阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線の直通構想に小さな動きがありました。神戸市の久元喜造市長が、神戸市議会で前向きな答弁をしたのです。
この直通構想は、阪急神戸線の三宮駅近くを地下化し、西神・山手線と結ぶものです。構想自体は以前からあり、近畿地方交通審議会の2004年の答申にも掲載されています。ただ、熱心なのは阪急電鉄ばかりで、神戸市は消極的。そこへ市長が、「相互直通運転による地下鉄沿線への影響、技術的な課題の検証も含めてメリット、デメリットを研究したい」と答弁したので、ニュースになったのです。では、この「メリット、デメリット」とは、どんなことがあるのでしょうか。
王子公園~阪急三宮を地下化
直通構想の大枠は、現在高架線となっている阪急神戸線の王子公園~阪急三宮間を地下化し、阪急三宮から神戸市営地下鉄山手線への連絡線を作って乗り入れる、というものです。
阪急神戸線は8両編成(一部10両編成)、神戸市営地下鉄は6両編成ですが、神戸市営地下鉄の各駅は将来の8両化を見越した構造となっていますので、その供用工事も同時に行うことになります。阪急の特急電車が梅田から西神中央まで直通し、神戸高速鉄道への乗り入れは廃止される想定です。
とはいえ、この直通構想の実現がそう簡単な話でないことも、よく知られた話です。
三宮駅をどうするのか
まず三宮駅をどうするのか。現在、地下鉄三宮駅は上下2層式で、折り返し設備を作ることもできないので、この駅を拡張して阪急と共用するのは困難です。従って、現阪急三宮駅付近に地下新駅を建設し、県庁前駅への連絡線を作って地下鉄に乗り入れさせるのが現実的となります。県庁前駅付近も上下2層式構造ですが、これは連絡線建設には好都合です。ただし、連絡線は市街地のビルの地下を通さざるを得ないため、巨費がかかるのは間違いありません。
新神戸へのアクセスは?
次に、新神戸・谷上へのアクセスをどうするのか。西神・山手線列車を阪急神戸線に乗り入れさせた場合、新神戸・谷上方面への乗り入れは本数減にならざるを得ません。現在の地下鉄三宮駅は2層式のため折り返すことができませんから、谷上・新神戸~三宮間の区間運転列車を設定することもできません。日中のダイヤを想定すると、西神・山手線は毎時8本から12本に増加するものの、三宮~新神戸間は毎時6本に減少するでしょう。
また、三宮から西神方面へ乗車する場合は、乗車駅が現駅と阪急新駅に分かれることになります。それぞれの駅には毎時6本しか列車が来なくなるので、三宮から西神に向かう場合も事実上の本数減になる可能性があります。
待避線建設にも巨費
さらに、地下鉄線内の待避も問題になります。現在の西神・山手線には名谷駅にしか待避線がなく、そのために、10分間隔の直通特急を地下鉄線内で優等運転させることは困難です。上沢駅に待避線を建設すれば解決しますが、それにも巨費がかかります。優等運転をしなければいいのですが、それでは直通の意味が薄れてしまいます。梅田までの時間短縮で西神エリアの価値向上を実現することが、直通運転構想の神戸市側の大きなメリットだからです。
阪急にとって虫のいい話
待避を実現して優等運転すれば、名谷以西は大幅な時間短縮が見込めます。ただし、現状で毎時8本ある有効本数は6本へと減少します。さらに優等通過駅利用者は、列車が毎時6本となるうえに待避が生じますので、2重のデメリットとなるかもしれません。一方の阪急側には、直通実現による目立ったデメリットはなく、利便性の向上と乗客増のメリットを享受できます。
メリットの多い阪急側がほとんどの費用負担をするのなら、話は進みやすいかもしれません。しかし、どうもそうではない点も課題です。むしろ、阪急としては三宮駅地下化にともなう費用をできるだけ公的資金で負担してもらいたい、という目論見すら透けて見えます。つまり阪急にとって虫のいい話で、それが神戸市側の消極性につながっているともいえるのです。
ということで、阪急を地下化すればそれで済む、という簡単な話ではありません。上述したことは、筆者が指摘するまでもなく、ちょっと事情に詳しい人には常識的な内容でしょう。お金が無尽蔵にあるのなら解決できることも多いのですが、巨費をかけてまで建設することなのか、という指摘はもっともで、実現性は高いとはいえません。
神戸市側にメリットも
それでも、この構想には期待したいところ。実現すれば神戸市側にメリットがあるのも事実です。西神エリアから梅田へのアクセスが改善するだけでなく、大倉山や湊川エリアから大阪へのアクセスが便利になります。神戸市の灘区・東灘区から兵庫区、長田区、須磨区、西区をつなぐ交通軸にもなります。もちろん、西神・山手線の乗客増も多少は期待できるでしょう。
そして、西神エリアの「高齢化」対策にもなります。西神エリアはニュータウンですが、ニュータウンの高齢化は全国的な減少で、西神も例外ではありえません。大阪への通勤をラクにして、現役世代が住みやすいエリアにすることには、地域活性化に大きな意味があるといえます。
相鉄はやっている
首都圏では、相模鉄道が巨費をかけて東横線や横須賀線への乗り入れ工事を進めています。相鉄が自社の商業施設が集中する横浜を避ける形の路線建設に踏み切ったのも、やはり沿線の活性化をしなければという危機感があったからでしょう。
神戸市側には、直通運転によって三宮の地盤沈下を危ぶむ声もあるようですが、西神で現役世代の居住人口が増えれば、三宮も必然的に賑わうはずです。
費用がかかりすぎて実現性は薄いといわざるをえませんが、実現すれば大きな波及効果がありそうな相互乗入れ構想ではないでしょうか。