JR川越線の複線化は進むのでしょうか。契機となりそうな荒川橋梁の架け換えについて、複線化する場合、50億円が追加でかかることがわかりました。地元自治体は、難しい判断を迫られそうです。
輸送密度7万人の単線区間
JR川越線は、大宮~日進間3.7kmのみが複線で、残りが単線です。大宮~川越間の輸送密度は2021年度で71,629もあり、ほぼ全線が単線の路線としては、きわめて高い数字となっています。
そこで、地元自治体は長年にわたり川越線の複線化を求めてきましたが、JR東日本は「現在の利用状況で複線化の必要性は低い」と消極的な姿勢を貫いてきました。
調節池整備で
そこへ降って湧いてきたのが、国土交通省の荒川第二・三調節池整備事業です。調節池を整備するにあたり、川越線の荒川橋梁付近の堤防について、高さや幅が不足しているため、堤防の整備に合わせて川越線橋梁を架け換えることになりました。
このとき、どうせ架け換えるなら、単線ではなく複線で架け換えてはどうか、という意見が沿線自治体から浮上。複線橋梁にした場合、どの程度の追加費用が必要かという調査がおこなわれてきました。
その調査結果がこのほど公表され、複線橋梁を建設した場合、約50億円の追加費用が必要と明らかになりました。
5つの形態案
架け換えの形態案は、おおきく次の5つが検討されました。
●案1 現在線と別位置に単線で架け換え、複線化時は現在線の位置に単線橋梁を架ける
・1-1 既存の橋梁を撤去し、新設する
・1-2 既存の橋梁を補強し、活用する
●案2 現在線と別位置に単線で架け換え、複線化時は現在線と別位置に単線橋梁を架ける
●案3 現在線と別位置に複線で架け換える
・3A 下部工を複線構造とし、上部工も複線の桁を架ける
・3B 下部工のみ複線構造とし、上部工は当初単線の桁を1つ架ける
このうち、案1-1と2は、単線橋梁を2本作ることになるので、複線化のコストがより高くなります。
1-2は既存の橋梁を補強して複線化時に活用するもので、いわばコスト削減案です。しかし、今回の調査で、径間長と橋脚の位置で河川法の基準を満たせないことがわかりました。
したがって、既存橋梁の活用はできないという結論で、コストを削減した形での複線化案は不可能となりました。
暫定単線案のほうが高く
案3Aと3Bの違いは、シンプルに複線橋梁を作るのが3Aです。橋梁の下部構造を複線で作り、上部の軌道部分を単線で暫定的に整備するのが3Bです。3Aの追加費用が約50億円、3Bが約51億円となりました。
単線のみ暫定的に整備するよりも、複線で作ってしまった方が安い、という結果です。
意外に思えますが、暫定単線案の場合、軌道中心間隔を広げなければならないため、構造物の幅が広がり、建設費が増えてしまうということです。
一駅間だけ複線化?
ちなみに、橋梁区間を複線で作ったとしても、川越線の他区間での複線化計画はありません。橋梁区間は約1.3kmにとどまり、前後の区間を最大限複線化したとして、指扇~南古谷間4.7kmのみとなるでしょう。
橋梁部以外の複線化には、別途費用がかかりそうですが、一駅間が複線化されれば、よりダイヤが組みやすくなるのは確かです。
そうした点も検証したうえで、50億円を追加投資して、複線橋梁を作ってしまうのか。それとも下部構造のみ複線とし暫定単線で運用するのか。はたまた、複線化を諦めて単線橋梁の整備にとどめるのか。
単線橋梁にしてしまうと、日進~川越間の複線化の断念を表明するような形になってしまうので、沿線自治体としては避けたいところでしょう。
沿線自治体の財政力からみて、50億円は非現実的な金額とまでは言えないだけに、これから議論になりそうです。(鎌倉淳)