「太川蛭子のバス旅2019 第1弾 山形・余目駅~岩手・宮古」の正解を考える。ルート選択の余地に乏しく

ローカル路線バス乗り継ぎの旅が復活

テレビ東京系列で「太川蛭子のバス旅2019」が放送されました。これは、ルイルイこと太川陽介と、蛭子能収がローカル路線バスを乗り継ぐテレビ番組です。毎週木曜夜のレギュラー番組「太川蛭子の旅バラ」の企画の1つです。

「バス旅2019」第1弾の目標は、山形県余目駅から岩手県宮古市の田老駅まで、路線バスを乗り継いで1泊2日で到達するというもの。この正解ルートを検証してみましょう。

なお、以下はネタバレ100%です。あらかじめご了承ください。(文中敬称略)

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1泊2日、タクシーあり

「太川蛭子のバス旅2019」は、かつての「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」の企画を復活させた番組です。オリジナル「バス旅」は、ルートの枯渇などを理由として2017年に第25弾で終了しましたが、ルールを変更して約2年半ぶりに「バス旅2019」として再開しました。

オリジナル「バス旅」も「バス旅2019」も、ローカル路線バスだけを乗り継いで旅をする、という基本コンセプトは同じです。目的地へ向かうルートは出演者が決め、インターネットでの情報収集は禁止。撮影交渉も出演者が行います。

一方、「バス旅2019」になって変更されたルールもあります。変更点は大きく分けて2つ。オリジナルの3泊4日が1泊2日に短縮されたことと、路線バスのつながっていない区間に限り、1万円までタクシーが利用可能になったことです。

東京23区のタクシーの距離料金は、237mごとに80円です。1円で2.965mを進めますので、単純計算で1万円ならタクシーに29km乗れることになります。これとは別に初乗りと時間料金がかかりますし、料金には地域差もありますが、おおざっぱにいって1万円でタクシーに乗れるのは、29km程度が限界と考えておけばいいでしょう。

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マドンナは交代制

前置きが長くなりましたが、「バス旅2019」第1弾のお題は、山形県の余目駅から、秋田県の角館を経て、岩手県の田老駅に1泊2日で到達するというもの。田老駅の到着時刻のリミットは18時と決められていました。

マドンナは交代制で、チェックポイントの角館までがかたせ梨乃、角館からがしょこたんこと中川翔子です。

まずは、一行が旅したルートをおさらいしてみましょう。時刻表上の定刻を示しています。

実際に旅したルート

▽1日目
余目駅前07:00→07:50酒田庄交バスターミナル11:50→13:23本荘営業所14:30→16:17横手バスターミナル16:50→17:19六郷高校入口17:30→18:24角館駅前

▽2日目
角館駅前07:31→08:13田沢湖駅前→タクシー約27.7km(9,410円)→雫石中学校前09:03→09:37盛岡駅前11:40→13:55宮古駅前17:10→17:48田老駅前

ということで、無事ゴール。タクシー代を1万円以内にきれいに収め、徒歩区間はゼロ、持ち時間もほぼ全て使い切って18時直前に目的地着という、非の打ち所のないまとめ方をしました。

ですので、今回はルイルイ一行は大正解! ということでよろしいと思いますが、それだけでは芸がないので、少しだけルート検証をしてみましょう。

太川蛭子のバス旅2019
画像:テレビ東京

「太川蛭子の旅バラ」 東北横断!ローカル路線バス乗り継ぎの旅 山形県・余目~岩手県・宮古
【出演】太川陽介、蛭子能収
【ゲスト】かたせ梨乃、中川翔子
【ナレーター】バカボン鬼塚

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余目へ戻っていたら

まずは、スタート。余目駅から酒田へのバスに乗ります。オリジナルシリーズ第25弾では、このバスに乗れずにギブアップしましたので、今回はその続き、という設定でしょう。第25弾のゴールだった由利本荘に向かうのも、「お約束」だったと思われます。

ただ、一行は、酒田の庄交バスターミナルで11時50分発の本荘行きまで4時間待ちとなり、案内所の係員から余目に戻るルートを提案されました。ここで余目に折り返したらどうなっていたでしょうか。

▽1日目
酒田庄交バスターミナル08:13→09:02余目駅前09:17→10:05成沢医院前→徒歩3.5km→草薙温泉12:05→12:22船番所前→徒歩8.5km→本合海局前14:36→14:55新庄駅前15:10→15:41金山町役場前

となり、1日目に角館どころか、秋田県にも入れません。大事なタクシー代も、秋田県に入るまでに使ってしまいそうです。

「バス旅Z」なら、健脚自慢の面白いルートですが、「バス旅2019」には向かないルートでしょう。

六郷高校で降りなかったら

実際ルートに戻ります。一行は由利本荘から横手に行き、大曲行きのバスに乗り、六郷高校入口で降ります。六郷高校入口での下車は、ルイルイの第15弾の記憶に基づいた決断でした。仮に六郷高校入口で降りずに、終点までバスに乗っていたらどうなっていたでしょうか。

▽1日目
横手バスターミナル16:50→17:43大曲バスターミナル

▽2日目
大曲バスターミナル07:00→07:38角館駅前08:15→08:58田沢湖駅前→タクシー約27.7km(9,410円)→雫石中学校前09:58→10:56盛岡駅前

大曲から角館への最終バスの発車時刻は17時30分です。そのため、上述のように1日目は大曲泊となってしまいますが、最終的には盛岡で実際ルートに追いつけます。

仮に大曲で宿泊となった場合、マドンナ交代がどうなったかは、気になります。かたせ梨乃が当日帰京するならば、しょこたんに大曲まで来てもらったのでしょうか。 

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玉川温泉に向かっていたら

2日目、一行はバスで田沢湖駅に到着し、そこからタクシーで雫石に向かいます。田沢湖駅から雫石駅までは約28km。1万円制限のタクシー利用には絶妙な距離ですが、もちろん、そんな正確な数字を知った上での決断ではなかったでしょう。

田沢湖駅で、一行は玉川温泉や八幡平を経由するルートも見つけました。仮に、玉川温泉方面に向かっていたら、どうなっていたでしょうか。

▽2日目(平日ダイヤ)
角館駅前07:31→08:13田沢湖駅前09:30→10:50玉川温泉

玉川温泉であっさり行き詰まります。土休日なら、田沢湖駅前09時30分発のバスは、八幡平頂上まで行くのですが、ロケは平日のようでしたので、玉川温泉止まりです。

八幡平頂上から盛岡へのバスは、2019年は4月15日以降なら運転しています。つまり、仮に、ロケ日が4月15日以降の土休日だったら、以下のような乗り継ぎが可能になります。

▽2日目(土休日ダイヤ・4月15日~)
角館駅前07:31→08:13田沢湖駅前09:30→11:44八幡平頂上12:50→13:30松尾鉱山資料館13:40→14:58盛岡駅前15:45→18:00宮古駅前

接続は悪くありませんが、遠回りなだけに時間がかかり、宮古駅前で時間切れとなります。

要するに、玉川温泉方面に向かってしまったらゴールは不可能ということで、一行が田沢湖駅からタクシーで雫石に出たのが正解です。

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早く着くことはできた

さて、一行は09時37分に盛岡駅前に到着し、冷麺を食べてから11時40分の宮古行き急行バスに乗車します。時間的には10時40分発にも間に合ったはずですが、宮古の到着時間も読めていたはずで、余裕があったのでしょう。

宮古駅前には13時55分に到着。ここで3時間以上待って、17時10分発のバスに乗り、田老駅前に18時ギリギリに到着しました。

じつは、宮古駅前を14時30分に出る小本行きバスがあり、これも田老駅前を通ります。

宮古駅前14:30→14:57田老駅前

このバスに乗っていれば、15時前に田老駅前に着くことができ、さらに余裕のゴールとなったことでしょう。でも、それだと番組終盤の盛り上がりに欠けますね。

逆算すると

ここで、ゴール要件から逆算してみます。田老駅前に18時に着くための、最終乗り継ぎを見てみましょう。

▽1日目
余目駅前07:00→07:50酒田庄交バスターミナル11:50→13:23本庄営業所17:35→19:22横手バスターミナル

▽2日目
横手バスターミナル07:40→08:09六郷高校入口08:15→09:10角館駅前09:46→10:28田沢湖駅前→タクシー約27.7km→雫石中学校前12:58→13:56盛岡駅前14:45→17:00宮古駅前17:10→17:48田老駅前

逆算したところ、酒田庄交バスターミナルを11時50分のバスに乗るのは必須条件で、1日目は最低でも横手に着いている必要があります。

2日目は角館駅前を09時46分に出なければなりませんので、ゴールに向けて時間的余裕はあまりありません。余裕が生まれるのは、宮古行きバスが頻発する盛岡に到着してからです。

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完璧な正解ルート

全体を見直してみると、1泊2日という短い日程でチェックポイント制を敷いているためか、選択できるルートが限られます。一行がたどった実際ルート以外に、現実的に選択しうるルートは見当たらないと言っていいでしょう。

間違えそうなポイントがあったとすれば、六郷高校入口くらいですが、仮に大曲まで行ってしまっても、翌日にリカバーできます。

新シリーズでカギとなるタクシーに乗るべきポイントは田沢湖駅以外にありませんでした。そして、田沢湖~雫石はちょうど1万円で収まる距離でした。

ということで、一行は、完璧な正解ルートをたどったと表現できます。

ただ、ルート選択の余地に乏しく、正解以外をたどりようがなかったとも感じられます。ですから、お題としては平易だったでしょう。

一行が判断に苦しんだのはルートではなく、後に備えてタクシー代を残すかどうかでした。今回のハイライトは、この場面だったでしょう。その点では、ルイルイの好決断が光りました。

角館チェックポイントがなければ

仮に、角館のチェックポイントがなければ、以下のようなルートも考えられます。

▽1日目
横手バスターミナル17:16→17:43南郷温泉前→タクシー15.5km→ほっとゆだ駅

▽2日目
ほっとゆだ駅06:25→08:40盛岡駅前

このルートでは、ほっとゆだ駅から盛岡へのバスが1日1便だけなので、06時25分発のバスを乗り逃せません。

南郷温泉に泊まってしまった場合は、以下のようになります。

▽1日目
横手バスターミナル17:16→17:43南郷温泉前

▽2日目
南郷温泉前→タクシー15.9km→ほっとゆだ駅08:05→09:15北上駅前09:30→10:42石鳥谷駅口→タクシー約7.4km→日詰駅11:59→13:05盛岡駅前13:45→16:00宮古駅前17:10→17:48田老駅前

タクシー1万円分があれば、このようにほっとゆだ経由でも徒歩なしで乗り継げそうです。ですので、角館にチェックポイントを設けないほうがバリエーションが増えて面白くなった気もします。あえて角館チェックポイントを設けたのは、マドンナ交代の事情から、ルートをある程度固定しておく必要があったのかもしれません。

ほっとゆだ経由は、角館経由に較べれば、ルートの難易度が高い印象です。逆にいえば、角館というチェックポイントのおかげで、一行は平易なルートに誘導されたともいえます。

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「Z」との棲み分け

1泊2日の旅程を2時間枠に入れたので、番組構成はゆったりしていました。グルメや名所の立ち寄り場面が長く、オリジナル「路線バスの旅」に較べれば「旅番組」ぽくなっていました。

ルート選択の余地が小さいこともあり、「ガチンコ感」も減った印象です。こうした点で、「Z」との棲み分けも明確になっていたと思います。

「路線バス乗り継ぎの旅」のおもしろさを引き出すなら、途中のチェックポイントはないほうがよさそうです。ただ、選択を間違えてタクシー代を使い切ったあげくに、71歳の蛭子さんを延々と歩かせるわけにもいかないでしょうから、按配が難しそう。

「バス旅2019」第2弾は高尾山~諏訪湖で、6月6日放送が予告されています。新たな「バス旅」が、どういう形で根付いていくのか、楽しみにしたいところです。(鎌倉淳)

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