗り逃しです、田中がコミュニティバスを発見したものの、他の二人がトイレに行っていたこともあり、見逃しました。

このバスは、15時49分発のなぎ行きで、約700m先の太地駅まで乗せてくれます。わずか700mの徒歩区間を減らすだけなので、時間にして約8分程度の短縮でしょうか。上の宮での遅れは17分ですので、単純計算では間に合いません。間に合うためには、以下のような乗り継ぎが必要になります。

▽4日目
新宮駅13:00→13:37紀伊勝浦駅→徒歩5.8km→道の駅たいじ15:49→15:53太地駅→徒歩9.1km→上の宮17:50→18:22串本駅18:55→19:12潮岬観光タワー

道の駅たいじでコミュニティバスに乗り、太地駅と上の宮の9.1kmを約2時間で歩ききれば、奇跡のゴールを実現できていた、という計算です。とはいえ9kmを2時間で歩ききらなければならないので、厳しいことに変わりありません。

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瀬田からのバス

紀伊勝浦~上の宮間を全体で見れば、距離約15.3kmを約4時間10分で歩き切ればゴールできていたことになります。上の宮のバス発車時刻を知っていれば、それにあわせてペースを上げて歩くでしょうから、実現は不可能ではなかったかもしれません。とはいえ当日は悪天候もありましたし、それまでの疲労も重なり、困難だったのではないか、と推察します。

気づくこととして、一行が浦神から瀬田まで短距離乗車したバスです。実はこのバスは紀伊勝浦駅方面からやってきます。一行が紀伊勝浦駅の案内所で情報を得たものの、3時間後の出発なので待たなかったバスに乗り、途中の下里出張所で乗り換えれば、このバスに乗れます。

つまり、最初から紀伊勝浦で3時間待っていれば、この区間を全く歩かずに済んだわけです。以下のようになります。

▽4日目
新宮駅13:00→13:37紀伊勝浦駅16:49→17:03下里出張所17:05→17:24瀬田→徒歩2.7km→上の宮17:50→18:22串本駅18:55→19:12潮岬観光タワー

紀伊勝浦から歩かずに瀬田に至れば、体力に余裕があるので、最後の2.7kmを約25分で歩く難易度は下がるでしょう。瀬田までのバスが定時運行で、一行が上の宮の最終バスの時刻を知っていたら、急いで歩いてゴールできた可能性はあったでしょう。

つまるところ、紀伊勝浦駅の案内所で、もう少し丁寧に聞き込んで、上の宮発の串本行きバスの時刻も確認していれば、3時間待って2.7kmの競歩に賭ける、という判断もできたことになります。演出上、最後のバス時刻を尋ねなかったのかもしれませんが、大事な場面で万全な情報収集ができなかったようにも感じられ、もったいなかったです。

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新宮先着ルート

さて、ここで話を五條に戻します。五條では、新宮方面へ向かっていたら別の展開があり得た、と書きました。それについて検証してみます。

よく知られている通り、五條から新宮へは八木新宮特急という日本最長距離のバスが走っています。一行が五條から橿原まで乗ったバスも八木新宮特急の北行きでしたし、新宮から湯の峰に乗ったバスも、八木新宮特急です。

つまり、五條から八木新宮特急に乗れば、チェックポイントの一つである湯の峰温泉に容易に到達できてしまいます。ただ、番組ナレーションでは、「賢島、湯の峰を順に」チェックポイントを回る旨が示されていましたので、ルール上、先に湯の峰温泉を回ることはできません。それでも、以下のような乗り継ぎなら、その問題をクリアできます。

▽1日目
五條町12:55→13:02五條バスセンター13:04→16:58本宮大社前17:40→18:32新宮駅19:30→20:17熊野市駅前

▽2日目
熊野市駅前05:27→08:39栃原→徒歩2.0km→注連指口09:12→10:00伊勢市駅10:24→11:26鵜方駅前11:58→12:07賢島駅前12:21→12:30鵜方駅前12:46→12:58磯部バスセンター13:07→13:27五ヶ所13:32→14:08南島道方14:15→14:42神前17:35→18:14JR伊勢柏崎駅前→徒歩1.6km→柏崎19:57→22:13熊野市駅前

▽3日目
熊野市駅前06:58→07:45新宮駅09:59→11:09湯の峰温泉→徒歩2.1km→渡瀬温泉11:43→12:43新宮駅13:00→13:37紀伊勝浦駅16:49→17:03下里出張所17:05→17:24瀬田→徒歩2.7km→上の宮17:50→18:22串本駅18:55→19:12潮岬観光タワー

このように、最終日をうまく歩けば、3日間でゴールできてしまいます。

この「新宮先着ルート」は、八木新宮特急(大和八木~新宮)と、熊野古道ライン(松阪~熊野市)という、二つの有名なバス路線を組み合わせたものです。それだけに、路線バスファンなら「五條から新宮、熊野を経由すれば松阪まで行ける」と思いつくのは難しくありません。ですから、机上論と切り捨てられない乗り継ぎです。

ただ、そういうルートを思いつく人は、そもそも「ローカル路線バスの旅」の出演者として選ばれないわけです。さらにいえば、長大路線で乗り継ぎの妙味に乏しいですし、同一ルート往復で撮れ高にも影響しますので、バラエティ番組としても不適です。

ということで、「新宮先着ルート」は、「ローカル路線バスの旅」のルール上は問題ない乗り継ぎですが、テレビ番組としての「暗黙のルール」には抵触してしまいそうです。

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最適解は?

では、新宮先着ルートは除外するとして、正解あるいは最適解といえるルートはどれでしょうか。今回はチェックポイントが2ヵ所もあるので、大まかなコースは決まっていて、現実的に選びうる大きな選択肢と言えるのは「針か石打か」「注連指口か明和か」「勝浦か白浜か」の3つくらいしか見あたりません。

そのなかで、成否に大きな比重を占めたのが「針か石打か」で、これは「針ルート」が正解ではないかと思います。

「針ルート」では、恵美須町のショートカットを成功させれば3日目以降、ラクにゴールできます。恵美須町の乗り継ぎは難易度が高いので、これに失敗したとしても、パワープレイなしに3日目に熊野市まで到達でき、4日目に速玉大社前のショートカットを成功させれば無理なくゴールできます。

つまり、「針ルート」を採っていれば、2度あるショートカットのチャンスの1度を決めれば、無理なくゴールできたことになります。

今回のお題の特徴は、こうしたショートカットをうまく活用できるかがポイントだったともいえます。一行は橿原市内でも医大病院前でショートカットしていましたし、白浜ルートを採っていれば白浜にもショートカットポイントがありました。

そういう視点で今回のお題を振り返ると、ショートカットを活用したルートが最適解にふさわしい気がします。そこで、以下の乗り継ぎを挙げておきます。

▽1日目
高野口駅前09:05→09:45橋本駅前10:26→10:34門前→徒歩2.6km→上野→徒歩3.2km→五條町12:55→14:24大和八木駅→徒歩5.9km→桜井駅17:19→17:55天理駅

▽2日目
天理駅07:14→07:47針インター07:48→08:06国道山添08:30→08:58上野市駅10:20→11:10汁付→徒歩5.0km→平木14:00→14:54三重会館前15:48→16:22天白→徒歩0.2km→三雲地域振興局17:33→18:02 JR松阪駅

▽3日目
松阪駅07:42→08:27栃原→徒歩2.0km→注連指口09:12→10:00伊勢市駅前10:24→11:26鵜方駅前11:58→12:07賢島駅前12:21→12:30鵜方駅前12:46→12:58磯部バスセンター13:07→13:27五ヶ所13:32→14:08南島道方14:15→14:42神前17:35→18:14 JR伊勢柏崎駅前→徒歩1.6km→柏崎19:57→22:13熊野市駅前

▽4日目
熊野市駅前06:58→07:41速玉大社前07:50→08:56湯の峰温泉→徒歩2.1km→渡瀬温泉09:30→10:30新宮駅11:30→12:18紀伊勝浦駅13:09→13:23下里出張所13:25→13:44瀬田→徒歩2.7km→上の宮14:25→14:57串本駅16:40→16:57潮岬観光タワー

1日目に大和八木駅までバスに乗り、同駅の案内所で情報収集のうえ、桜井駅まで歩き、天理泊と仮定しました。

「ローカル路線バスの旅」の乗り継ぎを現実に即して考える場合、情報収集の時間と、宿泊施設の有無を考慮しなければなりません。そのため、1日目に奈良盆地を出て、笠置山地や高見山地に分け入ることは難しかったと思います。

そのため、針ルートが最も現実的な最適解に感じられます。その場合、2日目の上野市街地の恵美須町乗り継ぎは難題ですが、速玉大社前のショートカットは不可能ではなかったと思います。

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難易度は?

制作陣が想定していたのは、どういうルートであれ、1日目に天理か奈良市内で宿泊し、2日目に津か松阪、3日目に熊野市に宿泊するという形でしょう。

その場合、ポイントはやはり最終日に速玉大社前でのショートカットに気づくか、という点になります。速玉大社前乗り継ぎを成功させれば、ゴールは一気に近づきます。それができなかった場合、実際ルートのように、最後、紀伊勝浦から新宮までが勝負になります。

その勝負も、紀伊勝浦駅で3時間バスを待ち、体力を温存すれば、瀬田~上の宮を小走りで串本行きに乗り継ぐことができたかもしれません。全く勝ち目のない勝負ではありませんでした。

そう考えると、今回のお題は、成功するチャンスが随所に散りばめられていました。しかし、どれも気づきにくいチャンスでしたし、バスが定時運行でなければ実現不能でしたので、お題としては難しかったと思われます。ただ、第11弾(南九州一周)ほどの無理難題ではありません。難易度で評価すると、やや難、といったあたりでしょうか。

3時間を飽きさせず

実際ルートの総徒歩距離を手計算してみると、約45kmにも及びました。マドンナの鈴木杏樹はつらかったと思いますが、ときおり関西弁と英語を交えながら好演しました。30代の羽田の「とにかく歩く」姿勢は、50代の田中と鈴木には負担になったと察しますが、軋轢を生みながらも、3人の会話は明るく、チーム全体の雰囲気は悪くなかったように見受けられます。

適度な聞き込みに、脚力を活かしたパワープレイを織り交ぜ、田中・羽田コンビとして円熟期を迎えたような雰囲気も感じられました。失敗は残念ですが、3時間18分の長尺を飽きさせない佳作に仕上がっていたと思います。

なお、オリジナルシリーズからナレーションを担当していたキートン山田が、今回を以て引退となりました。味のあるナレーションが聞けなくなるのは、ちょっと残念です。長いあいだ楽しませていただき、ありがとうございました。(鎌倉淳)

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